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第27話:『全自動相槌マシーン一号』の完成と、特許をめぐる大騒動

「……ふふ、ふふふふ。勝ったわ。今度こそ私の完全勝利よ」


三日後の放課後、私は夕暮れの赤みが差し込む北校舎の地下通路を、軽やかなステップで歩いていた。

ブレザーのポケットに両手を突っ込み、口笛でも吹きそうなご機嫌な足取りである。


なぜこれほど機嫌が良いのか?

理由は単純明快、あの偏屈な平民天才魔導具師――ヒューゴ・ベルンハルトから、「ブツができたから工房へ来い」という呼び出しの手紙が届いたからだ。


(まあ、呼び出しと言っても、どうせ『こんな無茶苦茶な注文、作れるわけねえだろ!』って逆ギレして泣きついてくるに決まっているのよ!)


私はほくそ笑んだ。

三日前、私はあの男の工房に殴り込み、講義中に爆睡するための「全自動で頷いて相槌を打つ首振り人形」を要求した。しかも、魔石の交換が面倒だからという理由で「動力は空間魔力を勝手に吸い上げる永久機関でよろしく」と言い放ち、裏紙に雑な数式の殴り書きを叩きつけて帰ってきたのだ。

前世の社畜時代で言えば、金曜の定時直前に下請け業者へ「予算ゼロ、納期三日で、AIが自律思考して勝手に売り上げを百倍にする基幹システムを組んで納品して」と無茶振りを叩きつけたようなものである。

できるわけがない。常識的に考えて、百パーセント破綻する案件だ。


(あいつが悔し涙を流しながら『無理だ!』と叫んだ瞬間、私は冷酷な笑みを浮かべて『平民の特待生なんてこの程度かしら? 期待して損をしたわ』と罵倒してやるのよ! そうすれば、誇り高き職人魂をズタズタに引き裂かれたヒューゴは私を激しく憎悪し、平民生徒たちの間で『公爵令嬢は横暴な搾取者だ』という悪評が燎原の火のごとく燃え広がる!)


完璧な筋書きだ。

貴族社会からの糾弾がダメなら、平民層からのボイコットによって「学園の風紀を乱す問題児」として停学、からの国外追放を勝ち取る。

南の島でのエンドレス有給休暇ライフへの切符が、いよいよ現実味を帯びてきたではないか。


「待っていなさいよヒューゴ、たっぷり蔑んであげるわ!」


私は不敵な笑みを浮かべ、錆びついた工房の鉄扉を勢いよく蹴り開けた。


***


――バァンッ!


「ごきげんようヒューゴ! 約束の三日後よ! 私の至高の注文、当然形になっているんでしょうね――って、うわっ!?」


扉を開けた瞬間、私は思わず袖で鼻と口を押さえて後ずさりした。

工房の中に充満していたのは、三日前を遥かに凌駕する濃密な白煙と、金属の焼けるツンとした強烈なオゾン臭。

そして、部屋の中央――真鍮の削り屑と歯車が散乱する作業机の前に、何やら人間らしき影が仁王立ちしていた。


「……来たか、エレオノーラ様」


ズルリ、と煙を切り裂いて現れたヒューゴの姿を見て、私はヒッと息を呑んだ。

酷い。

あまりにも酷すぎるビジュアルだった。

鳶色の髪は爆発したように逆立ち、作業着は焼け焦げてボロボロ、顔半分は黒い機械油と煤で覆われ、何より――その両目。

目の下にドス黒い隈を張り付かせ、瞳は血走り、しかしその奥には人魂のような怪しい燐光がギラギラと狂気的に燃え盛っていたのだ。

前世で、本番リリースの前日にサーバーが全損して七十二時間不眠不休で復旧作業を完遂したベテランインフラエンジニアのような、完全に理性のリミッターが外れた人間の顔である。


(な、何なのよ……!? この人、三日間一秒も寝てないんじゃないの……!?)


