第4-19話 ミッション失敗って、何だ!?
ベアーパーティー、アースドラゴン討伐ミッション、失敗、敗走。
リーダーのベアー、重傷。
その報せは、『南都』冒険者ギルドに、衝撃を与えた…
※ ※ ※
ガランガラン!! 入口のドアが乱暴に開かれて、パーティーの戦士2人が担ぐ急ごしらえの担架に横たえられたベアーがギルドに帰って来た。その横を大きな包みを2人がかりで抱えたスカウトと戦士の男が、つんのめる様にまろび出る。カラン!その音も、騒然となる冒険者達のざわめきにかき消された。
「ああっ!!ダチ公!!」
柄にもなく涙目のスカーが担架の上のベアーに駆け寄った。
「済まねぇ、お前をバカにする様な事言っちまって!!謝るから死ぬんじゃねぇぞ!!おい!!」
ベアーは金属鎧の腹部に大きな丸い穴が開いており、そこから血がドクドクと止まらなかった。何やら赤黒い物すら奥に見えている。
「ラン…ヒール…ラン…ヒールぅ………」
ベアーパーティーのヒーラーが、うわ言のように呟いている。魔力はとうに尽き、彼が紡ぐ言葉は最早魔法になっていない、ただの言葉だ。それでも彼は、唱えずにはいられなかった。
「離れて下さい!!これから施術を行います!!」
キュリアがスカーに離れる様に促し、ヒーラーの男の肩に手を当て、
「あなたもよく今までかんばりましたね。」
その一言でヒーラーの男は、ようやく言葉を切って、酒場の床に大の字に転がる。
「どなたかこの方に魔力ポーションを!!」
そう促されて誰かがヒーラーの男の口に巨大な漏斗を差し、上から奇妙な色と匂いの液体を流し込む。
「ベアーさんの鎧を外すのを手伝って下さい!!構わないから、革紐を切って!!」
ガラン、ガラン!!金属鎧が床に転がる音が響く。
「やはりお腹の傷がひどいですわ…それに背中も…皆さん、ベアーさんは非常に危険な状態です。高位の治癒魔法が必要です。どうか、魔力の供与をお願いします!!」
「あたし、やるわ!!」
アゲハが手を上げると、他の魔術師やヒーラーも、
「俺も」「私も」「拙者も」「身共も」「某も」…
「あ、アゲハ先生、私もやります…」
シンコとセイスもアゲハの許に駆け寄ったが、
アゲハとキュリアはそろって首を横に振る。
シンコ達が一礼してその場を離れる中、
「それでは皆さん、手をつないで、魔力を流し込んで下さい!!」
「みんなの魔力を一旦あたしに、中継してキュリアに送るから!!」
「行きます!!ラン、リザレクション!!」
シンコとセイスの後ろで、緑色の眩い光が迸った………
一命を取り留めたベアーだったが昏睡状態で、ひとまずギルドの2階に確保された部屋のベッドに寝かされ、スカーが自ら看病を志願した。そして下の酒場では、受付嬢がヒサゴに告げる。
「お疲れの所、申し訳ございませんが、ターゲットは変わらず健在です。『ファングドフラワー』の皆様は、ベアー様のパーティーから、ミッションの遂行を引き継いでいただきます…」
「分かったよ…」
ヒサゴは短く答えた。ベアーパーティーは半壊、スカーパーティーは先日出動したばかり。自分達が行くしか無い。
ガランガラン!! ベアーの蘇生で魔力を消耗したはずのアゲハとキュリアを連れて、『ファングドフラワー』の女達は、ギルドを後にして行った。
その後ろ姿を見送る事しか出来なかったシンコは項垂れて、
「やっぱりこんな物よね…アゲハ先生達にとって、私達は、戦力外の新人だったんだ…」
その肩を優しくポンと叩かれる。セイスだ。
「…いつかあの人達と肩を並べられる様に頑張ろう。そのためにも今日は、僕達にも出来る仕事を地道にこなそう。」
その言葉にシンコは微笑んで、
「………そうよね。」
※ ※ ※
アゲハ達が出動してからしばらくして、
「………」
ベッドの上のベアーの目がゆっくりと開いた。
「お、おお!気づいたかダチ公!!」
側の椅子に座っていたスカーが慌ててベアーを覗き込んだ。
「ここは…お前がいるという事は、少なくとも『ラフカディオ様の御許』じゃねぇな。」
力無く呟くベアー。
