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「じいじ、暑いね。冷房、もっと強くしないの?」
玄関を開けるなり、あかりは手にしたハンディファンを回しながらリビングへ飛び込んできた。中学一年生になったあかりは、この一年でぐっと大人びた。手には常に最新のスマートフォンが握られ、画面の上で指が魔法のように踊っている。彼女にとってデジタルは、空気や水と同じように、そこにあって当然のものだ。
「おう、あかり。よく来たな。冷房か、今入れるよ」
茂はリモコンを操作しながら、少しだけ緊張していた。いつもなら、あかりが来ると「スマホで面白い動画を見せて」とねだるのが茂の役割だった。しかし、今の茂には見せたいものがある。
「ねえ、じいじ。さっき『仕事』を見ていけって言ったけど、また古い役場の書類の整理? 終わったらアイス食べに行こうよ」
あかりはソファに深く腰掛け、手慣れた様子でスマホの画面をスワイプしている。
「いや、今日はちょっと違うんだ。あかり、こっちに来てごらん」
茂は手招きして、奥の書斎に置かれたノートパソコンの前へ彼女を誘った。あかりは「えー、何?」と不服そうにしながらも、しぶしぶ立ち上がった。
茂がブラウザの画面を指し示すと、あかりの動きが止まった。
そこには、先ほどクロードと一緒に作り上げた『町の記憶ダッシュボード』が映し出されていた。
「……なにこれ。じいじ、これどっかのサイト? 郷土資料館の?」
あかりが画面に顔を近づける。マウスを奪うと、彼女は迷いのない手つきで操作を始めた。
「へえ、この写真、クリックすると大きくなるんだ。あ、こっちのボタンを押すと、昭和40年代の写真だけが出てくる。……え、これ、じいじが作ったの?」
あかりの声に、明らかな驚きが混じった。茂は誇らしさを必死に抑え、わざと冷静な声を装って答えた。
「ああ。この町の古い写真を整理して、みんなが見られるようにしたんだ」
「うそ、どうやって? じいじ、プログラミングなんてできないじゃん。プログラミング教室とか通ったの?」
「いや、通ってないよ。先生は、このパソコンの中にいるんだ」
茂は、あかりの隣でクロード・コードの画面を立ち上げた。黒い背景に白い文字が並ぶ、一見すると難解そうな画面だ。
「これはね、私の『部下』なんだ。私はこの子に、どういう画面にしたいか、どういう順番で写真を並べたいかを伝えているだけなんだよ」
あかりの目が、好奇心で輝き始めた。
「え、じゃあ、今から何か変えられる? たとえば……この緑色のデザイン、ちょっと渋すぎない? もっと今っぽく、カフェのメニューみたいなおしゃれな感じにできる?」
茂は内心、「そんな難しいことが、すぐにできるだろうか」と不安になった。だが、本に書いてあった言葉を思い出す。――「あなたは監修者だ。ワガママな指示を出しても、AIは嫌な顔一つしない」。
「よし、やってみよう。あかり、お前の言う『今っぽいの』を、じいじがこの子に伝えてみるからな」
茂はキーボードを叩いた。




