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第17話:札束で横面を張り倒すスタイル(※ただし超絶ホワイト雇用)

「……ふう。美味しかったわ。マンゴーの甘みと黄金桃の酸味、そしてマスカルポーネのクリームが織りなす三位一体のアンサンブル。これぞ現世のオアシスね」


高級サロン『カフェ・ド・フルール』の最上階特別室。

豪奢な銀のスプーンを置いた私は、至福のため息をつきながら、優雅にナプキンで口元を拭った。

高さ三十センチを超える特製タワーパフェは、私の胃袋の中へと綺麗さっぱり消滅していた。

甘味は正義だ。前世で理不尽なトラブルに巻き込まれ、徹夜で修正作業を押し付けられた時も、深夜のコンビニで買った少し高いプリンだけが私の心の防波堤だった。

美味しいスイーツを腹一杯食べる。それだけで、人間はたいていの怒りを水に流せるはずなのだ。


――そう、流せるはずだった。


「お嬢様、お帰りの馬車を裏口へ回してございます」

「ありがとうリディエ。……って、ちょっと待ちなさい」


立ち上がりかけた私は、ふと自らのドレスに視線を落とし、再び全身の血が逆流するような感覚に襲われた。

純白のシルク。

真珠の光沢。

その裾に、こびりついたままの――あの忌々しい、泥水の黒い斑点。


「……思い出したら、また腹が立ってきたわ」


パフェの糖分で一時的に麻痺していた前世のトラウマが、秒速で目を覚ました。

私の大切なドレス。私の優雅な一日。

それを台無しにした元凶は、今なおカフェの裏手に広がっている、あのぬかるんだドブ泥道だ。


「クリストフ! 例の件はどうなったの!?」


私が個室の扉を勢いよく開け放つと、廊下で胃薬を握りしめて待機していた筆頭執事のクリストフが、ビクッと肩を跳ねさせて飛び込んできた。


「お、お嬢様……! 例の件、と申しますと……あの泥道の舗装工事の件でございますね?」

「当たり前でしょう! 王都中の土木ギルドと石材ギルドは押さえたの!? すぐに工事に取り掛かれるんでしょうね!?」


私の苛立ちに満ちた問いかけに対し、クリストフは額から脂汗を噴き出させながら、手元の羊皮紙を震える指でめくった。


「そ、それが……王都の主要な三代土木ギルドの会頭に早馬を飛ばしたのですが……どこも『急な話で対応できかねる』と難色を示しておりまして……! なんでも、王宮前の大通りの改修工事に人手を取られており、資材の調達に最低一ヶ月、熟練の石工の手配に二週間は必要だと……」

「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


私の喉から、怪獣のような唸り声が漏れ出た。

二週間? 一ヶ月?


「ふざけるんじゃないわよ!! 二週間もあの泥道を放置しろって言うの!? 明日、私がまたパフェを食べに来る時に、また裾を汚せって言うわけ!? 納期を一ヶ月遅延させる気!? 前世のデスマーチを舐めてんじゃないわよ!!」


「で、ですがお嬢様、道路の舗装とは本来そういうものでございまして……! 設計図を引き、認可を取り、地盤を固め、石を切り出す……最短でも数ヶ月はかかる大事業なのですぞ!」

「知るか!! 客が今すぐ欲しいと言ったら、徹夜で資材をかき集めて明日までに納品するのが現場の意地でしょうが!!」


前世のブラック企業で培われた、完全に狂った納期感覚が炸裂した。

理不尽なトップダウン命令に泣かされてきたはずの私が、今や理不尽を撒き散らす絶対君主と化している。

だが、今の私には無限の財力がある。

金で解決できない問題など、この世に存在してはならないのだ!


「業者を手配していたら埒が明かないわ! 降りるわよ、現場へ!」


私は裾を乱暴につまみ上げ、カフェの裏口へと大股で突進していった。


***


カフェの裏手、薄暗い路地に出た瞬間、生ぬるい風が鼻腔を突いた。

足元には、依然として濁った水たまりと、ヘドロのぬかるみが広がっている。

そして――。


サッ……!


