第4-18話 英雄の凱旋って、何だ!?
バザーの日…ロクスケの呪文屋の新刊販売会から数日後、
ガラガラ…ガラガラ……
『南都』の大通りを、重い車輪の音が響いていた。
何頭もの馬車が、巨大な荷車を曳いて、大通りを進んでいた。
荷台の上には、巨大なトカゲの様な物…アースドラゴンだ。身体のあちこちに刀傷が走り、焼け焦げた跡すらある。そして、荷台の上に横たわり、最早動く事は無い。
先日、この『南都』に、『奧都』からアースドラゴンが接近しつつあるとの報せが届き、そして…討伐されたのだ。
通りの両側には大勢の人だかり。目当ては討伐されたアースドラゴンと、討伐した勇者の見物だ。皆、歓声を上げて勇者の凱旋を見物する。
アースドラゴンの周囲と、上には、この化け物を討伐した、数人の冒険者達。そして、アースドラゴンの上に座り込む人物が、高らかに宣言した。
「ギャーハッハッハっ!!見たかアゲハヒサゴぉ!!俺達だって、やりゃ出来るんだぁぁぁぁ~~~!!」
…スカーだった。
「…はいはい。」「すごいすごい。」
大通りの脇の、見物人の人だかりの中に立つ、アゲハ達『ファングドフラワー』の4人の女達が、冷静な反応を示した。
※ ※ ※
数刻後、『南都』冒険者ギルドの酒場…
「どうだぁヒサゴぉ!!これで俺達も、お前等に並んだぜぇ!!追い抜くのも時間の問題だなぁ!!」
エールが並々注がれたジョッキを掲げながら、上機嫌でスカーは叫んだ。
スカーのパーティーは、ベアーとのパーティー分けの際に入隊したランクDメンバーが全員ランクCに昇格し、パーティーランク自体もランクCになり、そして、今回のアースドラゴン討伐ミッションに自ら手を上げ、討伐に成功したのだ。祝勝会で彼は既に何杯ものジョッキを開けていた。
ちなみに今回のアースドラゴン討伐ミッションの依頼状には、『受注可能ランクC、受注可能人数4人以上』とある。受注可能人数が設定されているのは、3人しかいないランクCパーティーがアースドラゴン討伐ミッションを受けさせられた事があったからだ。そして、4人以上となっているのは、4人パーティーで討伐成功した前例があったからだ。
「おめでとうございます。ラフカディオ様はあなたの勇気ある行いをご覧になっていらっしゃいますわよ。」
キュリアが神妙な面持ちでいつもの繰り言を言うと、スカーは上機嫌で、
「ありがとよ聖女様。ほら聞いたかヒサゴぉ!!出来た人間は言う事が違うなぁ!!」
「…はいはい。どうせあたいは人間が出来てないからねぇ。」
うんざりした様にヒサゴは応えた。
「すげぇっス、スカー先輩!!」
「本当にすごいっす!!俺達、すごい人達に教わってたんですね!!」
「おう!お前等、せいぜい誇れよ!!」
『ニューリーブス』のスカウトのオチョと、戦士のドスが興奮気味に言うと、スカーの機嫌はさらに良くなった。オチョとドスはスカーのパーティーに仮入隊していたのだが、研修期間の終了とともに除隊され、シンコに声をかけられたのだ。
そもそも『南都』冒険者ギルドには、『パーティー分け』という習慣があった。メンバーのランクが上がると、わざと低ランクのメンバーを入れてパーティーランクを落とし、今回の様な危険なミッションを受けさせられる事態を防ぐために…新人冒険者の仮入隊は、パーティー分けの格好のチャンスだった。にもかかわらず、スカー達のパーティーは、オチョ達を除隊し、アースドラゴン討伐ミッションに、自ら志願したのだ。
色々と変わりつつあるのだろう。3度目の危険なモンスターの接近を許してしまった『南都』冒険者ギルドは…
※ ※ ※
「その時、俺はぁ、エンチャントウェポンで銀色に輝く剣を構えて、『ラン、ウェポンアーツ』!!そしてぇ、大きく振りかぶってぇ、思いっきり溜めてぇ、アースドラゴンの首めがけて、ザクっ!!!」
大げさに剣を振り下ろす動作をして見せるスカー。その横で彼のパーティーの魔術師が、
