第4-9話 逃れられぬ運命って、何だ!?
「…最後に、『山脈』の『峠』には、決して近づかない様に。あそこは禁足地とされています。また、シティアドベンチャーでも、南東の丘付近には近づかない方が良いでしょう。あそこには王族が住む『離宮』があります。文字通り、あたし達とは『住む世界の違う』人々の場所です。面倒な事になるだけでしょうから…それでは、今日の授業はここまでとします。」
そう言ってアゲハは一礼して教室を去って行く。他の生徒達もそれぞれ荷物をまとめて教室を出て行く中、テーブルに座ったままのシンコは、授業内容のメモを見つめていた。
『東の第二門近隣』『小型動物モンスター』『東、南新街区』
『戦法はゴブリンと同じ』
しばらくメモと格闘した後、それをカバンにしまい、ガタっ!!シンコは席を立って、教室を後にした。
※ ※ ※
分かっていた事じゃないか。どうせこんなもんだって…
昨日の午後、配属初日でいきなりやらされたゴブリン退治。
シンコに向かって突進してきた汚らしい魔物共。
普通ならあのまま、シンコは殺されてた。
命がけの危険な仕事なのは分かってた事じゃないか。
そして、嘆いたところで己が身の上は変わらない。
なら………
諦めるのには慣れていた。
逃れられぬ運命は受け入れた。その先どうするかだ。
シンコのカバンに入れた授業メモそこにはこう書き足されていた。
『魔力の弱い魔術師->前衛の補助』
『前衛との連携』
その文字には、何重にも丸がつけられていた。
※ ※ ※
同日、昼、冒険者ギルドの酒場…
黒パンをかじりながら、オンセは思い出していた。午前の授業、東新街区の地下から出現したラットやらバットやらを退治した後…
※ ※ ※
自分達がへとへとになりながら共同でなんとか数匹のモンスターを倒す中、レッカ先生は華麗な剣技で、その何倍もの数をたった一人で倒したのだ。相手がはるかに格下のモンスターとは言え、信じられない強さだ。
「れ………レッカ先生………」
切れ切れの息でオンセは問う。
「わ………私達…も…先生みたい…に…強く………なれますか!?」
そう言われてレッカは一瞬呆けた顔になったかと思うと、カラカラと笑い出した。
「私なんか目標にしちゃだめだよ~!!私、つい1カ月前まで、パーティーで一番下っ端のランクDだったんだからぁ~~~!!」
「「「………」」」
今度は生徒達が呆ける番だった。
「ランクDっていったら、君達の同期の魔法使いや僧侶が、特権でランクDからスタートしてるでしょ!?私はそのランクDで、何年も燻ってたの。そもそも女で戦士なんて、腕力じゃあ男に勝てないし…」
「え…で…でも………」
何か言おうとしたオンセにレッカはにっこり笑って、
「だから、私なんか目標にしちゃだ・め。」
(でも先生あなた、ワイバーンをソロで倒したんでしょう!?)
オンセは心の中で思った。
※ ※ ※
時は再び現在、冒険者ギルドの酒場…
「………私もレッカ先生に食らいついて行けば、いつか先生みたいに強くなれるのかな………!?」
オンセがそう呟いたその時、不意にテーブルの向かいの席に座る者の気配があった。顔を上げるとそこには、ローブ姿の少女…シンコ。
「………ごはんを食べながらでいいから、話をしましょう…戦闘での、立ち回りについて…」
真面目な顔でそう言うシンコにオンセはニヤリと笑って、
「そうだね………」
逃れられぬ運命を受け入れたみなし児達は、目の前の問題に少しづつ、だが冷徹に向かい合って行った…
※ ※ ※
それを離れたテーブルから見つめていた『ファングドフラワー』の4人。
「シンコがオンセと話をし始めたみたいだよ。」
ヒサゴが言うと、アゲハが、
「魔術師は前衛との協力が必要だわ。いい傾向なんじゃない!?」
「そっかなー!?アゲハはワンマンで、モンスターを全部自分一人で片付けてたじゃない!?」
レッカがからかう様に言うと、アゲハは顔を赤くして、
「しょ…しょうがないでしょう!?あの頃はあたしも色々あったのよ!!」
※ ※ ※
同日、午後…
クエスト:『南都』南新街区の地下から現れた動物型モンスターを退治せよ(受注可能ランク:E)
「ラン、スリープキューブ!!」
シンコが術式を走らせると、通りを走り回り飛び回っていたネズミやコウモリがパタパタと地面に落ち、眠りこける。いや、1匹だけレジストしたネズミがいた。
「うぉぉぉりゃぁぁぁ!!こちとら毎日素振りさせられてんだぁぁぁ!!」
オンセが叫びながら、レジストしたネズミの首に剣を落とす。
ザ ク っ!!
※ ※ ※
同日、夜…
消灯前の自由時間に、大部屋の二段ベッドの下の段で、シンコとオンセは向かい合って座る。
「出来るだけ多く巻き込むために、密集度合いや風向きも考えて魔法を打ち込む場所を変えて…」
「それじゃあ、着弾場所を示すハンドサインとかを決めた方がいいのかな!?」
上の段からその様子を眺めていた同室の新人冒険者に、同じパーティーに仮入隊した別の新人が下から覗き込んで言う。
「あの………私達も打ち合わせしない!?」
※ ※ ※
翌日、午後…
クエスト:洞窟内のはぐれトロールを撃破せよ(受注可能ランク:D)
「ラン、スリープキューブ!!」
シンコが呪文を走らせたが、トロールは一瞬瞼を重そうにした後、すぐに頭をブンブン振って、棍棒を握り直すとレッカ先生と剣戟を繰り広げた。
「やっぱり…大きな敵には効かない…」
ステッキを力無く下ろすシンコの横で、
「ラン、ファイヤーボール!!ラン、フロギストンボール!!」
魔力消費の高いはずの炎の呪文を連発するアゲハ先生。
「え~~~い!!」
オンセが剣を振り下ろす。が、ガキぃ!! 『岩の様に硬い』とされるトロールの肉体には傷一つつかない。
『空気に慣れておく様に』そう言われて参加したクエストだが、改めて先生達の強さを痛感させられるだけだった。
「これでもくらえ!!ラン、ファイヤーライト!!」
スカウトのはずのヒサゴまで魔法を使った事に驚愕するオンセだったが、
「…ヒサゴ先生は魔法の前に何で『これでもくらえ』って付け加えるの!?」
「………魔法が使える盗賊には色々あるのよ。」
トロールと切り結びながらレッカが言うと、ヒサゴは、
「あたいはローグじゃない!スカウトだ!!」




