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第5-1話 一昨日とは違う今日って、何だ!?

きっかけは、受付嬢のやらかしだった。


先日入隊した新人冒険者達と同時期に『南都』冒険者ギルドに就職した彼女は、『ファングドフラワー』のトライセラタップス討伐翌日に、とある奇妙な依頼を受けた。


『昨日倒し、回収したアースドラゴンの死体の一部を、アースドラゴン討伐ミッションと戦った冒険者に、指定の場所に届けて欲しい。』という内容。


クエストの内容自体は別段奇妙でも何でもない。珍しいモンスターの角やら牙やらを、買い取って屋敷に飾りたい好事家はいる。相手を指定しての発注も、実力も名声もあるパーティーならありうる話だ。奇妙だったのは、依頼者の風貌。


全身フードやマントの小男。まあ、それすらも、依頼者である主の身バレを防ぐためと納得出来よう。


依頼を受けて新人受付嬢は、はたと困った。アースドラゴン討伐ミッションを受注したのはベアーのパーティー、実際に倒したのは『ファングドフラワー』。


この場合、どちらに持って行かせれば良いのだろう…!?


何より、ベアーパーティーはリーダーのベアーが療養中、『ファングドフラワー』も休暇中で、今ギルドにはいない。


困った新人冒険者は、先輩冒険者に判断を仰ぎ、先輩のありがたい指示に従って、このクエストを指名無しのランクEクエストとし、彼女が担当しているランクEパーティー、『ニューリーブス』に勧めたのだった。


謎の依頼者に逆に襲われそうになり、撤退して来た『ニューリーブス』は、リーダーを除く5人はそのままギルドに逃げ込み、リーダーのシンコはアゲハがいると思われたロクスケの呪文屋に駆け込んだ。


事情を聞いたアゲハ達はシンコを護衛して冒険者ギルドに移動し、自身の担当の受付嬢に経緯を説明。


シンコは自身の相部屋に戻り、彼女が襲われたと聞いて心配していたキンセに事情を話してその日はそのまま一歩も寮から出なかった。


低ランクばかりとはいえ、普段から化け物相手に命のやり取りをしている冒険者が大勢住むギルドの寮を襲撃する命知らずはいないだろう…


What does "Fire Ball" means!? ~The scroll shop Rokusuke and his clients will run their programs~

Chapter 5.


     ※     ※     ※


『南都』職人街、ドワーフの武具工房…


「レッカちゃん、メンテナンス終わったよ。」

工房に勤めるドワーフの少女、ボルドが言った。


「サンキュー、ボルド。」

ミスリスアーマーの着心地を確かめながら、レッカが答える。


「…『ト(・)ラ(・)イ(・)セ(・)ラ(・)タ(・)ッ(・)プ(・)ス(・)』と、戦ったんだって!?」

そう問うボルドの声は、何だか元気が無い。そう言えば、ドワーフの集落は、『山脈』の『湾』寄りの山間にあるらしい。


(万一、モンスターが山の方に行ったら、自分の集落が襲われる危険性があったから、不安だったのかな!?)

そう思ったレッカは、

「ボルド達がもたらしてくれたミスリルの鎧があったから、私は戦えたんだよ。」

胸を張ってそう言うと、


「う…うん。」

ボルドはようやく、微笑んでくれた。


     ※     ※     ※


シンコ達が襲われた事を知った直後、ギルドは『「南都」に接近しつつあった太古のモンスター「トライセラタップス」を、「ファングドフラワー」が倒した』事を公表、そのせいでアゲハ達はトライセラタップスの角と共に仰々しいパレードまでする羽目になった。


