第5-11話 ファングドフラワーの帰還って、何だ!?
「知ってる場所に出て来れたのはいいけど…これからどうしよう!?」
レッカが言うと、ヒサゴは、
「冒険者ギルドに戻って、攫われた事実と、状況を説明しないと…」
「では、このまま『南都』に…」
「…いや、それより、近くの村に助けを求めた方が早いかな!?」
アゲハが言うと、ヒサゴが、
「そう言えば、この近くに、ドワーフの集落があるんじゃなかった!?ボルドになら、話が通じやすいと思うんだけど…」
だがレッカは首を横に振る。
「いや………今回はやめとこう。」
「そうだね………」
『湾』の南岸を馬で西へと進む一行。左手に見えた谷間に、煙の上がった集落…ドワーフの集落が見えたが、ヒサゴ達は素通りした…
一方、ドワーフの集落では…
たまたま集落の入口付近まで出ていたボルドは、『南都』へと続く街道を、3頭の馬に分乗する5人の女性冒険者が駆けて行くのを目撃した。
「…レッカちゃん…!?裸馬に乗って、どうしたんだろ!?」
首をかしげるボルド。集落の奥には赤茶けた岩肌が露出した一角と、轟音を立てて落ちる滝と、その瀑布に設置された巨大水車…水車に接続された巨大魔道具からは、雷のエネルギーを発している。
ミスリルの露天掘り鉱脈と、精錬施設らしい…
※ ※ ※
一方、『南都』冒険者ギルド…
大勢の冒険者達でごった返す『酒場』に、一人の場違いな男が入って来た…ロクスケである。
(こ、この俺が、また、ここに来る事になるなんて…)
冒険者ギルドには、あまり良い思い出の無い彼だった。だが、そうも言ってはいられなかった。周囲で声高に喋る者達に、思わず耳を塞ぎそうになりながら、ロクスケはカウンターへよろよろと足を運ぶ。
「いらっしゃいませ………あら、あなたは確か、呪文屋の…」
ちょうどカウンターにいた、アゲハ達の担当受付嬢が応対した。
「お、おう…ろ…ロクスケ、だ……」
しどろもどろに答えるロクスケ。今や大勢の客が来る様になった呪文屋の店主の彼だが、人付き合いを苦手とする性根は何ら変わっていなかった。
「本日は、どの様なご用件でしょうか?」
受付嬢が訊ねると、ロクスケは、
「アゲハ………は、いるか………!?」
(違うだろう!!俺が言わなきゃならんのは、そういう事じゃ無いだろう!!)
ロクスケは内心、焦った。その心の内を知らずに、受付嬢は、
「アゲハ様でしたら、お仲間の方と一緒に、『渡河点』までクエストで出かけられました。そのまま数日、向こうで過ごされるそうです。」
「そうか………」
そんなの、知ってる情報だった。
「アゲハ様に何かご用か言伝がございましたら、私が承りましょうか?」
「いや、いい………邪魔したな。」
そう言い残して、後ろを向き、ロクスケはカウンターから歩み去ろうとする。
(大体…あいつ等が助けを求めてる理由を、どう説明するつもりなんだ…!?俺の夢しか、根拠が無えだろう………)
一歩、二歩…カウンターから出口へ向かう動線で、ロクスケは思い出す。
バザーで一緒に呪文書を売った日の事を、
アースドラゴンを倒した後の休暇で、一カ月間店の手伝いをしてくれた日々を、
客が途切れた合間に、術式談義に花を咲かせ、
時には拙い料理を振舞ってくれ、
そして、店の手伝い初日、お茶と茶菓子を持って現れた彼女、その言葉………
(アゲハ………)
そして、昨夜の夢………
『助けて………』
ズキっ!ロクスケの胸が痛んだ。
(アゲハ………くそぅっ!!なんで………!?他人と関わるとろくな事にならないって、分かってるはずなのに………
あいつが今、ひどい目にあってると思うだけで、何でこんなに心が苦しくなるんだよ………ッ!!!)
