第4-20話 結局、ファイヤーキューブって、何だ!?
アースドラゴン討伐ミッションと聞いて現場を訪れた『ファングドフラワー』の4人が遭遇したのは、3本の角に襟の様な大きな飾りを持つドラゴン…もとい、『トライセラタップス』!!ただしベアーパーティーが戦闘で折ったせいで、左目の上の角が折れている。
「なんであんなのがここに!?」「知らないわよ!!」「ですけど…そんな事を言ってる場合じゃございませんわよ…」
ベアー達との戦闘で既に興奮状態にあったトライセラタップスは、新たに表れた4人が己と敵対する者である事を本能で理解すると、ブルブルブル…威嚇する様に息を吐くと、
ドッドッドッ…!!鼻の頭と右目の上の角を前方に突き出したまま突進して来た。
「来るわよ!!」「クっ!!」
レッカは盾を前に構えたまま、角を避ける様にトライセラタップスの左側へと回り込んだが、
グルっ!「うわっ!!」
避けたレッカを追う様に突進の方向を左へ曲げた。ガン!咄嗟に盾で受け流すレッカ。負った負傷はキュリアのヒールで癒えて行くが、
「くそっ!!ベアーの二の舞はごめんだ!!」
ほんの1か月前、新人相手の教官をしていた頃、授業中の雑談でアゲハが生徒達に話した事があった、とうの昔に滅んだモンスター、『ダイナソー』。その一種と今、対峙しているとは何たる皮肉か!!
「何とか足止めして!!でないと魔法も当てられない!!」
アゲハが叫ぶと、
「全く…無茶言ってくれる!!」
レッカは盾を構え直す。
ドッドッドッド…トライセラタップスが再度突進する!だが、もう少しで角で串刺しに出来るその瞬間、目障りな人間が突如消えた。次の瞬間、ガシィッ!!盾と腕でレッカに角を抱え込まれる!
「やっぱり…あんたの死角は、角のある右の方か…」
このままトライセラタップスを止め続ける事は出来ない。相手は重戦士ベアーをも串刺しにした奴だ。だが、一瞬の足止めさえあれば、アゲハには十分だった。
「ラン、ファイヤーボール!!」
ボっ!! アゲハの杖の先から火の玉が射出されると同時に、レッカは角の拘束を解き、離脱する。次の瞬間、着火!!
グ ォ ォ ォ ォ …!! 火だるまになり、悲鳴を上げるトライセラタップス。太古からの襲撃者は、最近の魔術師の魔法に呪文詠唱が要らない事を知らなかったらしい。
「ラン、ファイヤーボール!!ラン、ファイヤーボール!!」
次々と火球を撃ち込まれ、とどめに眉間にミスリルの剣をレッカに突き立てられ、トライセラタップスは絶命した。
ミッション、コンプリート…
※ ※ ※
『南都』は、最早何度目になるか分からない、壊滅の危機を脱した。
討伐対象が想定と違った事に関しては、素人の一般人の目撃情報をもとにギルドで推測している以上、起こり得る話だった。対象がとうに滅んだはずのモンスターであった事を除けば…
ギルドに帰った女勇者達はミッションの達成報告と事情聴取を受け、夜も更けた頃にようやく解放された。
翌日、4人が集まった先は、路地裏通り、ロクスケのスクロールショップ…
「…そりゃ災難だったな。」
ヒサゴから一部始終を聞いたロクスケがそう労うと、ヒサゴは手のひらをヒラヒラとさせて、
「ほんと災難だよ。分からない事だらけ。」
「それで今日は一日休暇か。俺は商品の補充をしなきゃならんが…」
そう言ってスクロールの山を抱えてカウンターから出るロクスケ。
「ねえヒサゴ、うちのパーティーも前衛の補充しないの!?こんな事が何度もある様じゃあ…」
「狙ってた娘はいたんだけどねぇ…」
レッカとヒサゴが話す中、ロクスケはアゲハの側を通りかかり、肩と背中が触れそうになり…
『あいつと結婚!?する訳無いだろう!?』
新刊販売会でのロクスケの言葉が脳裏に響き、
パシィっ!! アゲハは後ろを向いたまま、右手でロクスケの肩を払っていた。
「…!?」「………!!」
いきなり肩を叩かれた事に戸惑うロクスケと、いきなり手が出てしまった事に戸惑うアゲハ。
「あ………」
瞬間、言葉に詰まったアゲハだったが、
「ご、ごめぇん…ミッション終わりで気が立ってて、つい…」
強張った笑顔でそう言った。
「そ、そうか…俺の方こそすまん…」