私がドン引きして固まっていると、ヒューゴは重々しい足取りで机に歩み寄り、黒く汚れた手のひらを、恭しく私の前へと差し出した。


「……できたぞ。あんたが寄越した、あの神の数式を元にな」


差し出された彼の掌の上。

紫のビロードの布の上に鎮座していたのは――手のひらにすっぽりと収まるサイズの、精巧極まりない工芸品だった。


深緑色の霊樹の木枠に、純白のミスリルと真鍮の極細ワイヤーが幾重にも複雑に編み込まれた、優美な楕円形のブローチ。

中央には指先ほどの極小の歯車が幾何学模様を描いて組み合わされ、外部からの魔力供給線など一切存在しないにもかかわらず、その歯車は――カチリ、カチリと、極めて微細で心地よいリズムを刻みながら、永久に止まることのない鼓動のように滑らかに回転し続けていた。

表面からは、大気中のエーテルが渦を巻いて吸い込まれ、淡い白銀の燐光がオーラのように立ち上っている。


「な……何よ、これ……」


私の口から、思わず素の声が漏れた。

えっ?

首振り人形は?

私が描いた、あのダッシュボードに置く鳥のオモチャみたいな雑なスケッチはどこへ行ったの?

目の前にあるのは、どう見ても王室の宝物庫に飾られていてもおかしくない、超一級の宝飾魔導具ではないか。


「名付けて――【全自動相槌マシーン一号】だ」


ヒューゴは嗄れた声で、しかし誇らしげに胸を張った。


「あんたの言う通り、首振り人形なんぞを机の上に置いたら目立ちすぎる。だから、制服の襟元にさりげなく装着できるブローチ型に集約した。……いいか、よく聞けよ。この内部には、あんたが描いた『受動的共鳴陣』が完璧な精度で縮小刻印されている」


ヒューゴは魔導ドライバーの先で、ブローチの極小の歯車を指し示した。


「大気中に偏在する環境エーテルを、幾何学的な共鳴によって自律的に吸引・励起させる。魔石の装填は一切不要、燃料補給もなし。半永久的に自己駆動し続ける、完全なる外部無動力機関だ」


(……は? ほんとに永久機関作っちゃったの、この人!?)


私の背筋に冷汗がツッと流れた。

冗談のつもりだったのだ。前世の「仕様書に無茶を書いて現場を困らせる無能上司」のムーブを再現して嫌われるはずだったのに、この男、本当に大気から無尽蔵にエネルギーを取り出す物理法則ブレイカーを完成させてしまっている。


「だが、真の傑作たる所以は、その制御システムにある」


ヒューゴの琥珀色の瞳が、妖しくギラリと光った。


「このブローチを襟元に着けると、裏面に仕込んだ極細の擬似神経繊維が、装着者の首筋の皮膚に痛みを伴わず接触する。そして、周囲の音響振動を感知し、一定の周波数――すなわち『教授の講義特有の単調な語り口』を認識した瞬間、装着者の頚椎を支える筋肉へ、極めて微弱な魔力パルスを送信するんだ」


「パルス……?」


「そうだ。装着者がどれだけ深い睡眠に落ちていようが、白目を剥いて意識が完全に飛んでいようが関係ない。パルスを受けた筋肉が反射的に収縮し――三分に一度、深く、規則正しく、いかにも『感銘を受けている風』に、頭を上下にコクコクと頷かせる!」


「…………!!」


「さらに! 教壇の人間が『つまり』『重要なのは』『結論として』といった接続詞を発した瞬間、指向性の微細共鳴波が喉の気道をかすかに圧迫する。それによって、装着者の声帯を無意識下で微振動させ――『……なるほど』『……確かに』『……一理あるな』という、低く知性あふれる呟きを、周囲にだけ聞こえる絶妙な音量で自動発声させるんだ!!」


ヒューゴはドンッ!と胸を叩き、狂気じみた満面の笑みを浮かべた。


「どうだッ! これさえあれば、どれだけ盛大に舟を漕いで涎を垂らしていようと、教壇の教授からも周囲のガリ勉貴族どもからも『おお、エレオノーラ様は今日も深遠な哲学を巡らせながら講義を咀嚼しておられる!』としか見えなくなる! あんたが求めていた、究極の居眠り支援マシーンの完成だ!!」


静寂。

工房の中に、歯車のカチカチという規則正しい微小な回転音だけが響いていた。


私は、掌の上のブローチをまじまじと見つめた。

そして――。


「……す、素晴らしいわ……!!」


私の口から、感涙の叫びが迸り出た。

悪評? 停学? 国外追放?

