第4-12話 人に教える事の難しさって、何だ!?
某日、夕方…
「そう言えばさ、アゲハ…」
「何よ!?」
ヒサゴに言われてアゲハが問う。
「あんたさっき、ギルドの中庭でやらかしたらしいわね。」
「的が1個、消し炭になっていましたわ…」
キュリアが言った。
「ぐっ………!!しょ、しょうがないでしょ!?あれは、教師としての、教育の一環よ!!」
少し赤くなりながらばつが悪そうにアゲハが言う。
「…あのなぁ…そんな話、俺の店じゃなくて他所でやれよ…」
カウンターの中のロクスケが言った。ここは路地裏通りのロクスケの呪文屋だ。
「それこそしょうがないでしょ!?生徒が聞いてる危険性のあるギルドじゃ話せない事もあるし、あたいやレッカの家は遠いし。」
「………」
納得いかない顔でロクスケは向こうを向いた。
「話、戻すけど、あの事に関しては、私はアゲハの肩を持つよ。」
レッカがいつになく真面目な顔で言うと、むくれたままのアゲハが、
「あたしの生徒の一人がさ、その子は魔力が結構高くて、キューブ系だけじゃなくライト系や、普通のファイヤーボールも撃てるくらいなの。」
「へぇ…優等生じゃん。」
「…その子がクエスト中、その豊富な魔力でバンバン敵に攻撃魔法を撃ちこんだら、怒ったモンスターがその子に向かって行って…」
「あらら…」
「その時は難を逃れたんだけど、クエストが終わった後、パーティーの戦士とその子が、『少しは攻撃を遠慮しろ』『そっちこそちゃんとヘイトコントロールしろ』って…しまいには他の新人戦士と魔術師まで加わって大喧嘩に発展したの。」
「まあ…」
キュリアも呆れ顔だ。
「…あたしも最初は放っておいたのよ。立ち回りの議論は大事だからと思って…でも、あまりにも周りを気にせず大声出してたから、あたしもつい…」
「つい!?」
「…口論してた全員を中庭に連れて行って、目の前で的に『フレイムボール』をぶつけてやって、そして言ったの。」
「………何て、仰ったの!?」
「『これが、至近距離で最大火力をぶつける魔法よ。こういう事が出来るなら、遠慮なく魔法を撃ちまくって、敵のヘイトを稼ぎなさい』って………」
「その結果が、あの消し炭になった的って訳………!?」
(なんて無茶な事言ってんだ、こいつは!?)
カウンターで耳を側立てていたロクスケも呆れた。
「…おかげで始末書を書かされて、燃やした的は弁償させられたわ。でも………いい傾向だとは思うのよ。」
「いい傾向!?」
「ギルドに来たばかりのあの子等は、絶望した様な顔をしてたでしょ…」
「…ま、あの子等だけじゃなくあたい等も、冒険者は『やらされてるもの』だからね…」
「それが、冒険者という仕事や役目に、前向きに取り組める様になって、その果てに立ち回りへの議論や、あの喧嘩が起きたの。」
「だから、いい傾向だと!?」
命がけの戦いをさせられる事に怯えていた新人達も、今では真剣に講義や訓練に取り組む様になり、休憩時間でも教室や酒場で、立ち回り等について議論する姿が見受けられた。
「あたしは白熱しすぎた様だったから、冷水を浴びせただけ。喧嘩も口論も話し合いも大歓迎。パーティーメンバーと向き合わず、ワンマンプレイに走るのが最悪。」
(それ、お前が言うか!?)
ヒサゴ達と組んだばかりの頃の、アゲハの陰口を聞かされていたロクスケは思った。
「アゲハ…あんたひょっとして、『南都』に来たばかりの頃の自分の態度を…」
ヒサゴの問いにアゲハはむすっとしたまま、
「…あの頃のあたしをぶん殴ってやりたいわ…」
その言葉にロクスケはフっと笑った。
「そう言えば、うちのシンコはその時どうしてたの!?やっぱり魔術師の側に加わってたの!?」
「…あの子は周囲で傍観してたみたいよ。元々モンスターのヘイトを稼ぐ程強力な魔法を撃てない上に、あの性格だから…実は引っ込み思案でメンバーとのコミュニケーション不全を起こす危険性も憂慮してたけど…どうやらその心配は無さそうね…」
「何たってカレシ作っちゃうくらいだもんね。」
(女って本当にこう言う話が好きだなあ…でも、あの大人しそうな子に男!?)
「ちなみにオンセも傍観してたみたい。魔術師にヘイトが行くなんてあの子には無縁の悩みだから。それに…魔術師がヘイトを稼いでくれたおかげで、あの子は死なずに済んだんだし…」
「…そうよね…」
ゴブリンに腹を刺されたオンセを助けるため、シンコはゴブリンに石を投げた。重い鎧を着れない魔術師である彼女が…本来なら、褒められた行動では無い。だが、定石とされるいかなる手段を用いても、あの状況を覆す事は出来なかっただろう。
「そう言えばアゲハ、あんた、シンコがギルドに来た初日に、個人的に会ってたみたいね。『シンコ』なんてあだ名も、その時あんたがつけて、この店を紹介したそうじゃない!?」
「………あの日、あの子が一番、死んだ魚みたいな目してたからね。あたしも身に覚えがあったし…」
アゲハとシンコの違いは、『北都』から来たか、『象牙の塔』から来たかくらいだろう。
「その割にはあんた、あの子に結構厳しく接してるじゃない!?」
ヒサゴが問うと、アゲハはしばし黙った後に、
「…だからこそ、甘やかす訳にはいかなかったのよ。」
「ま、あたいにも身に覚えはあるけどね…」
今や何人もの新人スカウト達を指導しているヒサゴは言った。
「甘やかしてもいけないし、厳しすぎてもいけない。おまけに昔の自分が出来なかった事も、やりなさいと教えなきゃならない…」
レッカが言うと、キュリアが、
「難しいですわね…人に物を教えるというのは………」
それから4人はふと天井を見上げ、
「でも、それも…」
「ええ。明日で終わりかぁ…」
「…と、言うわけだから、今後何かあったら、あの子等にシティアドベンチャーを依頼したげなさい。」
「どうせ聞いてたんでしょ、ロクスケ!!」
言われてカウンター内のロクスケは、
「…へいへい。」




