第4-15話 命を賭けたサイコロって、何だ!?
前衛が戦士3名、スカウトが1名、魔術師が1名、侍祭が1名、うち戦士の1人と魔術師が女性。メンバーはヒーラー特権でランクDから始めた侍祭以外全員ランクE…パーティー『ニューリーブス』は、その様な構成だった。
当初、彼等に向けられたのは、冷ややかな傍観だった。新人ばかりの6人。いつまで保つのやら、と…
だが…
※ ※ ※
掲示板に貼られた依頼書にはこう書かれていた。『ゴブリンの群れを討伐せよ(受注可能ランクE)』
ピっ!シンコはその依頼書をはがし、受付のカウンターに持って行く。
「これ、受けます。」
「か、かしこまりました。いってらっしゃい!」
『ニューリーブス』の担当になった新人受付嬢が告げると、6人はシンコを先頭にギルドを後にした。
※ ※ ※
数十分後、現場…
街道を徘徊するゴブリンの群れを物陰から見つめながら、シンコは冷静に仲間達に告げた。
「それでは、私が『スリープキューブ』の術式を使って、あいつ等を眠らせます。戦士とスカウトの4人はその隙に倒して下さい。万一レジストした物がいたら、取り囲んで倒して下さい。」
「オーケー。」
最早仮入隊時代からの相棒となったオンセが言った。
「怪我したら下がって、セイス君の回復を受けて下さい。セイス君は接触式の『ヒール』を使って、魔力の消費を抑えて下さい。」
「分かってるよ、シンコちゃん。」
好青年侍祭のセイスが答える。
「近づいて来たぞ!!そろそろじゃねぇのか!?」
ゴブリンの群れを監視していたスカウトが告げると、シンコはステッキを構え、
「それでは、始めます。ラン、スリープキューブ!!」
※ ※ ※
いつまで保つのやら、その外野の予想に反して、若葉達はすくすくと伸びていった。彼等でも出来るクエストを選んで、恩師達から教わった、手堅く、確立された安全重視の手法で、彼等は生き残り、実績を積み続けた。
※ ※ ※
「…ダイスローラー…」
ある日、彼女等がギルドの酒場に来た時、どこかからボソっとその声が漏れた。
その声にシンコは振り返ったが、もう声の主が誰なのか分からなかった。
ポン!シンコの肩にセイスが優しく手を置く。
「気にする事は無いよ。」
シンコは少し頬を赤らめながら、
「私は…気にして無いから。」
※ ※ ※
次に彼等…正確には、彼女、シンコに向けられたのは、『ダイスローラー』という呼び名だった。彼女だけではない。キューブ系の魔力消費の少ない魔法を多用する魔術師を、冒険者歴の長いベテラン魔術師がそう呼んだのだ。
火の玉は丸い物。その固定観念の消えないベテラン達にとって、四角い火の玉を放つ魔術師は感覚的に認められなかったのだろう。立方体の形状をサイコロに見立てたのと、『あんな低レベルの魔術師と組む奴等はとんだばくち打ちだ』という皮肉を込めて、そう呼び始めたのだ。だが…
たった1つしかない己が命を賭けて振り続けたサイコロ賭博に、シンコ達は勝ち続けた…
※ ※ ※
そうやってもう何度目になるか分からないクエスト達成報告の後、
『南都』路地裏通り、ロクスケの呪文屋…
ガチャ…「「ごめんくださーい!!」」
ドアを開ける音に続いて2人の男女の声にカウンターのロクスケが顔を上げると、そこには手をつないだシンコとセイスが並んで立っていた。
「お前等…」
「ローンのお金を支払いに来ました。」
「お、おう!お疲れさん。お前等…噂になってるぞ!!」
「わ…私達は、自分に出来る仕事を地道にこなしてるだけです。」
シンコははにかみながら言ったが、ロクスケがアゲハから聞いた噂は、『同期の新人冒険者どうしで恋人になった』という物だが…
「それじゃ、金を払ってもらおうか。あんたは呪文書3巻分、お前は1巻分な。」
言われて2人はお金をカウンターに出す。セイスは銀貨を1枚、シンコは…金貨を1枚。
「おいお前!?」「シンコちゃん!?」
怪訝な顔をするロクスケとセイスにシンコは、
「『ファイヤーキューブ』に銀貨8枚分、『スリープキューブ』と『パラライズキューブ』に銀貨1枚ずつです。」
「お、おう…こっちはありがたいが…いいのか!?」