そんなものは一瞬で私の脳内ゴミ箱へとダンクシュートされた。

何よこの神アイテムは!

自動で頷く! 自動で「なるほど」と呟く!

しかも永久機関だから電池切れの心配もゼロ!

これさえあれば、私はあの退屈極まりない魔導史の講義中、最後列の窓際で堂々と意識を失い、夢の中でトロピカルジュースを飲み放題ではないか!


「天才よ! 貴方、紛れもない天才だわヒューゴ!!」


私は感動のあまり、ヒューゴの手からブローチを引ったくるように受け取ると、愛おしそうに胸に抱きしめた。

前世の社畜時代、全社定例会議のたびに「誰か私の代わりに頷いてくれ」と神に祈っていたあの怨念が、異世界の技術によって完全に成仏していくのを感じる。


「リディエ! 金貨袋を出しなさい!」


私が叫ぶと、背後で控えていたリディエが、ずっしりと重い革袋を無言で差し出してきた。

私はそれを、ヒューゴの作業机の上へとドカン!と叩きつけた。

紐が解け、中から眩いばかりの純金貨が数十枚、ジャラジャラと机の上に溢れ出る。


「取っておきなさい! お釣果は要らないわ! 追加のチップよ! 美味しい肉でも食べて、ふかふかのベッドで泥のように眠りなさいな!」


私はブローチを制服のブレザーの襟元へとパチンと装着した。

その瞬間、首筋にひんやりとした心地よい刺激が走り、体内の魔力とブローチの回路がカチリと同期する感覚があった。

完璧だ。作動状態は良好。


「ふふ……あははは! これで明日の講義は丸ごと爆睡よ! 感謝するわヒューゴ、貴方の技術に乾杯ね!」


私は至高のアイテムを手に入れた喜びに打ち震えながら、鼻歌まじりに工房を飛び出していった。

明日からの至福の居眠りライフに思いを馳せながら。


――しかし。

黄金の山を作業机に残されたヒューゴは、去っていく私の背中を、まるで神仏の降臨を見送る信徒のような、濡れた瞳で見つめていたのである。


「……金貨の山、か」


ヒューゴは震える手で、机の上の金貨を一枚拾い上げた。


「報酬なんぞ、一銭も要らなかったんだ……。俺の行き詰まっていた研究の扉を、あの人はたった一枚のメモで蹴破ってくれた。それどころか……完成した試作品を見て、あんなにも無邪気に、心からの笑顔で俺の技術を認めてくださった……」


ヒューゴの胸の奥底から、熱いものが込み上げてくる。

貴族を憎み、世界を呪っていた偏屈な職人の心が、完全に撃ち抜かれた瞬間だった。


「エレオノーラ様……。あんたは俺に金を与え、技術を与え、そして『居眠りグッズ』というふざけた仮面を被せて、この世紀の技術を俺一人に独占させようとしてくれたのか……? 馬鹿野郎……そんな不義理が、このヒューゴ・ベルンハルトにできると思うかよ……ッ!」


ヒューゴは机の引き出しから、この三日三晩、血反吐を吐きながら書き殴った分厚い羊皮紙の束――【論文および特許申請書類】を引っ張り出した。

表紙には、誇らしげな太文字でこう記されている。


『空間エーテル自律励起理論に基づく自律駆動型魔導具の構造と制御――至高の怠惰理論による工学的実践』


「見てろよ、エレオノーラ様……。あんたの気高い魂と、その深淵なる怠惰の哲学……この俺が、世界中に知らしめてやるからなァッッ!!」


ヒューゴは書類を抱え、夜の闇の中、学園長室へと向けて全速力で疾走していったのである。


***


翌朝――王立貴族学園、本館最上階【学園長室】。


――ガタガタガタガタッ!!


