第4-16話 冒険者制度の闇って、何だ!?
ある日の冒険者ギルド…
「あら…」「あ…」
クエストボードの左と右で声が上がる。アゲハと、シンコだ。
「久しぶり。あれから、ちゃんとやってるみたいね。」
アゲハにもシンコ達の様子は噂で聞こえていた。
「あ、はい、アゲハ先生…」
するとアゲハは苦笑して、
「もう『先生』でも無いでしょう!?…クエストを探してるの!?」
「はい…」そう言って、真剣な面持ちでクエストボードを見つめるシンコ。彼女のパーティーは彼女自身がリーダーなのだ。自分達のレベルでクリア出来て、報酬も良いギリギリを狙っているのだろう…教えた事が役立っていると、アゲハは微笑んだ。だが次の瞬間、シンコの表情が怪訝な物に変わり、
「あの、アゲハ先生…」
「ん!?なあに!?」
「前から思ってたんですけど………あれ、何ですか!?」
シンコはクエストボードの一角を指差す。そこに貼られていたのは、『行方不明冒険者捜索クエスト(受注可能ランクC)』の依頼書。
「単なる人探しの割にはランクが高すぎますし…」
冒険者としての活動中の行方不明なら、相手は死んでいる可能性も高いため、気が滅入るクエストなのは分かるが、それにしても推奨ランクが不自然だ。
「ああ、それはね…」
アゲハが何か言おうとした時、カランカラン!!入口のドアベルが鳴り、異様な一行が入って来る。全身黒づくめだったり、ドクロやら死神やらのモチーフを装備にあしらった、不気味な男達だ。彼等の登場で、『酒場』の温度も冷え込んだ様な気がした。
「な、何ですか、あの人達は…」
不安そうに漏らすシンコに、アゲハは呟く。
「………『冒険者ハンター』…」
チャリン!不気味な一行のリーダー格と思しき男が、冒険者タグを受付のカウンターに投げる。全部血まみれだ。
「…ターゲットは全員死亡だ。」
リーダーにそう言われて、受付嬢も事務的に、
「確認しました。『行方不明冒険者捜索クエスト』、コンプリート。こちらが報酬です。」
受付嬢に渡された金貨袋を持って、『冒険者ハンター』一行はギルドを出て行った…
「あ…アゲハ先生!?」
状況が飲み込めないシンコに、アゲハは声を落として、
「………『行方不明冒険者捜索クエスト』にはね…自分の意志で行方不明になった人も含まれてるの…」
その瞬間、シンコの脳裏に蘇った数日前のやり取り。同室になったキンセが言ってた、『アイシャ先輩はランクDから上がらず、行方不明になった』、と…
彼女達は自分達を育ててもらった見返りに、やりたくも無い冒険者をさせられている。だがその一方で、冒険者という仕事の性質上、街から離れての行動の自由が許されている。なら…危険な冒険者稼業に嫌気がさせば、『南都』を脱走しようと思う者もいるだろう。だが………
(もし逃げたら………仲間だったはずの冒険者に、命を狙われるの………!?)
あの血にまみれた冒険者タグを思い出して背筋が寒くなったシンコの肩に、アゲハがポンと手を置く。
「…じゃ、あんたは生きて、真面目にクエストをこなしなさいよ…」
そう言い残して、アゲハは去って行った…
※ ※ ※
数十分後、クエストの現場へ向かう馬車の中…
「…と、いう事があったのよ…」
アゲハが言うと、キュリアは驚いて、
「『冒険者ハンター』って、その…そういう仕事を専門にされている方もいらっしゃるの!?」
「あいつらランクCパーティーなのに、アースドラゴン討伐ミッションの時は候補にすら上がらなかったんだよ。」
御者席のレッカが言うと、ヒサゴが、
「冒険者制度の闇、だよね…ま、あの子等には出来れば知られたくなかったけど…」
ガラガラガラ…車輪の音が響く車内に気まずい空気が流れる。
「そろそろ現場だよ。クエストに集中しよう…」
馬車の車窓には、山道。『南都』の南東から迫る『山脈』の、南側の山間でのモンスターの討伐が、今日受注したクエストだ。
※ ※ ※
数分後…
「いないね…」
現場に着いたはずだったが、ターゲットのモンスターはどこにもいなかった。
「場所を間違えたか!?」「それともターゲットが移動したのかしら…」
レッカとアゲハが戸惑う中、ヒサゴがシっ!と、彼女等を制する。
「………誰か来る。」
慌てて馬車ごと物陰に隠れると、そこにやって来たのは、粗末な鎧を着た6人組と…『冒険者ハンター』の一行!!
