第4-6話 ゴブリン退治って、何だ!?
アゲハは、『南都』にやって来てからの、ロクスケやキュリアをはじめとする他の魔法使いとの交流や、編術者としての活動で、試しに作った『ファイヤーライト』の術式が、魔力消費量が少ない点を評価された事から、徐々に自覚して行った。
『自分の魔力は、常人よりも極端に高い』と…
普通の魔法使いは、魔力管理が非常に重要になる。そして、普通以下の、特に『象牙の塔』を出たばかりの新人魔法使いは、日に数回の魔法しか使えない事になる。
だから、アゲハは、新人魔術師達に、魔力管理の徹底を強調した。具体的には、
『ファイヤーキューブの様な単体攻撃系の術式の使用を禁じます。戦士を主戦力として魔術師はサポートに徹しなさい。そのために、スリープ系の術式を覚えて、自分が日に何回術式が使えるのか、今日はあと何回使えるのを意識しなさい。』と…
シンコが覚えている術式は、『ファイヤーキューブ』と『スリープキューブ』の2種類だけ。そして、シンコの魔力では、1日でこれらのいずれかが3発撃てる程度。
だから、アゲハにゴブリン退治の作戦を問われた時、こう答えた。
「『スリープキューブ』で眠らせて、抵抗された個体、起きた個体から、オンセさんに倒してもらいます。」と…
現場の洞窟まで歩く途中、ヒサゴはシンコとオンセに言った。
「君達にはヒーラーがいないから、キュリアにやってもらう。ただし使うのは『ヒールボール』を3発だけ。4発目を撃ったらその時点で失格とみなし、レッカを突入させるからね。」
「あんまり、無理をなさらないで下さいね…」
キュリアが申し訳なさそうに付け加えた。
やがて彼女等は洞窟の付近に到着する。物陰からうかがうと、洞窟の入口には、見張りのゴブリンが、2匹…
(どうする!?)
オンセが問うと、シンコは、
(1回目のスリープキューブで眠らせます。だからオンセさん、1匹ずつお願いします。)
(洞窟から新手が出て来たら!?)
ヒサゴが問うと、シンコは、
(むしろそれを狙って、2回目のスリープキューブを使います。)
(洞窟には入らないの!?)
(狭い洞窟の中では、私達より身体の小さいゴブリンの方が有利です。外におびき寄せて倒しましょう。)
(…オーケー。)
それだけ言うと、オンセは、スチャっ!!と、腰のショートソードを抜く。そして、シンコはステッキを構え、意識を集中させつつ、昼前までのアゲハの講義を思い出す。
『炎の魔法は確かに強力です。でも、上手く延焼させない限り、せいぜい1匹のモンスターにしかダメージは与えられません。それに対して、スリープ系の術式は、睡眠系の毒ガスを球殻で包んで射出する物で、何かに当たって球殻が破れたら、睡眠ガスは周囲に飛び散って、広範囲の敵を眠らせられます。そして、睡眠ガスはエアーより重いため、弾けた後は下に溜まります。あなた達が当分相手をするゴブリン等の背の低い小鬼が、背の高い人間の戦士より先に睡眠ガスを吸います。だから…』
シンコは術式を走らせる。
「ラン、スリープキューブ!!」
目に見えない睡眠ガスの球がステッキから放たれ、ゴブリンの1匹に当たり、
「Gue…」「Gya…」
2匹のゴブリンは唐突に瞼を重そうに閉じ、その場に昏倒する。
「よし、今のうちに…」
オンセは抜き身のショートソードを持ったまま眠りこける1匹のゴブリンへと歩み寄り、逆手の剣をゴブリンの喉元に突きつけると、
「悪く…思わないで、ね!!」
ザクっ!!これで1匹。続けて隣に倒れているゴブリンの首も落とす。これで2匹。
「はは…こりゃ楽でいいや。」
オンセは笑いながら言うが、シンコは冷静に、
「気を付けて下さい!!2匹見張りを立てているという事は、合わせて4匹では済まないと思います!!」
シンコの言葉に呼応するかの様に、
「「「Gya~~~!!」」」
表の騒ぎを聞きつけて、洞窟の中からゴブリンが出て来た。1、2、3匹…もう倒した2匹と合わせて5匹!
「ラン、スリープキューブ!!」
再び睡眠ガスの球がシンコのステッキの先端に出現し、洞窟から出て来たゴブリンの群れへと射出される。やがて3匹のゴブリン達は、パタパタと倒れて行く。
(倒したゴブリンは2匹、眠ってるのが3匹。私の呪文もあと1回残ってる。これなら、何とか…)
「じゃあ寝てるうちにこいつらを…」
そう言いながら眠っているゴブリンの首を落とそうとしたその時、
「Gya~~~!!」
叫び声を上げながら、洞窟から1匹のゴブリンが石斧を振り回しながら駆け寄って来た。6匹目!!