翌日から『ニューリーヴス』は通常任務に復帰したが、特に襲われる様な事は無く、現在に至っている。


件の新人と先輩受付嬢は、職務から外されて再講習を受けているらしい。シンコ達にはアゲハ達と同じ受付嬢が担当についた。


微かな違和感を残しながらも、穏やかな日々は戻って来た。


     ※     ※     ※


『南都』路地裏通り、ロクスケの呪文屋…


「ほら、ここよく見ろ!!」

ロクスケが羊皮紙を突き付けながら言う。


「…勝手に見ないでよ!!」

不機嫌そうにアゲハは言った。


「お前なぁ…その言い方は何だ!?」

ここ数日、アゲハの様子が変だ。


「…まだ作ってる最中なのよ!!」

アゲハは羊皮紙をひったくりながら言った。


「気をつけろって言ってんだ!」


「あんただって、一度も間違えた事無いの!?」

その売り言葉に買い言葉を、ヒサゴとキュリアも重苦しい雰囲気で見つめていた。


「客が使うんだぞ!?」


「あたしが使う物だからいいじゃない!!」

アゲハの脳裏には、新刊販売会で聞いた、ロクスケの言葉が鳴り響いていた。


”あいつと結婚!?する訳無いだろう!?”


ギっ!!歯噛みしながら、アゲハは怒鳴る。

「言っとくけどあたし、呪文屋なんかになるつもりは無いわよ!!」


それだけ吐き捨てる様に言うと、バタン!!アゲハは呪文屋のドアから出て行った。


「ちょっと、アゲハさん!!」

アゲハを追って呪文屋を出て行くキュリア。残ったヒサゴも、


「あたい等、何日間か泊まりの任務だから、その間に頭を冷やさせるよ。じゃあ。」


そう言って出て行った。


後には呆然となるロクスケが残された。彼はまだ、アゲハが、あの発言を聞いていた事を知らない。


「何なんだ、あいつは…」

ついこないだまで機嫌良さそうだったのに、ちょっと注意しただけで怒り出した。訳が分からん。


「やっぱり他人なんて、人付き合いなんて、面倒くさいだけだな…」


穏やかな日々は戻って来た。だがそれは、何もかも以前と同じとは限らない…


     ※     ※     ※


滅んだはずのモンスターの襲撃に討伐、そしてその謎のモンスターに因縁浅からぬ者達の出現、という激動の昨日は過ぎ、穏やかな今日が戻って来た。従って、『ファングドフラワー』の4人も日常に戻らねばならない。


1時間後、『南都』、東新街区…


「「えっほ!えっほ!!」」

荷物を荷馬車に詰めていくレッカとヒサゴ。


「すみません、皆さんにこんな事までさせて…」

幼女の手を引いた中年女性が言うと、ヒサゴは、


「いえいえ、これも仕事ですから…」


それから中年女性は隣に立っていた大家の老婆に、

「申し訳ございません…突然あんな事言ったのに、この人達まで紹介していただいて…」


大家の老婆は、

「いいんだよ…向こう行っても元気でね。ま、もしかしたらあんたは、『向こう』に伝手があるだけ、運が良かったのかもしれないからね…」


『ファングドフラワー』の4人も日常に戻った。危険なモンスターを何度も討伐してきた彼女等だが、フルメンバーの揃わないパーティーである事に変わりはない。食っていくためにシティーアドベンチャー…『街の何でも屋』という日常(クエスト)をこなさねばならない。


やがて、全ての荷物に加えて母子を乗せ終えると、馬車の御者席のレッカが、馬に鞭打つ。


「出発ーーー!!」


ゆっくりと走り出す馬車を、大家の老婆は見送った。彼女の後ろにある、母子が住んでいた粗末な家には、"For Rent"の張り紙。それを見て大家はため息をつき、


「…今週だけで、あと何軒あったかねぇ!?」


一方のアゲハ達を乗せた馬車は、『東の大門』から『南都』の大通りへと入る。この後、大勢の人や多くの物が行き交う大通りを中央広場へと向かい、そこで南の大通りへと向きを変える。


これが、この母子にとって、『南都』の見納めだ。


激動の昨日は過ぎ、穏やかな今日がやって来た。だがそれは、何もかも一昨日と同じとは限らない。


アースドラゴンやワイバーン、加えて先日のトライセラタップスという謎のモンスターの襲撃に、危険な『南都』を離れ、別の場所へ引っ越そうという者が、少なからず現れたのだ。


その様な者達が向かうは、南。『南都』のさらに南に広がる、『南部平原』、そしてその中心都市である、『渡河点』…


『ファングドフラワー』の今日のクエストの内容は、『南都』から『渡河点』へ引っ越すこの母子の、荷物運びと、道中の護衛だ。


挿絵(By みてみん)


ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜


第五部 スリープバブルって、何だ!?

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