元は『北都』の冒険者で、その様な心境には心当たりのあるロクスケは、アゲハのその説明で納得し、棚に居スクロールを並べ始める。だが…
ギィ…誰か来た様だ。
「いらっしゃ…」
言いかけてロクスケはギョっとする。入って来たのは、シンコ。
「お前…!!もうこの店に用は無いはずだろう!?呪文書のローンはもう完済して…」
「ちょっとロクスケ!それどういう事!?2年で完済予定のローンを、シンコちゃんが全部払い終えたって…」
「俺もよく知らん。今朝早く、『報酬の良いクエストを受けた』って言って、残金を全額払って行ったんだ…」
ここまで言ってようやく、シンコの様子がおかしい事に気づく。疲労困憊の様な、何かに怯えてる様な…
「て…店主さん、ごめんなさい…よかった。アゲハ先生、やっぱりここにいらしたんですね…」
アゲハの姿を見、声を聞いた途端、緊張の糸が切れたかの様にポロポロと涙を流すシンコ。
「シンコちゃん!?どうしたの!?あんた…!?」
泣き崩れるかの様なシンコの肩を抱きとめるアゲハ。そして、ヒサゴとロクスケに目で合図をして、2人は頷く。ヒサゴは入口のドアから周囲の気配を伺う。どうやら尾行られた様子は無い。それを確認すると、ロクスケはドアにかかっている看板を"Closed"の側に裏返す。ここからの話は余人に聞かれない方がいいだろう…
※ ※ ※
今朝早く、『南都』冒険者ギルドに、新たなクエストが発令された。
曰く、『昨日倒し、回収したアースドラゴンの死体の一部を、指定場所まで持参せよ』、受注可能ランクは、E。おまけに報酬は全額前払いで、かなりの高額だ。呪文書やら装備代やらでローン生活のシンコ達は、単なる物品輸送なのに報酬が釣り合わないが、物好きな金持ちの道楽だろうと思い、これを受注。シンコはロクスケのローンを完済すると、アースドラゴンの死体の一部…トライセラタップスの角を持って、6人で指定場所に赴いた。
ところが、指定場所は人目につかない山間で、現れたのは全身黒ずくめのマントやフードを被った、怪しげな者達。
「…本当にお前等が化け物を倒したのか!?」
謎の集団の1人が問う。シンコ達の装備が、明らかに新人のそれである事に気づいたのだろう。嘘をついてももう感づかれていると判断し、「違います。私達は輸送任務を受けただけです。」と答えた。
するとその男は不機嫌そうな声で、
「依頼は『倒した本人に持って来させよ』だったのだが…どっちにしろ、秘密を知ったからには生かして帰す訳にはいかない…」
次の瞬間、謎の集団の1人が一歩前に歩み出て、唱える。
「エクスキュート、スリープ!!」
女性の、声だった。
※ ※ ※
「「!!!」」
アゲハとロクスケは揃って驚愕の表情を浮かべた。
「『エクスキュート』って、『死刑執行』!?」
「いや、もしかしたら、『実行』という意味かもしれない。」
「ねえ、どっちにしろ…」
「ああ………俺の術式に、似てる。」
「それで…シンコちゃん、その後どうしたの!?みんなは!?」
アゲハに問われて、シンコは、
「…アゲハ先生達が仰る様に、私もそれが、ロクスケさんの術式と似た、スリープ系の魔法だと思いました。そして、アゲハ先生が教えて下さった、スリープ系の魔法は、催眠ガスを球にして飛ばしてるんだって…」
「それで!?」
「だから…術者から私達に向かう飛跡をおおまかに予測して、『ファイヤーキューブ』の術式をぶつけたんです…催眠ガスが燃える物だったら、それで無力化出来ますし、そうでなくても毒ガスの類なら、炎や熱で変質して、毒性が無くなるかもって、思って…」
「………」
アゲハは、自身の教え子の判断力に感嘆するしか無かった。
「あとは…馬車を180度旋回させて、全速力で走らせて、逃げて来ました。追いかけて来る奴等には『スリープキューブ』をかけたりして…『南都』に逃げ帰った後は、他のみんなにはギルドに帰る様に言って、私だけ、アゲハ先輩を探してここまでやって来ました。」
最後にシンコは、怯えた様な声でこう叫んだ。
「アゲハ先生、あの…私…私達、い、一体、何に巻き込まれたんですかっっっ!?」
ファイヤーボールって、何だ!? ~呪文屋ロクスケは術式を走らせる~ 第四部
ファイヤーキューブって、何だ!? 完