(あいつ等…あの後別のクエ受けて出て来たの!?)
ビクビクオドオドしている粗末な鎧の6人組。『南都』冒険者ギルドで見た顔がある様な気がする。あの装備からすると、ランクも実力も低そうだ。
(あの6人が、今回のターゲットって事!?)(冒険者ギルドから逃げた人達を…殺す気ですの!?)
「…冒険者タグを出せ。」
『冒険者ハンター』のリーダーが低い声で促すと、6人組はおずおずと自身の首にかかっている冒険者タグを出し、『冒険者ハンター』のリーダーはそれを地面に置く。
次に『冒険者ハンター』のリーダーはナイフを取り出すと6人組に差し出し、顎で示す。6人組のリーダーと思しき男がそれを受け取ると、自身の指先をプスっと刺し、「痛っ…」男の指先から垂れた血が、地面の上の冒険者タグを赤く染める。
((((え………!?))))
アゲハ達は物陰から、我が目を疑った。
男はまだ血が出ている指を止血しながら、ナイフを『冒険者ハンター』のリーダーに返すと、彼はそれを懐にしまい、片手で血に汚れた6人分の冒険者タグを持ち上げると、残った片手で6人にシッシッと促す。
粗末な鎧の6人組は谷を下って行き、次いで『冒険者ハンター』一行が谷を出て行った。
「「「「…………」」」」
一部始終を物陰から見ていたアゲハ達が、自身のクエのために谷間を出て行くのは、それからしばらく経ってからであった…
※ ※ ※
同日、夜、『南都』冒険者ギルドの酒場…
いつものテーブルに運んで来られた大皿の上の料理をつまみながら、最初に口を開いたのはヒサゴだった。
「まあ、何にせよ、シンコとオンセ…あの2人が抜けた後で良かったよね…」
「そうよね…」
アゲハは答えながら野菜を頬張った。冒険者歴の長い彼女等ですら、昼間見たあれをどう受け取って良いか分からなかったのだ。
悪名高い『冒険者ハンター』は、仲間である脱走冒険者を殺したと見せかけて密かに逃がしていた。
「でも…本当にあれで良いんですの!?」
潔癖なキュリアがナイフとフォークを置いて、口元をナプキンで拭いながら言った。
「…あたいもついこないだまで、教官の真似事して新入りスカウト達に偉そうな教鞭垂れてたけど………本当に申し訳ないけど、あの子等全員が、生きて年季を開けて冒険者を除隊出来るって思ってないよ。」
「そんな…」
そう言いながら、ヒサゴの言葉を全面的に否定できないキュリアだった。
「あたいもレッカも、アゲハやあんたに会えなかったら、ああいう道を選んでたかも…」
言いながらヒサゴは骨付き肉をかじった。
「でもさ…逃げるって言っても、どこへ!?」
アゲハの問いにヒサゴは、
「あいつ等の逃げた方角から考えると、南部平原…『渡河点』じゃないかな!?」
ヒサゴは骨で南の方角を指しながら答えた。
「でも…放っておいていいんですの!?」
連れ戻したところで脱走した冒険者が幸せになれるとも思えないし、彼等が逃げたとしても、一見、誰も不幸になっていない。
「んぐっ!!ゴホっ!ゴホっ!!」
さっきまで黙々と食べていたレッカがむせて咳き込んだ。
「…もう!大事な話をしてますのに…いくら自腹を切った食事だからって…」
「ごめぇん…こんなごちそう、おごりじゃなきゃ食べられないからさぁ…」
言い終えた後、キュリアとレッカは互いに顔を見合わせる。
「え…!?これ、キュリアのおごりじゃ無かったの!?」
「アゲハじゃなかったの!?」
アゲハとヒサゴも慌てだし、そして、
「「「「じゃあ、この料理、誰が頼んだの!?」」」」
「…俺のおごりだ。」
いつの間にかそこに立っていたのは、さっきまで噂に上げていた『冒険者ハンター』のリーダーだった。彼は4人にぐい、と顔を近づけると、
「その料理を食ったって事は、お前等も共犯だよなぁ。分かったらギルドに妙な事チクるんじゃねぇぞ。」
そう言い残して、『冒険者ハンター』のリーダーは酒場を後にした。彼のおごり、という事は、最早半ばまで平らげた大皿の料理は彼の金、クエスト報酬の不正入手で得た金で買った物という事になる。
あの時、あたい達が見てたのに気付いてたのか!?暖かかったはずの料理が急激に冷めて行くのを感じながら、ヒサゴは呟いた。
「…こりゃ本当に、シンコとオンセが抜けた後で良かったよ…」