私たちが姿を現した瞬間、路地の物陰から、何十人もの人間が一斉に身を竦ませ、物陰へと隠れる気配がした。

ボロボロの布を纏った、痩せ細ったスラムの住人たちだ。

先ほど私の怒声を聞きつけ、「スラム街ごと抹殺される」と絶望していた哀れな貧民どもである。

壁の隙間から、怯えた無数の瞳が、まるで死刑執行人を待つ罪人のように私を凝視している。


(……チッ、何よあの目。こっちをジロジロ見ちゃって)


私は腕組みをし、周囲の路地を冷酷な眼差しで見渡した。

道端に座り込んでいる屈強な浮浪者。

暇そうに煙草の吸い殻を弄んでいる無職の男たち。

飢えと退屈で死にかけている、健康そうな腕っ節の持ち主たち。


(……待ちなさいよ?)


私の脳内で、前世のプロジェクトマネージャーとしての計算機が、ピピピッと音を立てて高速回転を始めた。


職人が足りない?

土木ギルドに人手がいない?

馬鹿をお言いなさい。

ここにいるじゃないの。

手足が二本ずつ付いていて、力仕事ができそうな人間が、こんな路地裏に文字通り山ほど転がっているではないか!


「クリストフ」

「は、はひっ!?」

「公爵家の金庫から、手持ちの現金をありったけ持ってこさせなさい。今すぐよ」

「えっ……? げ、現金でございますか……? 馬車の非常用金庫に、金貨の革袋がいくつか積んでございますが……」

「全部持ってきなさい!」


数分後。

御者が青ざめた顔で運んできた、ずっしりと重い革袋を、私は引ったくるように受け取った。

紐を解くと、中からジャラリと黄金色の輝きが溢れ出る。

純度百パーセントの王室金貨。一枚で庶民が一ヶ月は贅沢に暮らせるという、紛れもない富の塊。


私はその金貨の束を、惜しげもなく右手に鷲掴みにした。

そして――路地のど真ん中へ仁王立ちし、天へと向かって高らかに掲げてみせたのだ。


キラリと、初夏の陽光を反射して眩い黄金の光がスラムの薄暗がりを照らし出す。


「おい!! そこの怠け者ども!! 耳の穴かっぽじって、よーく聞きなさい!!」


私の怒声が、静まり返っていたスラム街の路地に雷鳴のように轟いた。

物陰に隠れていた貧民たちが、ビクゥッ!と一斉に肩を跳ねさせる。


「いつまでそうやって地面に這いつくばって、泥水をすすっている気よ! 暇を持て余しているなら、その無駄に太い腕を動かしなさい! 今すぐスコップとツルハシを持って、この区画の泥を端から端まで掘り返すのよ!!」


私は金貨をジャラジャラと掌の上で踊らせながら、これ以上ないほど尊大に、これ以上ないほど傲慢に、道端の男たちを指差した。


「石材なら公爵家の倉庫にある庭園用の敷石をありったけ運ばせるわ! お前たちの仕事は、泥を掻き出し、地盤を固め、その上に石を隙間なく敷き詰めること! それだけよ! 今日の夕方、日没までにこの通りを完璧な石畳に仕上げなさい!!」


無茶苦茶な命令だった。

素人の浮浪者たちに、たった数時間で道路の舗装を完了させろというのだ。

前世なら労基署が一発で飛んでくるレベルの暴君ムーブである。


そして、私はトドメとばかりに、札束……ならぬ金貨の束を、男たちの足元目掛けてジャラジャラと投げ散らかした。


「日没までに完成させたら、作業に参加した全員に、一人頭【金貨三枚】をその場で耳を揃えて即金で支払ってあげるわ!! ただし! 手を抜いたりサボったりした奴は、その場でつまみ出して一銭もやらないからそうお思いなさいッ!!」


言い放った。

金をチラつかせて貧民を顎で使い、過酷な突貫工事を強要する。

これぞ、持てる者の暴虐。

これぞ、札束で横面を張り倒すスタイルの悪徳貴族だ!


