第4-14話 シンコのファイヤーキューブって、何だ!?
クエスト:『南都』東部、湾の南岸に出現したイノシシ型ネームドモンスター、『フェイタル・ファング』を討伐せよ(受注可能ランクD)
本来ならシンコ達には受注自体不可能なクエストだったが、アゲハ先生達が、新人達の経験のためにと選んでくれたクエストだ。
ガラガラガラ…現場へと向かう馬車の中、アゲハはシンコに問う。
「シンコ、作戦は!?」
しばし考えて、シンコは答える。
「…私とオンセさんでは歯が立ちません。」
「うん…」
「ネームドは群れを率いているはずです。」
「それで…!?」
「私がスリープの術式で他の個体を寝かせて、起きた物からオンセさんに相手してもらいます。ですからアゲハ先生方は、ボスの討伐をお願いします!」
「………分かった。それで行こう。」
※ ※ ※
数刻後、現場…
「ラン、スリープキューブ!!」
シンコの術式が炸裂すると、イノシシの群れは一斉にパタパタと平原の草に倒れ伏した。寝ていない個体も何匹かいる。もう一度「ラン、スリープキューブ!!」前回レジストした物もさすがに眠りこけた。起きているのは通常のイノシシと…ボスの『フェイタル・ファング』!!
「アゲハ先生方お願いします!!オンセさんは向こうのを!!」
「おう!!」「分かった!!」
シンコの号令にレッカとオンセが、それぞれの標的へと駆け寄る。
「ラン、プロテクト!!」
キュリアの術式が飛び、レッカのミスリルアーマーと、オンセのレザーアーマーが光の膜につつまれる。
「おおおりゃぁぁぁ!!」
レッカが裂帛とともにミスリルオードを抜き放ち、ザクっ!!『フェイタル・ファング』の分厚い毛皮に斬りつける。一合!二合!!イノシシの毛皮に幾筋もの斬り傷が走り、レッカが負った傷はキュリアの回復魔法で癒えて行く。ザクっ!!不意にイノシシは後ろ脚を折った。気配を消して近寄ったヒサゴが、『エンチャントウェポン』を纏わせたダガーで背後から斬りつけたのだ。
「す…すごい………」
シンコは思わず見惚れた。あれが、彼女等の、本来の戦闘力………
一瞬、レッカがこっちを見て、アゲハと目配せをする。ガチャっ!!鎧の金属音を立ててレッカは後ずさると、
「ラン、ファイヤーボール!!」
アゲハの術式が走り、杖の先から飛来した火の玉は、『フェイタル・ファング』に命中し、ボっ!!巨大イノシシは火だるまとなる。
ブ モ ォ ォ ォ ォ … 悲鳴とともにネームドモンスターは倒れた。
向こうではオンセが、通常型のイノシシを倒していたところだった。キュリアが彼女にもヒールを飛ばしていたため、オンセは戦いきれたらしい。
「じゃあ、ザコが起きないうちに撤収しようか。」
ヒサゴに促され、シンコ達は現場を後にした…
※ ※ ※
『南都』冒険者ギルドに帰った6人は、カウンターの受付嬢にクエスト達成の報告をし、報酬を受け取ると山分けにした。
「これでクエストは終了だ。」
ヒサゴが言った。
「はい。」
シンコが答える。
「君達の新人研修も、全て終了だ。」
「はい…」
新人冒険者達の研修の日々は終わった。講座と訓練、パーティーでの実戦の、過酷な、しかし充実した日々が…
「シンコ、オンセ………」
一呼吸置いて、ヒサゴは告げる。
「…今まで、お疲れ様。」
「これからも修行サボるなよ!」
「あなた達にラフカディオ様のご加護があらん事を…」
レッカとキュリアが口々に言い、最後にアゲハが、
「…何か困った事があったら、いつでもいらっしゃい。」
シンコはにっこりと微笑んで、
「はい!皆さん、本当にお世話になりました!!」
※ ※ ※
分かっていた事だった。
パーティーに魔術師は2人要らない。そして、シンコにアゲハの代わりは務まらない。
オンセは…いかに前衛不足のパーティーとはいえ、新人を一から鍛える余裕は無い。
魔術師ベインティシンコ、戦士オンセ、冒険者パーティー『ファングドフラワー』仮入隊期間満了…
「あーあ…残れなかったか~~~」
オンセが妙にサバサバした口調で言う。
シンコはギルドの天井を見上げ、呟く。
「…どうせこんなもんよね…」
だがその口調に、ギルドに来たばかりの頃の悲壮感は無かった。
向こうから2人の少年がやって来た。戦士とスカウト。スカーのパーティーに仮入隊していた新人だ。どうやら彼等も仮入隊先に残れなかったらしい。
自分はアゲハ先生のパーティーにはいられない。隣には研修期間を共にし、同じくパーティーを抜けた戦士のオンセ。己が胸にはアゲハ先生がくれた数々の教え。そして、目の前には同じくパーティーから暇を出された新人冒険者。この状況でシンコが成すべき事は…
一瞬、シンコの人見知りが行動を躊躇させる。だが、迷いは一瞬だった。どうすればいいか、何をすればいいかは分かっている。この『南都』で、生きて行く術は、もう手に入れた。
コツコツコツ…ブーツの靴音を響かせて、シンコは2人の側に寄り、何かを告げると、2人は満面の笑みを浮かべ、戦士がシンコの両手を掴んで嬉しそうに上下させる。
反対側からまた2人の少年がやって来た。戦士と侍祭…セイス。2人はベアーのパーティーに仮入隊しており、やはり除隊したらしい。シンコはセイスに駆け寄り、何かを告げる。
その光景を酒場のいつものテーブルで見つめていたアゲハ達は、
「ま、最悪、あたし達がおせっかいを焼こうかとも思ってたけど…」
「心配は無かった様ですわね…」
※ ※ ※
翌日、『南都』冒険者ギルドに、新たなパーティーが結成された。
掲示板に貼られたパーティー名は、"New Leaves"。
全員が新人で、リーダーの欄には、シンコの名が書かれていた。




