表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/14

意味不明

 初デートの翌日。

 昨日の疲れがまだ残っているものの、悠月はいつも通りバイトへと向かった。



「いつも元気ないけど、今日は特にそう見えるよ」


 少し忙しくしていると、澪が話しかけてきた。


「えっと、昨日ちょっと疲れてしまいまして……でも仕事に支障はないと思いますので、ご安心ください」

「ん?何かあったの?」

「別に。一日中振り回されてただけです」

「相手は男?それとも女の子?」


 澪は一瞬で距離を詰めた。


 そのキラキラした目に気圧されて、悠月は思わず二歩ほど後ずさった。


「えーと……女性の方ですけど……どうかしましたか??」

「もしかして彼女さん?」

「いいえ、ただの知り合いです。知り合ってまだ日も浅いですし……」

「へえ〜、そうなんだ?知り合ったばかりなのにデートしちゃうなんて、脈ありじゃん!」

「はい?」

「あの子、もしかしたら初鹿野さんに興味あるのかもよ?」

「それはないです」


 悠月は迷うことなく、その勝手な憶測をバッサリ否定した。


 彼の考えは少しも変わってはいない。

 ひまわりが自分に絡んでくるのは、ただの偶然が重なった結果に過ぎない。


「創作のインスピレーションが欲しいな~。恋バナがあったらぜひ教えて!応援してるよ」

「だから違うって言ったじゃないですか……?」


 勝手に喋って、勝手に行ってしまう。

 その背中を見送りながら、ついため息を漏らした。



 時間が経つにつれて、疲労はじわじわと積み重なっていった。

 それでも悠月は、なんとか気力だけで退勤まで持ちこたえた。


 店を出ると、沈みかけた太陽が街をオレンジ色に染めていた。

 

 その光を浴びた瞬間、張り詰めていた神経がふっと緩んだ。

 思わずあくびをこぼした、その時。

 ポケットのスマホが震える。


 取り出して画面を見ると、ひまわりからの着信が表示されている。


 なぜ急に掛けてきたのかは分からないけれど、とりあえず応答ボタンを押す。


「あっ。悠月さん、夜暇?」

「たぶん暇じゃない」

「えー、残念だな。本当は収録の後、一緒に晩ごはんでもどうかなって思ってたんだけど」

「そうか。他にないなら切るぞ」

「ったく……昨日デートしたばっかなのに、なんでそんなに素っ気ないんだよ〜!」

「じゃあな」


 雑談に付き合う気力もなく、そのまま電話を切った。

 

 すると、怒り顔のスタンプが立て続けに届いた。


 どう返せばいいか分からないので、無視することにする。どうせ本気で怒っているわけじゃないし。


 ふと、スマホに付いた月のチャームに目が留まった。

 これは昨日の帰り道、ひまわりにうるさく言われたので、仕方なく付けたもの。


(でも……悪くない、か)


 そう思いながらスマホをポケットにしまい、病院へと続く道を歩き出した。



「昨日楽しかった?ちゃんとリフレッシュできた?」


 悠月が病室に入ると、星絵は好奇心いっぱいの目で問いかけた。


「死ぬほど疲れてただけだ」

「でも、その顔は楽しそうに見えるよ?」

「まぁ、どうかな」


 そう言いながら、悠月は袋の中からお土産を取り出した。  


 ぬいぐるみを見た瞬間、星絵の目がぱぁっと輝いた。


「ほら、遊びに行っても、ちゃんと姉さんのこと忘れてなかったよ」

「ありがと!」


 ぬいぐるみを受け取ると、星絵はぎゅっと抱きしめ、顔をすりすり押し付ける。

 もし魂でも宿っていたら、きっと天国気分だろう。星絵みたいな美人にここまで愛されるなんて。


 あまりの可愛さに、悠月はこっそりスマホを取り出し、この光景を切り取ろうと――。


「ちょっと!何しようとしてるのよ!」

「あっ、バレたか」


 まだ撮っていないのに、星絵はすぐに気づいてしまった。

 慌ててぬいぐるみを顔の前にかざして隠すと、その拍子で目がスマホに付いたストラップに留まった。


「え?それって……もしかして昨日あの子がくれたプレゼントなの?」

「ああ、これ?昨日交換したやつ」

「へぇ〜、そういうことか」

「なんだよ、その顔」


 星絵はニヤニヤしながら、意味ありげに悠月を見ている。その視線に、悠月は嫌な予感を覚えた。絶対に何か勘違いしている。


「まさかそこまでやるなんてね、弟くん」

「えっ?どういう意味……?」


 問い返しても、星絵は何も説明する気はないらしい。

 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたまま、楽しそうに笑っているだけ。


「それは自分で気づかなきゃダメだよ。そういうのって他人が口出すもんじゃないし。……にしても、月って頭いいくせに、そういうところはほんと鈍いよね」

「はいはい、そりゃ悪かったな」


 結局、何のことか分からない。

 だけど、あの笑顔を見ると、まぁいいかと思えてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