「ぬかせ!でも、元気そうで良かったぜ。」
ベアーの顔も微かにほころぶ。
「俺は………ミッションに失敗したんだな。」
半身を起こしながらベアーが呟く。
「今、ヒサゴ達が代わりに行ってる。お前ぇは生きて帰れただけ良かったじゃねぇか。それより………」
がばっ!!スカーは深々と頭を下げる。
「すまねぇ!!俺が焚きつけたせいで、お前がこんな事に!!」
「よせよケツがむずかゆくなっちまう。ミッションを受けたのもしくじったのも俺の失策だ。まさかアースドラゴンがあんなバケモンだったとはなぁ…」
しみじみ言うベアーにスカーは、
「おう!俺も倒す事は出来たが、危ねぇ橋を渡ったと思ってる…」
ベアーは腹を押さえながら、
「それにしても…あいつに腹に貫かれた気持ち悪い感触が、まだ残ってやがる。」
不意にスカーの顔が曇る。
「あぁ!?何の事だぁ!?」
「だからドテっ腹に風穴開けられたんだよ!!情けねぇ話だがな!!」
「何の事だよそれ!?」
アースドラゴンは、巨大なトカゲの様なモンスター。それ以上でもそれ以下でも無く、一般的な爬虫類が持つ身体的特徴以外の部位は持っていない。少なくとも、前回スカーが倒した物にも、前々回アゲハ達が倒したのを見てた時も、そんな物は無かった。
「まぁ俺も最後っ屁でへし折ってやったが…それにしても、長年使ってた鎧がオシャカになっちまったなぁ。いっそドワーフのミスリル武具とやらに買い替えるか…!?」
言われてスカーは、床に転がる金属鎧のパーツに目をやる。こっちに胸と腹、あっちに背中の防具。身体の形に合わせて曲面が作られ、前後で合わせる形になっている。腹の鎧に、大きな丸い穴、背中にも小さな丸い穴。スカーはそれらを右手と左手に持ち、着ていた時の様に合わせてみる。腹の穴と、背中の穴が、ほぼ一直線に並ぶ。まるで、細長くとがった物体で、腹から背まで刺し貫かれたかの様な…
※ ※ ※
時は遡る。ベアーがギルドの酒場に担ぎ込まれた時。脇からベアーパーティーのスカウトと戦士がまろび出て、先頭のスカウトがつまづき、2人がかりで持っていた包みを落とし、布がめくれて、カラン!中身が音を立てて床に転がる。それは、わずかに反りの入った、細長い円錐型の、血まみれの物体!!
※ ※ ※
…キュリアはベアーパーティーのヒーラーに、『よく今までかんばりましたね』と言った。本当に彼は、よく頑張った。腹から背中まで貫通している刺し傷を、ヒールだけで、あそこまで治癒させたのだから…!!
「それにしてもスカー…手前ぇはあのアースドラゴンの角と突進技、一体どう対策したんだ!?」
「…おいベアー…」
アゲハ達の時は、偵察に行ったが遠目で見ただけだし、凱旋パレードなんてしなかった。そもそも半年前だ。細かい事は忘れちまってる。そして、スカー達の時は、こいつはパレードを観に来なかった。
「おい聞いてんのかスカー!?」
「おい…」
こいつは、本物のアースドラゴンを直に見たことが無い。
「だからどうしたんだよスカー…」
「おい熊公!!」
がしっ!!スカーはベアーの両肩を握る。重傷から癒えたばかりのベアーが呻くが構わずスカーは怒鳴る様に叫ぶ。
「お前…お前、一体何にやられた!?一体何と闘った!?」
※ ※ ※
同時刻、『南都』東部、アースドラゴン討伐ミッションの現場…
アゲハ達の目の前にいるのは…一番よく似ている動物で例えれば、確かに『巨大なトカゲ』となるだろう。だが4本の脚はワニの様に地面に平行に伸びて肘と膝を曲げているのではなく、地面と垂直に伸びている。最も大きな特徴は、2本の角。鼻の頭に1本と、右目の上に、長く反った物が1本。左目の上にこぶの様な物があるが、あそこに3本目が生えていたのかもしれない。そしてもう一つ、目を引く特長は、短い首の後ろ、背中側から上に伸びる、襟の様な部位。
「何て事!?」「これ、アースドラゴンじゃありませんわよね…!?」
アゲハも、実物を見るのは初めてだった。そいつの名を呟く。
「"Triceratops"…まだ、生き残りがいたなんて…」




