第5-4話 脱走冒険者の末路って、何だ!?
背中の冷たさと痛さに耐えかねて、4人は目を覚ました。
「ん………っ!?」「ここは………!?」
フラフラと起き上がる4人。まだあの魔法が残ってるのか、体の芯が起ききっていない感じだ。
周囲を見回す。
石畳の上に藁の筵、石組みの壁に窓は無く、一方は一面の鉄格子、そして、床の石畳にも筵にも、所々に赤黒い染みがこびりついている。
牢獄だ。それ以上は分からない。どこにある牢屋かすらも…
「目が覚めたか、新入りが…今度はいつまで保つやら。もっとも、オレ自身がいつまで保つやらだがな…」
声が、した。一人称は『オレ』だったが、若い女性の声だった。そして、最後は自嘲めいた口調の…
その声の主は、4人の側に座り込んでいた。伸び放題で一切手入れをしていないボサボサの髪に、ボロボロの革鎧。肌にも大小無数の傷が残っている。
「お前等も『南都』から脱走してきた口かぁ!?『渡河点』に逃げれば化け物と戦わずに済むって、そんなうまい話ある訳無いのになぁ…」
ようやく思い出してきた。『渡河点』冒険者ギルドから出て来たところを、背の低いフードの変な女に『スリープ』の術式で眠らされて、気が付いたらここにいた。
どうやら、誘拐されて、監禁されているらしい。そこまで思い出してようやく4人は自分の身なりに気が付いた。防具の類は、レッカのミスリルアーマーに至るまで着けたままだが、武器の類や他の荷物は没収されている様だ。
「えーっと、あんたなんて名前だい!?」
ヒサゴが問うと、女性は、
「…『エーコ』。パーティー『六つ首の大蛇』の、元リーダーさ。」
答えた名前に聞き覚えがあった。薄汚れているが、顔にも見覚えがあった。
「思い出しましたわ!!あなた確か、以前に私が、怪我の治療をして差し上げた、冒険者パーティーのリーダーさんでは!?」
「…あの時の聖女様かい。偉そうに説教垂れてくれたなぁ。『あなたが持っている宝があるはずです。それを大事にしましょう。』だっけ!?」
レッカがミスリルアーマーを手に入れるより前、他のメンバーがランクを上げる中、一人伸び悩んで焦っていた頃、ヒーラーのいない6人パーティーで活動し、怪我をしてギルドに戻って来てキュリアのヒールを受けた女戦士、それが今、目の前にいるエーコだった。
「実はあたい、あの後、エーコをうちのパーティーに引き抜こうと思ってたんだよ。ランクDで経験も実力も丁度良いし、『ヘキサヘッドヒドラ』は残った5人で新しいリーダー決めて、ヒーラーを入れる。それがお互いにとって、最も幸せになれる方法だって思って…まあ、エーコは首を縦に振ってくれなかったけど…」
ヒサゴに言われてレッカも思い出した。キュリアの『説法』があった翌日、ヒサゴがギルドの寮でスカウトしようとしていた相手の名前が、確かに『エーコ』だった。
「それでエーコ…何で、こんな所にいるの!?」
レッカの問いにエーコは顔を歪めると、
「あんた等の想像通りだよ。『冒険者ハンター』に一芝居打ってもらって、オレ達は『南都』の冒険者ギルドを脱走し、『渡河点』へと逃げて来たんだ。
でも、化け物退治しかしてこなかったオレ達に、平和な『渡河点』で仕事なんか無くて、すぐに暮らしに行き詰って…
『渡河点』で冒険者をやろうにも、オレ達は死んだ事になってるから、ギルドに入るわけにも行かなくて…未練がましくギルド周辺をウロウロしてたら…『あいつ等』に、声をかけられたんだ。『いい仕事がある』って…ノコノコついて行ったら、詠唱無しの呪文で眠らされて、気が付いたらここにいたって訳だ。」
「同じだ…あたい等の時と。ところで…他の5人はどうしたんだい!?」
ヒサゴが問うとエーコは、
「ここでオレ達がさせられた『仕事』は、来る日も来る日も、見た事の無いモンスターと戦わされる事だった…あんなのオレ達に倒せる訳無いだろ!?
ここに来た時はオレ達以外にも何人か、同じ身の上の奴等がいたが、今やオレ一人になっちまった。」
「それじゃあ…残りの5人は」
恐る恐るヒサゴが問うと、エーコは、
「…最後の1人は、今あんたが座ってるそこで息絶えた…」
自身が座っている石畳の周りの赤黒い染みが一際新しいのに気づいて、ヒサゴは思わず飛び退いた。言われてみれば、鉄格子の向こうの廊下の反対側にも、その左右にも、同じ様な牢屋がある様だ。合わせれば何十人も収容出来る様だが、アゲハ達が入っている牢屋以外からは、話し声も物音も聞こえない。
「本当、リーダー失格だよなぁ…『6人みんなで、幸せになる方法を、何が何でも探してみる』って言ったのに、このザマだ!!こんなんだったら、ヒサゴの誘いに乗るんだったよ…」
気まずい沈黙が牢屋内に漂う中、コツ、コツ…ブーツの足音が近づいて来た。
「自己紹介は済んだ様だねぇ!?」
やって来たのは、フード姿の女術師。アゲハ達にスリープの術式を食らわせた張本人だ。そして背が低い。石畳の上にしゃがみこんでいるアゲハ達と、目線の高さがほとんど変わらない。