「ま、まずい!!」
「オンセさん!そいつ先に倒して!!」
シンコに言われてオンセは、
「お、おう!!」
ショートソードを持ち直し、盾を構えて新手のゴブリンと切り結ぶ。一合、二合…
(スリープキューブの効果はまだ効く。起きたら3回目を撃てば…間に合うはず。)
七合になるまで切り結んだ頃、
「Ooo…」
致命傷を負ったゴブリンは地面に倒れるが、オンセ自身もレザーアーマーで守られていない箇所に傷を負った。
パァァ…!!オンセの身体が柔らかい光に包まれ、傷が回復する。振り向くと、キュリアが右手を掲げていた。
「ヒールボール…1回目ですわ、お気をつけあそばせ。」
「あ…ありがとうございます!!よし!それじゃあ寝てる奴を…」
「オンセさん!洞窟から新手!!」
シンコが叫ぶと、錆びた短剣に粗末な木の盾を持ったゴブリンが、オンセめがけて突進して来た!!これで7匹目!!
「Uoo!!」ガキィっ!!「く…くそっ!!」
ゴブリンの短剣を盾で受け止めるオンセ。今度は7匹目との剣戟が始まった。
(ま…まだ効果は切れないはず…起きてから…寝ているのが起きてから最後の1回をかければ…)
ゴブリンと切り結ぶオンセと、地面で寝たままの3匹を、交互に見つめるシンコ。
「なかなかやるもんだね…」
戦闘を見ていたヒサゴが言ったが、レッカは、
「いいや駄目だね。あれ見て。」
オンセの息は段々と上がって来ており、剣筋も鈍って来ていた。スタミナ切れだ。ダメージを受ける場面が増え、キュリアもヒールボールの術式を2回使ってしまった。これで彼女のヒールは、もうおしまい。
バキっ!!「Uoo………」
盾を割られて袈裟懸けに斬られ、7匹目のゴブリンはついに倒れた。だが…
「オンセさん………」
シンコは真っ青な顔をしていた。
「え………!?」
気づいた時には、オンセの脇腹…レザーアーマーの隙間に、石槍が刺さっていた。それを握っているのは………寝ていたゴブリン!!呪文の効果が切れたのだ!!
ヌルっ!!腹から滲み出る赤黒い液体に、オンセの顔は青くなる。そして、寝ていた他2匹のゴブリンも起きてしまった!!
「あ、ああああ"あ"あ"………」
ガクっ!!オンセは地面に膝をつく。自身の血だまりの中に!!粗末な武器を構えた3匹のゴブリンが、彼女の周りを囲む。
「だめだ…2人は失格だ。レッカ出て!キュリア、ヒールを!!」
「待って!!」
ヒサゴをアゲハが制する。
コン! コンっ!!「Gya!?」「Gue!?」
頭に当たる石に、3匹のゴブリンは飛んできた方を向く。そこには、ローブ姿の人間のメス…新人魔術師のシンコだ。彼女が石を投げたのだ。
「「「Gya~~~!!!」」」
挑発されて激高した3匹のゴブリンは、目障りなシンコへと突進する。
「シンコさん何を!?」
キュリアは驚いたが、シンコは冷静だった。
(たとえスリープで眠らせても、オンセさんはもう戦えない。でも…)
シンコの前には一塊になって突進する3匹のゴブリン。
(これなら…)「ラン、ファイヤーキューブ!!」
ボっ!!シンコのステッキの先端に、炎の立方体が出現し、射出される途中で表面張力で球形に変形しながら飛んで行き、先頭の1匹に当たると、周囲の2匹にも延焼させる!!
「「「Gya~~~~~~!!!」」」
焼かれながら悲鳴を上げ、絶命する3匹のゴブリン。洞窟からは…さすがにもう出てこない様だ。
「オンセさん!!ラン、ヒール!!」
慌てて駆け寄ったキュリアによって、オンセの傷は癒される。パタン!魔力切れでその場にへたり込むシンコに、
「シンコ!!」
アゲハも駆け寄る。シンコはフラフラになりながらも、
「アゲハ…先生…ごめんなさい…言いつけを破っちゃいました…ファイヤーキューブ、使っちゃいました………」
シンコの言葉にアゲハは微笑みながら、
「………合格!」