「この方が、長い目で見たら出費は抑えられます。他の呪文書のローンも、前倒しでお支払いします。」
そこには初めてこの店に来た時の、『屠殺されるのを待つ家畜』の姿は無かった。
ロクスケは微かに微笑むと金貨と銀貨を受け取り、
「それじゃあ、これからもよろしく頼むぜ。」
揃って一礼すると、2人は呪文屋を後にした。
※ ※ ※
路地裏通りを戻りながら話す2人。
「…それにしてもセイス君、買った呪文書は1つだけなの!?」
「持ってる呪文は『ヒール』と『ヒールボール』だけど、『ヒール』の分はオーウェン師父様が無利子で貸してくれてるんだ。」
「オーウェン様って、キュリア先生と共に、『南都咳』の根絶に尽力された方よね。それにしても、この『南都』で、そんなに恐ろしい事が起きてたなんて…」
「…あの時、僕はまだ修行中で、何も出来なかったよ。僕も最初は神殿に残って治癒の仕事をするつもりだったけど、あの頃から神官が冒険者になるハードルが低くなったから、冒険者になる事にしたんだ。危険な仕事をしてる人達を助けたくてね…」
※ ※ ※
遠ざかって行く2人の話し声を聞きながら、ロクスケは思った。
(冒険者のローン制度…銀貨24枚の24分割払いか、金貨2枚を1年半で支払うか。どっちにしても、一見、売り手側は損をしない。だが…)
万一、ローンを組んだ新人冒険者が2年を待たずに殉職したら、残金は戻って来なくなる。
(だからお前等…くれぐれも、死ぬんじゃねぇぞ!!)
※ ※ ※
そんなある日、ギルドの寮に戻ったシンコは、突然、大部屋への入室を拒否された。
「どうしてですか!?私、何かしましたか!?」
シンコが問い詰めると、寮母は困った顔をして、
「あなた…掲示板を見なかったの!?受付で何も言われなかったの!?」
※ ※ ※
数刻後、冒険者ギルドの酒場…
掲示板に貼られていたのは、『魔術師ベインティシンコをランクDに昇格とする』という貼り紙。
「申し訳ございません!!通達を忘れてましたぁ!!」
新人受付嬢が真新しいタグを手渡す。
「………うそ…」
呆然とするシンコに、セイスは満面の笑みで、
「おめでとう、シンコちゃん。」
「「「おめでとう!!!」」」パチパチパチ…他メンバーも拍手でリーダーの昇格を祝った。
※ ※ ※
ランクE向けの大部屋にいられなくなったシンコは、ランクD向けの相部屋に入れられた。
「…あーあ、これで優雅な一人暮らしもお終いかぁ…短い天下だったなぁ~~~」
ルームメイトとなった女魔術師のキンセは、片方のベッドに座ったまま意地悪そうに言った。『象牙の塔』の同期で、シンコとも一緒にアゲハ先生に教わった少女だ。魔術師特権でランクDから始め、ランクEスタートだったシンコに追いつかれた形になる。だが次の瞬間、戸惑うシンコにクスっと微笑んで、
「…冗談よ。昇格おめでとう。お互い、いびき寝言歯ぎしりの癖は無いはずよね。仲良くしましょう。」
そう言いながら開いている隣のベッドを指差すと、シンコはおずおずとそっちに座る。キンセは微笑んだまま、
「噂は聞いてたわよ。あんたが指揮するパーティー、着実に実績を積んでるそうじゃない。それが認められて昇格したんでしょ!」
「そんな…私は…」
何か言おうとしたシンコだったが、
「…言っとくけど、私の状況も、あんたとあんまり変わんないわよ。ランクDパーティーに入れたけど、先輩に毎日どやされてるわ。私もついて行くのに必死。」
「………」
シンコは、何も言えなかった。
「魔法使いの特権なんて最初の1年2年くらいよ。ボヤボヤしてたらその頃には戦士やスカウトにランクで追いつかれ、追い抜かれるわ。
あんた覚えてる!?『象牙の塔』にいたアイシャ先輩。神童って評判だったけど、何年たっても相部屋から抜け出せなくて、ある日とうとう、『任務中に行方不明』になったそうよ。
そういう人もいるって事。だから…」
キンセはベッドの端で座り直して、
「…あんたみたいな事例も、よくある事ってわけよ。」
それを聞いてシンコは、戸惑いがちな笑みを浮かべながら、
「………そんなもんよね。」