(ふふん! どうかしら! こんな理不尽な命令を下されたら、誇りある人間なら『俺たちを金で買う気か!』って暴動を起こすはずだわ! さあ怒りなさい! 公爵令嬢を糾弾しなさい!!)


私は勝利を確信し、冷酷な笑みを浮かべて貧民たちの反応を待った。


――しかし。

路地を支配したのは、怒号ではなかった。

息を呑む音。

そして――狂気じみた、完全な静寂だった。


***


「……き……きん……」


物陰でボロ布を握りしめていたルカの父親――元石工の男、ガストンは、自らの目を疑っていた。

耳を疑っていた。

足元に転がってきた、眩い黄金の輝き。

泥の上に落ちてもなお、曇ることのない純金の輝き。


「……金貨……三枚……?」


ガストンの唇が、カタカタと音を立てて痙攣した。

聞き間違いではない。

今、あの美しくも恐ろしい公爵令嬢は、はっきりとそう言ったのだ。

『日没までに仕上げたら、一人頭に金貨三枚』――と。


金貨三枚。

それは、王都の一般的な職人が、朝から晩まで汗水垂らして二ヶ月間働いて、ようやく手にできる大金だった。

スラム街の住人にとっては、半年……いや、節約すれば一年間、家族全員が飢えることなくパンとスープを口にできる、天文学的な富だ。


ガストンは数年前、事故で足を痛めてギルドをクビになり、このスラム街へと流れ着いた。

仕事はない。

あるのは、ゴミ捨て場から拾った腐りかけのパンを奪い合う日々。

幼いルカが「お腹が空いた」と泣くたびに、己の無力さに胸を掻きむしり、泥水をすすって飢えを紛らわせていた。

今日も、公爵令嬢の怒声を聞き、「ついにスラムが焼き払われ、自分たちは虫ケラのように殺されるのだ」と、死を覚悟して震えていたのだ。


それなのに。


(……殺されるんじゃ……ない……?)


ガストンの濁っていた瞳に、サーッと血が通い始めた。


(仕事だ……。あのお方は、俺たちを殺しに来たんじゃない……! 仕事を……このドブ泥の中に埋もれていた俺たちに、生きるための仕事を下さったんだ……!!)


しかも、たった半日の労働で、金貨三枚。

前金として足元に投げ出された本物の金貨。

詐欺ではない。王族すら頭が上がらないグランヴェル筆頭公爵家の一人娘が、嘘をつくはずがない。


「……おい」


隣にいた、飢えで骸骨のように痩せ細った若い男が、震える声で呟いた。


「俺たちゃ……夢を見てるのか……?」

「夢なもんかよッッッ!!!!」


ガストンは咆哮した。

足の痛みなど忘れた。

飢えによる眩暈など吹き飛んだ。

彼は泥の中から金貨を拾い上げると、天に向かって掲げ、スラム街の全域に響き渡る怒号を上げた。


「聞いたか野郎どもォォォッ!! 仕事だァッ!! 金貨三枚だァッッ!! 今日の飯が! 明日の命が! 家族の未来が手に入るぞォォォッ!!」


――ドォォォォォォォンッッッ!!!!


スラム街が、爆発した。

長屋の扉が蹴破られ、路地裏の物陰から、何百人もの男たちが、女たちが、血走った目を輝かせて雪崩を打って飛び出してきた。


「スコップだ! スコップを持ってこい!」

「ツルハシがねえなら素手で掘れ! 泥を掻き出せッ!」

「金貨三枚だぞ! 死ぬ気で働けェェェッ!!」


阿鼻叫喚のパニック――ではない。

それは、生きる希望を取り戻した人間たちが放つ、凄まじい熱気と歓喜の狂乱だった。

男たちが泥の中に飛び込み、手際よく排水溝を掘り始める。元職人たちが陣頭指揮を執り、瓦礫を撤去し、地盤を平らにならしていく。

飢えで死にかけていたはずの人々の動きとは到底思えない、神がかり的な爆速工事が幕を開けたのだ。


***


「……えっ? ちょ、ちょっと何なのこの人たち……怖っ」


私は思わず二、三歩後退り、馬車の車輪に背中をぶつけた。

目の前で繰り広げられている光景が、私の予想の斜め上を時速三百キロで突き抜けていた。

怒るどころか、全員が目の色を変えて泥を掘り返している。

まるで、ゴールドラッシュに沸く金鉱山のような狂気の熱気だ。


(……あ、そうか。金貨三枚って、この世界だと結構な大金だったかしら?)


