第4-13話 最後の授業って、何だ!?
私は親を知らなかった。知識としては知っていたが、実感としては知らなかった。
物心がついた頃から、私の周りには、キンダーガーデンで一緒に暮らす、同じ年頃の子達が20人くらいと、数人の先生達…
先生達は私達に愛情を持って接してくれていたと思うが、時折見せる、哀れむ様な視線が怖かった。
『かわいそうな子達…』そう、言われている様な気がした。実際、そう思われているんだろう。
私達が少し大きくなった頃、キンダーガーデンで一緒に暮らす子の誰かがこう叫んだ事があった。
『ぼくたちはいつか、冒険者にさせられて化け物にたべられちゃうんだ!!』
キンダーガーデンの先生達がずっと言ってた、『あなた達はみんなが育ててくれてるんだから、大きくなったらみんなのために働きなさい。』その意味が、何となく分かった瞬間だった。
15歳になったキンダーガーデンのお兄ちゃんお姉ちゃん達が、みんなからお祝いされて『卒業』して行ったが、行った先がどこで、何をしてるのか、うっすらと理解した。
ああ、私達は大きくなったら、冒険者にさせられて、モンスター達と闘わされる運命なんだ、って…
………出来る訳が無い。
キンダーガーデンに隣接する修道院にある数個の小さな墓標、その中の一つに刻まれている、"Cinco"。私と似ている名前の刻まれたお墓。私と同じく陥落する『奧都』から助け出された、身寄りも名前も分からない赤ん坊の1人。環境の変化のストレスで、キンダーガーデンに来てすぐに死んだ赤ん坊の…
あの墓石が、私の遠からぬ将来の運命だと、ずっと私は思ってた。
大人になるのが、怖かった。キンダーガーデンを卒業する日が。冒険者にさせられる日が………
キンダーガーデンを卒業した私は、『象牙の塔』に入る事になった。
白状しよう。キンダーガーデンの先生が絵本で読み聞かせてくれた童話の、魔法使いに憧れが無かった訳じゃない。
でも、いくら一生懸命魔法の修行をしても、私の魔力は一向に伸びなかった。攻撃魔法の基本である、『ファイヤーボール』も撃てなかった。卒業間近になって師匠から、冒険者になっても魔術師特権は得られないと告げられた。
『こんなもんよね………』
いつの間にかそれが、私の口癖になっていた。私の名前…『ベインティシンコ』…名前らしからぬ名前は、身元が分からなかった25人の赤ん坊につけられた、異国の数字。"Venticinco"は、『25』。25人の赤ん坊の、一番下っ端。それが、私…
こんなもんよね…私なんて所詮、こんなもの………
そして私は『象牙の塔』を卒業して、冒険者になった………
※ ※ ※
ある日の朝…
冒険者ギルドの教室に集まる5人の魔術師の卵達。そこに、ブーツの音を響かせて、アゲハが入って来て、黒板の前で止まる。
「起立!!」
シエテの号令で、シンコを含む他の4人と一緒に立ち上がり、
「礼!!」
5人とアゲハはお辞儀をし、
「着席!!」
生徒達は席につく。
「では、本日の授業を始めます…」
そう言いながら、アゲハは全員を見回す。
新人研修の最終日、最後の授業が、始まった………
※ ※ ※
アゲハの言葉を一言残らず、シンコは脳裏に刻み込む。連日午後から行っている演習での経験とすり合わせ、疑問に思った事は質問し、大事な事はメモを取り、シンコがこれまでずっとして来た事を、最後の授業でも、変わらず…
そして…
いつもよりわずかに早く授業を切り上げたアゲハは、改めて生徒達を見回し、こう告げた。
「最後になりますが、皆さんの中には、本当は『北都』で冒険者になりたかったのに、『南都』に配属されて、落胆している人もいるかもしれません…」
シエテが顔を伏せた。
「『北都』より比較的安全な『南都』で、年季が明けるまで安全なクエストだけをこなそうと思ってる人もいるかもしれません。」
ドーセが苦笑いした。
「冒険者になるのが怖かった、本当は冒険者になんかなりたくなかった人もいるかもしれません。」
シンコは目を伏せて胸の前で両手を握った。
「ですが、考えてみてください。
『奧都』を追われた人達を含む、50万にも及ぶ人口。『奧都』から首都機能が移転し、政治、経済、文化の中心。そして『離宮』には王族が住まう、人類最後の拠点、『南都』。
もし万が一、ここが落ちれば、この国は滅びの道をたどるでしょう。
『南都』もまた、冒険者の頂に違いありません。気を引き締めて、任務に挑んで下さい。」
アゲハの声は、段々と熱を帯びて来た。
「そして、街で安全な仕事についても、大工なら屋根から落ちたり、荷運びなら崩れた荷物の下敷きになったり、道を歩いていても馬車に轢かれたり、命の危険から完全に無縁にはなりません。ましてや万一、『南都』にモンスターが侵攻して来たら!?戦う力のあるあなた達の方がまだましかもしれません。
あなた達には、戦う力があります。その事を、どうか忘れないで下さい。」
一瞬、教室が静まり返る。最後にアゲハは一言、こう付け加えた。
「…あなた達のこれからの人生に、幸多からん事を…以上です。」
「一同、起立!!」
シエテの号令に4人は席から立ち上がり、
「礼!!」
4人は深々とお辞儀をしながら、
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
声をそろえて言う。
「着席!!」
皆が席に座る中、アゲハ先生はブーツの音を響かせながら、教室を出て行った。
シンコがメモを取った紙をまとめていると、ドーセが、
「実は俺、仮入隊してるパーティーに、このまま残れって誘われたんだよね。丁度パーティー分けするから、魔術師のいない方に入れって…」
「よかったじゃない。ま、実は私もなんだけど…」
シエテが言った。
「私も…別のパーティーから誘いが来てる。仮入隊したパーティーのリーダーからの紹介らしいけど…」
キンセが言った。
「ねえ、これってやっぱり…」
シエテが意味ありげに言うとドーセは、
「ま、そうなんじゃね!?」
「ギルドも私達の事、少しは考えてくれてたって事ね…」
今回の新人研修、特に、午後からの他パーティーへの仮入隊した上での演習には、『もしお眼鏡にかなったなら、そのまま正式入隊させて』という、ギルドからの意志があった。そして、『パーティー分け』という慣習がある上に、ランクDでパーティーランクを下げにくい魔術師は、そのまま仮入隊したパーティーに残れるケースが多かった。
ガタっ!! シンコは荷物をまとめると席から立ち上がり、会議室を後にした。向かう先には、既にみんな集まっていた。
アゲハ、キュリア、レッカ、ヒサゴ、そして、シンコと同じく仮入隊の、オンセ。シンコが仮入隊しているパーティー、『ファングドフラワー』。女ばかりの4人で、アースドラゴンもワイバーンも倒した、『南都』最高峰のパーティーの1つ、シンコの憧れの存在…
「じゃあ、ごはん食べたら行こうか。」
ヒサゴが言った。
最後の演習が、始まる………




