第5-10話 ファングドフラワーの大脱走って、何だ!?
谷の全てが眠る中アゲハ達は、空堀の方へ向かう。牢獄の周りのノーム共は残らず眠っているらしいが、跳ね橋も上がったままだ。ヒサゴは矢筒から矢を取って弓につがえ、
「光の海の彼方におわすラフカディオ様、願わくばこの矢外させ給うな!!」
弦をよっぴいてひょうど放つ。
「ラフカディオ様はその様な神様ではございませんわ!!」
キュリアは抗議したが、矢は跳ね橋を上げていた、決して太くは無いロープの1本を過たず射抜く。矢をもう1本!もう一方のロープも切れた。ゴゴゴ…バタン!!粗末な跳ね橋は再び降りた。これで向こう側へ行ける。
催眠ガスは牢獄内にも広がったらしく、獄守のノーム共も、あるいは薄暗い廊下に倒れ、あるいは粗末なテーブルに突っ伏し、一様に眠りこけていた。さっきの跳ね橋が降りる音でも、彼等は起きなかったらしい。建物じゅうを探しぬき、一番奥の納戸に、財布を含むアゲハ達4人分の私物も手つかずのまま見つかった。エーコは…今朝までの己が寝床だった牢獄に、深々と一礼していた。どうやらここで、多くの仲間を失ったらしい。
「行こう。」ヒサゴが促す。「彼等のためにも、今は行こう!」
「…分かってる。」
エーコはそう言って、牢獄を後にした。
もう、振り返らなかった…
次に、馬だ。馬車を引くための馬が3頭、眠っていたのをキュリアのキュアポイズンで催眠性の毒物を分解し、馬車から外す。一頭に、レッカとキュリア、一頭に、エーコとヒサゴ、最後の一頭に、アゲハが乗る。
「あの柵も何とかしないと。どこかに入口が開いてるはずだよね。」
レッカが柵を指差して言った。谷間を阻む柵の向こうには、住人全員が眠りこけているノームの集落、その向こうへ向かって谷は下っており、向こうへ行けば谷間から出られるはずだ。だが、ヒサゴは、
「いいや逆だ。谷間を、登ろう。」
「おいおい、何言ってんだい!?」
後ろにヒサゴを乗せたエーコが叫んだ。谷間を登って跳ね橋を渡ったらさっきの広場。ダイナソー達の領分だ。だがヒサゴは、
「ここはあたいの言う通りにしてくれ。この地形と、太陽の位置を考えたら、恐らく………」
数刻の判断の後、
「行こう。」「ええ。」
レッカと、アゲハは馬を跳ね橋へと進ませる。
「ちょ、ちょっと待ってよ…ああもう!!」
エーコも、2頭の馬に続いて自身の馬を走らせた。
想像を絶する光景の中を、3頭の馬は行く。見た事も無いような植物が生い茂った谷間の広場一帯に、様々な種類のダイナソー達。ヘルメットの様な頭をした者、背中に巨大なヒレを持つ者、巨大な顎に、小さすぎる前脚を持つ者、トライセラタップスも、ステゴザウルスもいた。そのいずれもが、昼日中から地面に突っ伏して眠っているのだ…だからこそアゲハ達は、奴等の領分を馬で駆ける事が出来た。
「すごいね…ダイナソーを根こそぎ眠らせるなんて…」
ヒサゴが警戒を解かずに言うと、アゲハは、
「あのノーム…相当な魔力の持ち主だったみたい。『象牙の塔』にも行かずに、独力であれだけの術者になるなんて…」
5人は慎重に馬を走らせる。岩肌のあちこちに、赤い石や青い石が露出していた気がするが、構っている場合では無かった。
広場の向こうに新たな道が見えた。あと少しで、反対側に出れる、その時…
ドシドシドシ…轟音を響かせて何かが近づいて来る。三本角のダイナソー、トライセラタップスだ!!側頭部に怪我をして、血が滲み出ている。
「さっきステゴザウルスにやられた奴!?」
「まさか…痛みでスリープの呪文が解けたの!?」
ドシドシドシ…3頭の馬は谷間へと入ったが、トライセラタップスはなおも追いかけて来る。
「痛みと怒りで我を忘れてる!?」
「どうしましょう!?このままでは追いつかれてしまいますわ!!」
5人に戦慄が走る中、アゲハが、
「エーコ、後ろ代わって!!」
「え!?お、おう!!」
言われて最後尾を走っていたエーコは、2番目を走っていたアゲハと位置を変える。3頭の馬の前方はるか上には、大きく頭上に突き出した崖。その下をレッカが、エーコが、最後にアゲハの馬が通過した直後、アゲハは手綱を握ったまま、魔術師の杖を後ろ上方へ向け、
(魔力を、強く、こめて………)
フィィィィィ…魔術師の杖の先端が光を帯び始め、ピシっ!亀裂が走る。
(お願い、保って!!)
さらにアゲハは魔力をこめ、そして、
「ラン、ファイヤーボール!!」
ボっ!! 杖の先端から巨大な火の玉が後ろ上方へ飛び、突き出していた崖に命中!ガラガラガラ…崖が大きく崩れ、トライセラタップスの頭上目掛けて落下する!!大量の崩れた岩は谷一帯を塞ぎ、トライセラタップスはその向こう側へ消えた…
※ ※ ※
もうどのくらい、谷を馬で駆けただろう。道はどんどん下り、谷間は確実に幅を広くしていた。
「なあ、オレ達は一体どこへ向かってるんだ!?」
エーコが後ろに抱き着くヒサゴに問うと、ヒサゴは、
「そろそろ見えて来るんじゃないかなぁ…」
3頭の馬の背後には山脈と太陽。馬は谷間を北へ降りているはずだ。やがて…
谷間が開け、レッカの前方に見えたのは、左右に広がる平野と、その向こうに広がる、海…
「え!?こ、ここって…」
戸惑うエーコ。この海はかつて彼女が、嫌になる程見て来た海につながっている。
「ああ。ここは『湾』だよ。思った通りだ。」
エーコの後ろのヒサゴは言った。
「あたい達が今までいたのは、『山脈』の『峠』。禁足地になってる場所さ。あたい達は『山脈』を、南から北へ抜けて来たんだ!!」
かつてアゲハが新人冒険者の教師をしていた時、『禁足地だから近づくな』と教えていた、『峠』。そこにアゲハ達は知らぬ間に入り込んでいたのだ。