重厚なマホガニーの扉が、壊れんばかりの勢いで打ち鳴らされていた。

部屋の中にいたのは、学園長である老魔導士ヴァルターをはじめ、王立魔導アカデミーの教授陣、さらには王宮の特許審査院から緊急招集された最高幹部たち十数名。

彼らは全員、血の気の引いた顔で、部屋の中央のガラステーブルを車座になって囲んでいた。


「し、信じられん……」

「あり得ない……現代の魔導工学の常識が、根底から覆されている……!」


テーブルの上には、昨夜ヒューゴが提出した論文の束と、彼が徹夜で急造したもう一機の『全自動相槌マシーン(スケルトン構造の実験機)』が置かれていた。

魔石のソケットは空っぽ。

それなのに、内部の極小の歯車は、大気中のエーテルを吸い上げて青白い燐光を放ちながら、カチリ、カチリと永久に動き続けている。

過熱もない。魔力の減衰もない。完全なる自律駆動。


「ヴァルター学園長……! 特許審査院の全魔導計測器で鑑定いたしましたが……不正な外部魔力供給の痕跡は一切見当たりません!」

「大気中のエーテルを、受動共鳴陣によって直接トルク運動へと変換している……! 古代神話に記された【永久機関】の完全なる再現ですぞ!!」


特許院の長官が、涎を垂らしながら論文の数式に齧り付いていた。

教授たちが頭を抱え、腰を抜かし、ある者は感涙に咽び泣いている。

何百年もの間、大陸中の何万人もの魔導学者が莫大な国家予算を投じてもミリ単位すら解明できなかった「空間魔力の直接変換技術」。

それが、たった数十ページの論文で、完璧に、寸分の狂いもなく論理的に証明されていたのだ。


これがあれば、兵器の概念が変わる。

民生の産業構造が変わる。

魔石の枯渇に怯える必要がなくなり、世界のエネルギー問題が根底から解決する。

人類の歴史を、一瞬で百年前倒しにしてしまうほどの超特大の産業革命の火種が、今、目の前で静かに歯車を回していた。


「ベルンハルト君……ッ!」


学園長ヴァルターは、部屋の隅で煤まみれの作業着のまま腕を組んでいたヒューゴの元へ駆け寄り、その両手を震えながら握りしめた。


「君は……君という男は、なんという奇跡を起こしたのだ……! 平民の身でありながら、世界の理を書き換える世紀の大発明を成し遂げるとは……! 君の名は歴史に刻まれる! 王立アカデミーの最高栄誉賞、終身教授の座、そして国家からの莫大な特許使用料……君は今日から、この国の頂点に立つ大英雄だ!!」


教授陣から割れんばかりの拍手が巻き起こる。

平民特待生に対する蔑視など、もはや影も形もなかった。彼らはただ、目の前の若き巨人を畏怖の眼差しで見上げていた。


――しかし。

ヒューゴは、その差し出された名誉の手を、フッと冷笑を浮かべて払いのけたのだ。


「……勘違いするな、爺さんたち」


ヒューゴの声は、低く、静かに部屋中を制圧した。


「俺の手柄だと? 笑わせるな。俺の頭だけで、こんな神の領域の数式が組めるわけねえだろうが」


「……何だと?」


ヴァルター学園長が目を白黒させる。

ヒューゴは懐から、一枚の押しピンの跡がついた黄ばんだメモ用紙を取り出し、学長たちの前のテーブルへと叩きつけた。

そこには、殴り書きされた首振り人形の落書きと、その下に流麗に走る古代魔力の幾何学数式。


「この理論のすべてを……空間エーテル励起の真理を、俺に授けてくださったお方がいる」


ヒューゴは誇らしげに顎を上げ、その名を高らかに講堂の天井へと響かせた。


「グランヴェル筆頭公爵令嬢――エレオノーラ様だ!!」


「「「な……何だってェェェェェッッッ!?!?!?」」」


学園長室が、文字通り激震した。

教授たちが椅子から転げ落ち、書類が宙を舞う。


「エ、エレオノーラ閣下が……!? あの、王都を飢饉から救い、千年の瘴気を浄化されたという、あの御方が……!?」

「そうだ」


ヒューゴの瞳に、狂信的な情熱の炎が宿る。


「あのお方は、俺の工房へ単身で乗り込んでこられた! そして、俺が何年も研究に行き詰まり、既存の理論の檻の中で足掻いていたのを見抜き……あえて『授業中に居眠りをするための玩具を作れ』という皮肉を口にしながら、この神の数式を俺の目の前に叩きつけていかれたのだ!」


