第4-11話 幼馴染との再会って、何だ!?
別の日、冒険者ギルドの教室…
「ファイヤーボールは火を球にして飛ばす術式、スリープは催眠ガスを球にして飛ばす術式です。特に後者は何かにぶつかると広範囲に拡散して、小型モンスターなら大量に眠らせる事が出来て有効です。」
アゲハが良く通る声で講義する。
※ ※ ※
同時刻…
「『ヒールボール』が使える人も、接触式の『ヒール』を使って下さい。魔力消費を抑え、何より相手の怪我に適切な治療を施す意味でも、前衛さんを下がらせて癒して下さい。」
キュリアもまたよく通る声で講義する。
※ ※ ※
同時刻…
「魔術師は重い装備を着れません。遠隔地から攻撃出来るボール系を活用しなさい。」
※ ※ ※
同時刻…
「怪我を見落としては元も子もありません。ボール系を使わず、接触による回復に努めて下さい。」
※ ※ ※
「ボールを飛ばして…」
※ ※ ※
「ボールを飛ばさないで…」
※ ※ ※
「ちょっとキュリア!!」
「アゲハさん!!」
「「もう少し声を落として!!(下さいません!?)」」
アゲハとキュリアは、同時に声を上げた。
冒険者ギルドの会議室には、今日に限って前と後ろに黒板が置かれ、アゲハは前、キュリアは後ろ側の黒板で、魔術師と侍祭の生徒達が背中を向けて座る形で、授業を受けていたのだ。
「あんたが間借りしてるんだから遠慮しなさいよ!!」
「仕方無いでしょう!?今日は神殿で大事な式典があるのですから!!」
「何よぉ!!」「何ですの!?」
アゲハとキュリアが激しくいがみ合うと、魔術師と侍祭の生徒達からクスクスと押し殺した笑い声が起きる。そんな2人の様子を、一番後ろの席に座っていたシンコは呆然と見つめていた。午後からのパーティーでの『実習』でも、アゲハ先生とキュリア先生は頻繁にケンカを始める。それもかなりしょうもない原因で。なのに戦闘ではぴったりと息が合ってるのだから不思議だ。
「美人教師の、意外な弱点………」
ぽつりと漏れたその呟きを、侍祭達の一番後ろに座っていた…つまり、ついさっきまでシンコと背中合わせに座っていたはずの青年が聞いて振り向き、2人は目と目が合う。そして…
「………もしかして、ベインティシンコちゃん!?」
侍祭の青年は呟いた。この人、私を知って………いや、キンダーガーデンで一緒だったんだから当然か。整った顔立ちをよく見ると………面影がある。
「セイス…ちゃん!?」
言ってしまってから『ちゃん』はもう失礼な年頃だろうとシンコは思った。
「やっぱり!!『象牙の塔』に行ったけど、魔術師になったんだね!!」
にっこりと微笑む侍祭の青年…セイス。
「セイス君も…立派になって…」
「君こそ!!一瞬誰だか分からなかったよ!!こんなに綺麗にな………」
セイスは途中で言葉に詰まり、真っ赤になる。自分が何を言いかけたか気づいたのだ。
「え!?え!?えええ~~~っ!?」
そして言われたシンコも赤くなり、悲鳴を上げる。そして………
ようやく2人は、教室に集まっている魔術師と侍祭…全生徒達の視線を浴びている事に気いた。そして背後には、眉をしかめた2人の教師が立っており…
「あなた達…久しぶりの再会で募る話はあるんでしょうけど…」
「今は私達の授業に集中していただけるかしら!?」
「「ごめんなさい………」」
アゲハとキュリアに窘められて委縮するシンコとセイス。
「はぁー…まあ、怒っててもしょうが無いわね…」
「お互い声量には気をつけましょう…」
聖魔大戦を起こしかけたアゲハとキュリアは休戦してそれぞれの教壇へと戻る。生徒達も前と後ろの黒板に向き直る刹那、セイスは小声でシンコに、
(後でまた話そう。会えなかった間の事を、色々と…)
(うん………)
自分達は家畜、『南都』を襲う化け物共の餌にされる哀れな生贄。そのはずだったのに…
『南都』での日々は、『象牙の塔』やキンダーガーデンでの日々よりも眩しく輝いて見えた…
※ ※ ※
数日後、昼…
「生徒が先生より先にカレシを作った件について!!」
いつものテーブルで力説するヒサゴ。いくつかのテーブルをはさんだ向こうの席で、シンコとセイスが向かい合わせに座って食事をしながら談笑している。
「あー、相手はあの侍祭の!?」
「セイス君なら、見た目通りの好青年ですわよ。よろしいんじゃなくて!?」
アゲハとキュリアが言った。
「あんたは仕事に生きるんじゃないの!?予備役でギルドに残ってさ…」
レッカがからかう様に言うと、ヒサゴはむくれて、
「それでも!お嫁さんの可能性は残しときたいじゃない!!」
それから4人はしばし黙った後に、
「…ま、私達の周りって、ろくな男いないしね…」
「「そうよねー…」」
ため息をつくアゲハ、ヒサゴ、レッカを見て、キュリアは、
(まあ、これは、どっちがましか分からないですわね…)
※ ※ ※
同時刻、冒険者ギルドの中庭…
ブンブンブン…ヒサゴが頭上で紐の様な物を何回か振り回していた。小石が包まれた小さな包みの両端から紐が伸びた物の両端を手で掴んで振り回しているのだ。ブン!!紐の一端が放されると、紐から石が矢の様な速さで飛ばされ、ガン!正面遠くの的に当たる。
おお~~~ 冒険者になりたてのスカウト達から歓声が上がる。ヒサゴは説明する。
「これは投石器。そこら辺に落ちてる石を拾って飛ばせば戦闘補助に使える。スカウトはとにかく何でも使って考えて生き抜いて。」
それじゃあ、ノルマ10回、的に当たったら合格だから。そう言い残してヒサゴが後ろに下がると、スカウトの卵達はそれぞれ的に向かって石を投げ始めた。
ふぅ…ヒサゴが一息つくと、向こうからスカーがやって来て、
「ぃようヒサゴ!女教師なのにお前ぇも教えてる内容も色気が無ぇな!!」
「スカー…廊下にでも立ってる!?あんたの方こそ新人に今から悪い遊び教えたら承知しないよ!!」
呆れて言うヒサゴ。スカーのパーティーにも2人の新人…スカウトと、戦士が仮入隊して、ここ数日は午後から一緒にクエストをこなしているのだ。
「本っ当あたいの周りはろくな男いない…」
「ん!?何か言ったか!?」
「いいえ、何でも…」
「よう、ヒサゴ…」
声のトーンを落としてスカーが言うと、
「…何よ。」
ヒサゴが素っ気なく答える。
「これってつまり、そういう事だよなぁ。ギルドからの…」
「…でしょうね。」
「…で、お前ぇんとこの新入りは、どんな感じだ!?」
「…新人よね。」
「それだけかよ!?」
「頑張ってるわ。」
「そうか…」
「………あんたの所の新人さんはどうなの!?」
「…新人だな。頑張ってると思うぜ。」
「そうよね………」
それから2人はしばらくの間、中庭から見える空を見上げた。
「…で、どうすんの!?」
「お前ぇ等ん所と同じかなぁ…ベアーの所もらしいぜぇ。」
「そう…」
見上げる空が、季節の終わりを告げた…




