第5-2話 『渡河点』への旅路って、何だ!?
『南都』、南の大門…
門番から通行の許可が出ると、馬車は南の大門をくぐった。
「見てーママー!!こっちにも、向こうみたいな町があるよー!!」
荷台の上で、幼女が無邪気に言った。『向こう』とは、これまで彼女等が住んでいた、『東新街区』…東の大門の外に出来た街の事だろう。
「こっちはね、『南新街区』って言うんだよ。」
御者席でヒサゴが優しく言うと、幼女は、
「へぇーーー!!」
と、目をキラキラさせる。
「この『南都』には大勢の人が住む様になったから、街の外、東と南に街を広げたんだよ。」
「お姉ちゃんって、物知りなんだね!!」
「お姉ちゃんは冒険者だからね。スカウトは、物知りじゃないとやってけないんだよ。」
やがて馬車は、南の第二門をくぐる。
「ほわぁーーー…」
いよいよ街の外に出る、どんな景色が広がっているのか、と思っていた幼女は、
「ぁ………」
…南の第二門のすぐそこに、村がある事に言葉を失う。
今度は修道服を着たキュリアがクスっと上品に微笑んで、
「『南都』の南はすぐそこが『河口』ですの。ですから、『南都』を南に広げたら、『河口』とくっついてしまったのですわ。」
まるで見て来たかの様に言う。
「『かこう』!?」
「『南都』の南を流れる『小河』が、海に注ぎ込む場所にある港町だよ。」
やがて馬車が行く街道は東に折れ、太い河と並走する様になる。
「この川…『小河』を遡った先が、これから向かう、『渡河点』だよ。」
「『とかてん』って、どういう意味!?」
「それは…えーっと…」
物知りのはずのヒサゴが言葉に詰まる。
「…大きな川が流れてると、人や物が渡れないでしょ!?でも流れの穏やかな場所があれば、そこに渡し舟を置いたり、舟どうしをつないで舟橋を作ったり、橋を架けたり出来る。そこには大勢の人や物が、川を渡るために集まって、大きな街が出来るの。それが、『渡河点』。」
「へぇ~~~!!」
ヒサゴよりさらに物知りで美人でついでにおっぱい大きいお姉ちゃんに興奮する幼女。
「加えてここは、川の遡行限界…ここから先は川底が浅くなって、海から『河口』に入った船が、ここまでしか遡れないの。だから、海から登って来た人や物も、ここで馬車に乗せ換える必要があるの。だから余計に、人や物が集まりやすいのよ。」
「そ!加えてここは、『南部平原』の中心でもあるから、ものすごく大きな街で、これからもものすごく大きくなるの。それが、『渡河点』!君がこれから住む場所、だよ!」
努めて明るく言うヒサゴに幼女は声を落として、
「でも…これでもう、『南都』のお友達と遊べないんだよね…!?」
「これっ!!お姉ちゃん達を困らせるんじゃあありません!!」
見かねた母親が間に入り、
「すみません…道中警護をお願いしたのに、子供の相手までさせて…」
ヒサゴに謝罪する。
「「………」」
ヒサゴとレッカは言葉に詰まった。友達との別れ…引っ越しではなくキンダーガーデン卒業による進路の違いによってだが、彼女等にもその辛い幼心に心当たりはあった。
「だ、大丈夫!!これから行く『渡河点』には、危険な化け物は襲って来ないから!!」
「そ、それに、道中はお姉ちゃん達が君とお母さんを守ってあげるから!!」
「………お姉ちゃんの事、知ってる。『南都』のおうちの近くに化け物が出た時、倒してくれてたでしょう!?それに、こないだだって、パレードしてたし!」
レッカは『東新街区』に越してきて以降、地下から出て来たモールやらバットやらを時々倒していたのだ。それを彼女も知っていたのだ。おまけに、トライセラタップス討伐後のパレードも見られていたらしい。
「そう!お姉ちゃん達は強いんだよ!!アースドラゴンだって倒したし!!」
「ワイバーンだって、ダイナソーだって倒したし!!」
「………『五つ首の大蛇』も!?」
幼女の問いにヒサゴは、
「さあ、どうだろ!?」
おどけて答えた後、歌いだす。
「五つ首の大蛇、大暴れ。一つの首が消えてなくなり、四つ首になった。」
レッカも続けて歌いだす。
「四つ首の大蛇、大暴れ。魔物吐く口切り落とし、三つ首になった。」
ヒサゴとレッカは顔を見合わせ、声をそろえて謡いだす。
「「三つ首の大蛇、大暴れ。一つの首が泣き別れ、二つ首になった。
二つ首の大蛇、大暴れ。分かれて止めて伸ばされて、めでたしめでたし。」」
「『五つ首の大蛇』ですか…懐かしい。」
母親が言った。
「…お母さんも『奧都』の出ですか!?」
ヒサゴもキンダーガーデンの先生に、『「奧都」の歌だ』と歌って聞かされた歌だったが、母親は、
「ええ…二度も化け物に住処を追われるとは思ってませんでしたが…」
「すみません…無神経でした。」
嫌な記憶を思い出させたかもしれない。
「いえ…これは、この子を守るために選んだ事ですから…」
そう言って母親は、狭い荷馬車の上で、幼子を抱きしめた。
※ ※ ※
同日、夜…
『渡河点』へ向かう街道の途中で野宿する一行。ヒサゴ達は交代で見張りをする事になった。
「アゲハ………」
ヒサゴが一緒に番をして、焚火の前に座っているアゲハに言う。
「あの時のロクスケさんの言葉さ、あんたは逃げ出して聞かなかったけど、続きがあるんだよ。」
『あの時』…新刊即売会の後、ロクスケが『アゲハとは結婚しない』と言った、あの時だ。
「『俺は誰とも結婚しない。俺は世捨て人だから』って…あいつはキンダーガーデンや『象牙の塔』や『北都』で、人付き合いに失敗し続けて、他人と接する事自体、嫌になってるんだ。」
パチっ!焚火の火がはぜた。
「…あいつがそういう面倒くさい奴だって分かってるでしょう!?あいつと付き合うんだったら、そういうところも分かってあげないとね…」
焚火の炎がパチパチと心地良い音を立てて燃える中、寝袋に入って向こうを向いて眠っているキュリアの目が一瞬、開かれ、そしてまた、ゆっくりと閉じた…