くるっ!ロクスケは踵を返し、ズカズカズカ…歩み去った道を再びカウンターへと戻っていた。
「………!?」
挙動不審に首をかしげる受付嬢に、ロクスケは、
「あ………アゲハ達が、助けを、求めてる。」
言った。
「そ、捜索隊なり救援なりを、今すぐ出してくれ!!」
シ ン … 一瞬、『酒場』が静まり返った。そして、
「アゲハ先生~~~っ!!」「「「アゲハ先生~~~っ!!!」」」
シンコと、アゲハのファンの女魔術師3人が悲鳴を上げた。
「聖女様ぁぁぁぁぁ~~~!!」
キュリアに命を助けてもらったベアーが叫んだ。
「ヒサゴぉぉぉ!!」
スカーが涙を流した。
「レッカぁぁぁぁぁ!!!!!」
向こうで初老の男性が叫び声を上げているが………ロクスケは知らなかったが、レッカの剣の師匠だった。
(アゲハ達………意外と愛されてるんだなぁ…)
妙な事で感動するロクスケ。
「救援を出そう!!『渡河点』だな!?お、オレが行く!!」
「私達も行きます!!」
スカーとシンコがカウンターに詰め寄るが、受付嬢は、
「み、皆さん、落ち着いて下さい!!ロクスケさん、それは、どこの情報ですか!?『ファングドフラワー』が遭難なり事故なりに遭ったという、確たる証拠はあるんですか!?」
『酒場』の皆が固唾を飲んで見守る中、ロクスケは何も言えなくなった。そこへ…
ガランガラン!!「た、大変だぁ!!」入口のドアが乱暴に開かれ、一人の男…制服を着た衛視が入って来た。
「お前…今日、非番じゃ無いだろう!?こんな所で何してんだよ!?」
レッカの剣の師匠が訊ねたが、衛視の男は、
「ふぁ、『ファングドフラワー』の方達が、東の第二門で、救助を求めてます!!」
「アゲハ達が…!?」「東の第二門って…『渡河点』と正反対じゃねぇか!!」「どうしてそんな所に………」
騒然となる『酒場』。衛視は一呼吸置いて、
「『渡河点』で誘拐されて、『峠』を越えて脱走して来たそうです!!」
「「「なぁぁにぃぃぃ~~~!!??」」」
ド ク ン !! ロクスケの目の前が真っ暗になった。アゲハが無事だった…いや、その前に、
………アゲハがひどい目に遭っていた………!!!
不意にロクスケの視界が反転する。後頭部に激痛が走り、視界いっぱいに『酒場』の天井が広がり、ロクスケの意識が遠くなって行った…薄れ行く意識の中でロクスケが聞いたのは、
「ロクスケさん!?ロクスケさーーーん!?」「呪文屋が倒れたぞ!?」「誰か!誰かーーーっ!!」
※ ※ ※
※ ※ ※
ザザーーーン…ザザーーーン……
潮騒の響く海岸に立つ1人の幼い少年。波の中に貝殻を見つけ、しゃがみこんで拾い上げる。
少年はそれを両手に掲げ、見つめ、遥か遠く、この貝殻が来たであろう、海の向こうを眺める。
ふと、幼児が隣を見ると、そこに誰かが立っていた。
白いワンピースの少女だった。金髪で、耳は、短く尖った…
少年は手の平の中の貝殻を差し出し、自身の小さな大発見を興奮気味に語ると、少女はにっこりと微笑む。
ふと、少年の頭に、温かい物が置かれる。細く、節くれだった指の、手のひら。見上げると、そこに立っていたのは、杖をついて腰の曲がった、白髪にローブ姿の老人。少年の頭をなでながら、白髭の中の唇が、言葉を紡ぐ。
『よく、やった………』
※ ※ ※
「………はっ!?」
目を開けたロクスケの視界に、再び『酒場』の天井が見えた。
「………」
ロクスケは上体を起こす。ロクスケの隣にしゃがみこんでいたのはスカー。
「ぃよっ!!」
おどけた挨拶をするスカーに、ロクスケは、
「俺は………どのくらい倒れてた…!?」
「数分、かなぁ!?」
「そうか………恥ずかしい所を見せたな………」
「…何が恥ずかしいっつうんだよ!?」
スカーは飄々と答えたその時、
ガランガラン!!入口のドアが開き、ゾロゾロと女達が入って来た。ヒサゴにレッカにキュリア、見かけない女戦士…
「「「!!!」」」
誘拐されたと聞いた『ファングドフラワー』の無事な姿に湧き上がるギルドメンバー達。そして…
最後に入って来たのは、とんがり帽子に尖った耳、胸元の開いたヘソ出しビスチェにミニスカートの、美貌の女魔術師!!
「皆さん、本当にご心配をおかけしました!!」
ヒサゴが深々と頭を下げる中、ダっ!!駆け寄る影があった。
「アゲハっ!!!!!」
ロクスケはアゲハに駆け寄り、公衆の面前で、彼女を抱きしめていた。