ヒューゴは拳を握りしめ、熱狂的に叫んだ。


「『工学の理論なんて小難しくこねくり回してないで、動けば官軍なのよ』……あのお方はそう仰った! 最小の労力で、最大の成果を叩き出し、あらゆる無駄を削ぎ落として自然の理と調和する……! これこそが、エレオノーラ様が提唱される新時代の魔導工学思想――【至高の怠惰理論】だッッ!!」


「し、至高の……怠惰理論……ッ!!」


ヴァルター学園長は胸を掻きむしり、その場に膝をついて涙を流した。

教授たちが一斉にハンカチを目に当てて嗚咽を漏らす。


「なんと……なんという深淵なる思想だ……!」

「怠惰とは……怠惰とは、怠けることではなく、宇宙の最小作用の原理に従い、無駄な摩擦を極限までゼロにする究極の調和の道であったか……!」

「あのお方は……己の偉業を誇ることもなく、居眠りという最も卑近な隠れ蓑を被り、不遇な平民の若者に世紀の大発明の栄誉を譲られたのだ……! どこまで……どこまで無私で、どこまで世界を愛しておられるのだ、エレオノーラ様は……ッ!!」


「学園長! 直ちに特許の連名申請を!」

「いや、特許などという矮小な枠に収めてなるものか! 国王陛下に直訴状を送り、エレオノーラ閣下に【国家筆頭魔導工学名誉顧問】の称号と、永久研究費の支給を具申するのだァァァッ!!」


学園長室は、熱狂と感動の嵐に包まれ、そのまま王宮を巻き込む国家規模の特許認可騒動へと突き進んでいったのである。


***


――そして、その頃。

大講堂の最後列、日当たりの良い窓際の特等席では。


「すぴー……すぴー……むにゃむにゃ……だから言ったじゃない、課長……その修正は来週の月曜でいいのよ……」


私は、机の上に肘をついた姿勢のまま、完全に意識をシャットダウンして爆睡していた。

まぶたの裏に広がるのは、青い海、白い砂浜、そしてヤシの木に揺れるハンモック。

口元からは一筋の透明な涎がツーと垂れ下がっている。


しかし――私の制服の襟元につけられた『全自動相槌マシーン一号』は、神がかり的な仕事ぶりを発揮していた。


カチリ、カチリ。

教壇に立つオズワルド教授が「――ゆえに、この古代術式は……」と熱弁を振るうたび。

私の頸椎の筋肉が微小なパルスで刺激され、私は眠りこけたまま、深く、ゆったりと、いかにも知性あふれるリズムで「コク……コク……」と深く頷いていた。


さらに、教授が「つまり、魔導の歴史とは!」と声を張り上げた瞬間。

私の喉がかすかに振動し――。


「…………なるほど」


低く、透き通った、深淵なる理解を示す完璧な呟きが、教室の後方に小さく響き渡った。


「「「おお……ッ!!」」」


前列の生徒たちが一斉に息を呑み、感動に震えて振り返る。

教壇のオズワルド教授は、眼鏡を涙で濡らしながら胸を押さえていた。


「素晴らしい……! エレオノーラ様は、私の拙い講義の核心を一瞬で見抜き、あのように深く噛み締めておられる……! なんと尊い学習意欲であられるか……!」


教室中から注がれる、割れんばかりの尊敬と崇拝の眼差し。

その中心で、私はただひたすらに、涎を垂らしながら至福の有給休暇の夢を貪り続けていた。


自らの襟元についたサボりグッズが、世界を揺るがす産業革命を引き起こし、知らぬ間に国家最高峰の技術顧問の座へねじ込まれていることなど――夢見る元社畜OLは、これっぽっちも気づいていなかったのである。

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