前世の感覚で「日給三万円くらいでバイトを釣るか」くらいのノリで手持ちの金貨を投げたのだが、どうやら相場を大幅に破壊してしまったらしい。

まあいい。金なら公爵家の金庫に腐るほどある。

問題は――。


「……ハァ……ハァ……ッ」


目の前でツルハシを振るっていた大男が、過呼吸を起こして泥の上に膝をついた。

見れば、腕は骨と皮ばかり。唇は乾燥でひび割れ、今にも栄養失調でぶっ倒れそうな顔をしている。

他の男たちも、気迫だけで動いてはいるものの、足元がおぼつかない者がちらほら見受けられた。


――ズキリ。


私のこめかみに、前世の忌まわしい記憶の針がチクリと刺さった。


デスマーチ。

納期直前の修羅場。

ろくに食事も取らず、エナジードリンクだけで無理やり体を動かし、現場でバタバタと倒れていく同僚たち。

そして――最後に自分自身が過労死した、あの最悪の結末。


(……ダメよ。これはダメ)


私の元社畜管理職としての本能が、猛烈な拒絶反応を示した。

作業員が現場で倒れたらどうなる?

作業ラインがストップする。

納期が遅延する。

何より――私の目の前で人間が過労死する姿なんて、胸糞悪くて二度と見たくない!


「クリストフッ!!」

「は、はひぃっ!? 今度は何でございましょうかァッ!?」

「何突っ立ってるのよ! 見なさい、あいつらのあの貧相な体を! あんな飢え死にしそうな連中に作業させたら、途中で行き倒れて私の石畳の上に死体が転がることになるじゃないの!」


私は腰に手を当て、顎をしゃくって怒鳴りつけた。


「腹が減っては戦はできぬって言うでしょうが! 公爵邸の厨房と、近くの高級宿屋の厨房を今すぐ全部押さえなさい! 大鍋で牛肉のシチューを五十樽! 焼きたての白パンを千個! 焼きソーセージとエールをありったけ用意して、この広場に持ち込ませなさい!!」


「は、はいぃっ!? 労働者への食事の提供でございますか!?」

「そうよ! あと清潔な飲料水と塩分補給用の塩も用意しなさい! 一時間おきに強制的に十五分の休憩を取らせて、腹一杯肉を食わせるのよ! 空腹で作業効率が落ちたら、私のパフェの時間が遅れるでしょうが!! さあ早く走りなさい、愚図ッ!!」


「しょ、承知いたしましたァァァッ!!」


クリストフは悲鳴を上げながら馬車へと飛び乗り、厨房部隊の手配へと走り去っていった。


ふん、と私は鼻を鳴らした。


(どうよ! 飯を食わせて無理やり働かせる、逃げ場のない超絶ブラック労働よ! 『飯を食わせたんだから死ぬ気で働け』っていう、資本家の最も悪辣な手口だわ! これで私の悪名は、スラム街の搾取者として歴史に刻まれるに違いないわね!)


