第5-6話 地上の根の国(ニザヴェッリル)って、何だ!?
同日、夜、『南都』、路地裏通り、水路の橋の脇、
ロクスケの呪文屋、
2階………
ソファの上で眠るロクスケ。雑然と散らかった、床の上に何十冊もの本がいくつも山と積まれた部屋。その壁に、何故か光る扉がある。不思議な事に、扉のある壁は外壁だ。ドアの向こうは本来なら外、という事になる。なのに何故か、扉はわずかに開いており、そこから光が漏れている。その光に照らされて、
「ん………ッ!!」
ロクスケが、寝返りを打つ。
※ ※ ※
闇の中に、人影が見えた。メリハリのある、若い女性だ。くせのある長い髪、短く尖った耳が見える。
彼女は振り向き、懇願する様に両手を胸の前で組んで、瞳から涙の筋が見える。
『助けて………』
※ ※ ※
「………っ!!」
ガバっ!!ロクスケはソファから飛び起きる。この部屋に存在しないはずのわずかな光が、横から彼を照らしたが、件のドアは、ゆっくりと消え、本来の壁が残った。
「………」
変な夢を、見た気がした。助けを乞うていた様な…あれは、アゲハだった様な………!?
「………寝よ…」
ロクスケは、再びソファの上に寝転がり、そのまま朝まで目覚めなかった…
※ ※ ※
翌朝…
「起きろ!!仕事の時間だ!!」
牢の中のアゲハ達は、ノーム達によって叩き起こされた。蓆を敷いた石組の床の上で。昨夜の寝袋の方が、余程ましだった。
鎖でつながれた手枷足枷をはめられて牢を出され、覆面のノームに連れられて階段を登らされて建物を出ると、そこは深い谷合。緩やかな坂になっている。ヒサゴ達がいた牢屋である、一軒の石組みの建物だけが建つ空間。
いや、よく見ると、谷間の片側、坂を下る方は木の柵で塞がれている。
「余計な所を見るな!こっちに来い」
ノームの男がヒサゴ達をつなぐ鎖をじゃらりと引っ張る。刹那、谷を塞ぐ柵の向こうに、煙を上げる石組みの建物が数件と、その間を行くノームの母子の姿が見えた。ヒサゴ達は谷のもう片方…坂を登る方へ連れて行かれると、そこにはノームの一団…その中には昨夜の女術師の姿もあった。ヒサゴは女術師に近寄り、
「し…仕事って鉱山掘りか何かなぁ…!?あたい等女だから、そんなに力、強くないよぉ…」
ヘラヘラ笑いながら言う。周囲の岩肌のあちこちに、洞窟…坑道が穿たれており、鉱石か何かを掘っている様だ。だが女術師はフードの奥の口角を上げ、
「鉱山夫はウチ等の仕事だ。あんた等には別のうってつけの仕事がある!命がけの、ね!!」
それからヒサゴ達は再び鎖で引っ張られ、坂を登って行くと、坂道の真ん中に、分厚い木の板が1枚立っているのが目に入る。木の板の上端は綱とその巻き取り機が繋がっており、木の板…粗末な跳ね橋の向こうには谷間いっぱいに塞ぐ深い穴…空堀が掘られている。
ガラガラガラ…綱が緩められて跳ね橋が降りると、ヒサゴ達はノーム達とその向こう岸に渡らされる。
歩かされる事、しばし………やがて、見えて来たのは、この世の物とは思えない光景だった。
谷合の坂を登り切った所にある、開けた空間。そこかしこに水場と、草や樹木が生えており、木の葉や草を、巨大なトカゲが食んでいた。
「アースドラゴン…いや…」
地面に垂直に伸びる四脚に、長い首と尻尾。その中に見知った姿もあった。目の上と鼻の頭に合計3本の角を生やし、短い首の後ろに、襟の様な飾りを持ったドラゴン…いや、『ダイナソー』。
「…『トライセラタップス』………」
アゲハが呟いたその声を、ノームの女術師が耳ざとく聞いた。
数日前に『南都』を襲った厄災であるトライセラタップスが、今、目の前で、悠然と木の葉を食べていた。
「お前等そこに座って手を出しな!!手枷と足枷を解いてやる!!」
ノームの女術師が言うと、意図を測りかねる様にレッカが首をかしげる。
「さっさとしな!でないとあいつ等に食われちまうよ!!」
言われてヒサゴ達はその場に座り込むと、女術師やフード姿の男達が鍵で手枷と足枷を解いていく。最後にノーム達はポイと魔術師の杖とダガー、剣と盾を放り出し、
「ほらよ!」
レッカにミスリルソードと盾を手渡すその刹那、
「昨日、あんたがウチと見間違えた相手…今、どうしてる!?」
小声でレッカにそう聞いた。
「え…っ!?」
一瞬、答えに詰まったレッカに、女術師は、
「…いや、何でもない。」
そう言い残してレッカから離れた。
「それで…こんな所で何をしようと…」
気を取り直して、ミスリルソードを腰に差しながらレッカが言ったその時、
ドシ、ドシ…!! 地響きがしてさっきのトライセラタップスの前方から、もう一頭の巨大トカゲ…ダイナソーが現れた。前からは大きく盛り上がった背中に何か生えているのが気になるが、頭は小さく、トライセラタップスの様な角も生えていない。グルル…トライセラタップスは新たに現れて餌場を奪おうとするダイナソーに威嚇のうなり声をあげるが、次の瞬間、謎のダイナソーは悠然と横を向く。大きく盛り上がった背中に見えた謎の物体が露になる。短剣の刃の様な飾りが、首元から背中を経て、尻尾までびっしりと生えており、ダイナソーの体躯を本来よりも大きく見せるに十分だったいた。
「…『ステゴザウルス』…」
エーコが呟いた。
トライセラタップスは相手のダイナソー…『ステゴザウルス』の威嚇に一瞬ひるんだが、ドシドシドシ…自慢の3本角を立てて突進する。しかし、ステゴザウルスは横を向いた勢いのままに尻尾を振る。その先端には、2本の角!!
バキっ!!角の生えた尻尾で側頭部をしたたかに打たれると、トライセラタップスはよろけ、角が刺さった箇所から血がドクドクと流れる。ヨロヨロとよろけながら、トライセラタップスはせっかくの餌場を開け渡し、去って行った…餌にありつこうとしたステゴザウルスだったが、側で見ているアゲハ達を見留めると、グルル………さっきまでの戦いの興奮も冷めやらぬままにうなり声をあげる。
ノームの女術師はニヤリと笑うと、
「ノルマは1日1匹だ。ちょうどいい。今日はあいつを殺りな!!」