「…溜め時間があまりにも長すぎて、振り下ろしてる途中でエンチャント切れたけどな。」
「うっせぇ!!手前ぇのエンチャントの時間が短いのが悪いんだろう!!」
「てめぇこそうっせぇ!!結局、てめぇの一撃で倒したんだからいいだろう!!」
スカーパーティーの魔術師とヒーラーは、ロクスケの術式を完備、そしてスカー達前衛も、ウェポンアーツの術式でオリジナルの剣技を作っていた。彼等の今回の殊勲には、やはりロクスケの呪文の影響も大きい。
ふと、スカーは酒場の端で黙りこくったまま酒とつまみをつついていた大男に目をやった。
「おやぁベアーちゃぁん…酒が進んでない様だねぇ~~~」
スカーは千鳥足で熊の様な髭をたくわえた大男…ベアーのテーブルへと歩み寄った。
「お前ぇにはちゃぁんと祝福して欲しいんだよぉ~なんせお前ぇと俺とは、かつてはおんなじパーティーで組んでた仲だからよぉ~~~つれねぇなぁ〜、俺達のパレードも観に来てくれなかったみてぇじゃねぇかぁ〜〜〜?」
ベアーは俯いたまま、何も反応しない。濃い髭のせいで、表情も分かりにくい。
「あん時パーティー分けなんかしなかったらぁ、もしかしたらお前ぇも俺とおんなじ名誉に預かれてたかもなぁ~~~、ま!時はもう戻らねぇけどよぉ~~~!!」
ベアーは黙したまま、プルプルと小刻みに震え始めた。
「お前ぇらだって今じゃ俺達とおんなじランクCパーティーなんだぁ!次の機会がありゃぁきっとお前ぇらだって倒せるだろうよぉ!!」
ガチャン!!ベアーはその太い毛むくじゃらの腕で、ジョッキをテーブルに叩きつける。あれだけにぎやかだった酒場が、一瞬でシンと静まり返った。
「………」
呆けるスカーを尻目に、ベアーは黙ったまま、ズンズンと酒場の中を歩き、ガラン!ドアベルの音を響かせて出て行ってしまった。
「ベアー先輩………」
ベアーのパーティーに仮入隊していた戦士ディエスと、侍祭のセイスが、心配そうな顔でかつての先輩の背中を見つめた。
「お、おい!お前等!!飲み直しだ!!今日は俺のおごりだ!!お前等、酒もつまみもジャンジャン頼め!!」
スカーの声が酒場に響き渡った…
※ ※ ※
1時間後、ロクスケのスクロールショップ…
「男の嫉妬、みっともない!!」
ヒサゴが叫んだ。
「おまけにあんな派手なパレードまでして!男の虚栄心もみっともない!!」
「スカーもベアーも大人気無いよね!!」
レッカも言った。
「そのベアーって、クマみたいな髭を生やした戦士か!?」
カウンターのロクスケが問うた。
「…そいつだったら俺の店に来た事があったが、あの時は、クマの親子が山から下りて来たのかと思ったぞ。パーティー全員引き連れて来て、店の呪文書を一通り買って行った。それこそ、ライト系からフロギストンボールまで…」
そう言えばあのパーティーは、魔術師も僧侶もみんな髭もじゃだ。
「じゃああいつ等は、パーティーランクだけじゃなく、魔法の点でも、あたい等やスカー達に追いついてるって事だよね!?」
「しかもベアー、あいつは怪力自慢の重戦士、私なんかよりよっぽど戦士らしい戦士だ。」
「素の戦力自体、あたい等より上って事か。しかもウェポンアーツも、もちろん持ってるんだよね…」
先に述べた『南都』でパーティー分けを行わず仮入隊の新人を除隊し、ランクCを維持したパーティー、ベアーのパーティーも、その一組だった。
「つまり、またアースドラゴンが攻めて来れば、あいつ等もアースドラゴンスレイヤーになる可能性が高いって事だよね!?」
「ベアーは面目を取り戻し、スカーは悔しがるか自分達が先だったと冷笑するか…どっちにしろ、面倒くさい、やかましい事になりそうだけどねぇ…」
ポリポリと頬を掻く仕草が誰かさんと同じだと気づき、ヒサゴは慌てて手を引っ込めた。
※ ※ ※
それからしばらくして、
『南都』東部にアースドラゴンが出現したとの報に、冒険者ギルドでその討伐ミッションが発令され、
ベアーのパーティーが、それを受注した…