私は自らの完璧な悪行にニヤリと笑った。


――しかし。

数十分後、現場に運び込まれた湯気を立てる山盛りの牛肉シチューと、香ばしいパンの山を見たスラムの住人たちの反応は。

私の思い描いた「搾取への怨嗟」とは、銀河系三つ分ほどかけ離れたものだった。


***


「う……うまい……! 肉だ……! 本物の牛肉が、ゴロゴロ入ってやがる……!」

「パンが……こんなに柔らかくて甘いパン、生まれて初めて食ったよぉぉぉっ……!」


スラムの広場は、前代未聞の炊き出しフェスティバルと化していた。

配られた木皿から立ち上る、濃厚なデミグラスソースの香り。

スプーン一杯の温かいシチューを口に流し込んだ男たちが、女たちが、子供たちが、ボロボロと大粒の涙をこぼしながら貪り食っていた。


金貨三枚という破格の報酬。

一時間おきの適正な休息。

清潔な水と塩の支給。

そして――貴族の晩餐会に出されるような、最高級の温かい肉料理の無制限の提供。


現代の地球基準で見ても「超絶ホワイト」な神待遇が、この王都で最も見捨てられていたスラム街に、突如として降り注いだのだ。


「あのお方は……」


シチューを飲み干したガストンは、震える手で皿を抱きしめ、遠くの馬車を見つめた。

馬車のステップに腰掛け、不機嫌そうにつま先を揺らしている、深紅の瞳の公爵令嬢。

彼女は言った。

『空腹で作業効率が落ちたらイライラする』――と。


「……違う」


ガストンの目から、熱い涙が泥だらけの頬を洗い流すように溢れ出た。


「あのお方は……俺たちが飢えているのを見て……プライドを傷つけないように、あえて悪態をついて、この極上の飯を恵んでくださったんだ……! 『サボるな』と言いながら、一時間ごとに休めと命じるなんて……こんな温かい雇い主が、この世のどこにいるってんだ……!!」


「ガストンさん……!」

「野郎ども、聞いたなッ!!」


ガストンは立ち上がり、ツルハシを天高く突き上げた。

その背後で、腹を満たし、活力を取り戻した何百人もの男たちが、地鳴りのような歓声とともに立ち上がる。


「エレオノーラ様は、俺たちをゴミクズ扱いしなかった! 正当な労働者として、最高の飯と、最高の金を下さったんだ! この恩を仇で返すような真似ができるかァッ!!」

「「「できるわけねえだろうがァァァッッッ!!!!」」」

「日没までじゃねえ! あと二時間で、王宮の前庭よりもピッカピカの石畳を敷き詰めてみせるぞッ! エレオノーラ様に、俺たちの本気を見せてやれェェェッ!!」


「「「うおおおおおおおおおおっっっっ!!!!」」」


士気ゲージが天元突破したスラムの住人たちは、もはや重機の如き凄まじいスピードで作業へと戻っていった。

泥が掻き出され、運ばれてきた公爵家の最高級御影石が、寸分の狂いもなく敷き詰められていく。

それは、労働ではなかった。

彼らにとって、それは自らを救い出してくれた「慈愛の聖女」へ捧げる、魂の奉納儀礼そのものだったのだ。


***


「……えっ? 何なのあいつら。急に動きが三倍速になったんだけど」


馬車の窓からその光景を眺めていた私は、ドン引きしながらアイスティーをすすっていた。

シチューを食べさせた途端、男たちの目がギラギラと輝き出し、ものすごい勢いで石畳が敷設されていく。

ドロドロだった路地が、まるで魔法のように、美しく平坦な石の絨毯へと塗り替えられていくのだ。


「お嬢様の的確な労務管理の賜物でございますね。カロリーの補給と休息の義務付けにより、作業効率が通常の四百パーセントを記録しております」

「労務管理って言わないでリディエ。前世の胃痛が蘇るから」


私は頭を抱えた。

おかしい。

私はただ、泥道にブチギレて、金をばら撒いて、現場監督のノリで怒鳴り散らしただけなのだ。

それなのに、なぜか現場はかつてないほどの活気と感動に包まれ、王都の最凶スラム街が、前代未聞の超絶ホワイト職場へと生まれ変わってしまっている。


「……ま、まあいいわ。夕方には綺麗な道ができるなら、私の目的は達成よ」


私は気を取り直し、シートの背もたれに深く寄りかかった。

完成した石畳の上を優雅に歩いて帰ればいい。

そして明日には、この我儘な公共工事の私物化が貴族院で問題視され、私への弾劾状が届くに違いないのだから。


――しかし。

この時、私が気まぐれに敷き詰めさせたその分厚い御影石の真下で。

王都の裏社会を支配する「隣国の闇の支配者」が、自らのアジトの出入口を物理的に完全封鎖され、泡を吹いて卒倒しかけていることなど――私はこれっぽっちも知る由がなかったのである。

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