第1-7話 ギルドの盗賊って、何だ!?
盗賊…
冒険者の活動における、ダンジョン探索時の罠解除や鍵開け等を専門にこなす職業の者は、かつてはそう呼ばれており、実際に盗賊ギルドに所属する、名前通りの存在が担っていた。
しかし十数年程前、とある事件を発端とした冒険者制度の改革によって、盗賊は斥候と改名された。裏社会とは無関係の斥候ギルドが設立され、希望する者はそこで罠解除や鍵開け等、かつては盗賊の役目だった技術を学ぶ事が出来る様になった。今では冒険者における盗賊と斥候の人口の割合はほぼ半々だそうだ。結局のところ、
『南都』の善良な市民にとって、盗賊を名乗る者は社会の敵という事になる…
※ ※ ※
路地裏の狭く汚い部屋の中で、2人の男女が身体を重ねていた。陽の光の届かない薄暗い褥は、汗と体液の匂いで充満している。男の方はこの家の借り主、女の方は春を鬻ぐ者の様だった。
気だるけに女が半身を起こし、
「ふふふ…あなたって本当に素敵…」
蕩けたような声で言うと、男が、
「へへへ…じゃあもっと素敵な気分になるかぁ…」
その時、
「…なぁに、この匂い…」
「…お前ぇのいい匂いだ………焦げ臭ぇ!」
明り取りの窓から煙とともに何かの燃える匂いが漂って来た。こんな建物の密集した路地裏で火事になったら………!!
「に、逃げろぉ!!」「あ、待ってよぉ!!」
慌てて男女は取るものもとりあえず汚い家から出て来る。まずは全裸にシーツだけ巻き付けた女が、そして…
「何やってんの!!早く!!焼け死んじまうよ!!」
「お、おう………」
男が腰布に汚い包みを背負ってようやく出て来た。だが…
「火事なんてなってないよ…」
あれだけ煙が上がっていたにも関わらず、辺りは一切燃えていない。それどころか、煙もいつの間にか消えている。
「い、一体どうなって…」
「………動かないで!!」
男の背後から声がする。女の声…左腕を男の首元にまわした、ヒサゴだ。
「おっと、大人しくしないとブッスリ行くよ。」
そう言って右手に持ったダガーで背中を突つく。
「て…手前ぇは同業…いや、」
「斥候ギルドのスカウト。一緒にしないでね。」
「そりゃこっちの台詞だ!!」
「ねえ、盗賊のお兄さん、あんた、こんな路地裏になんでいるの!?」
「何度も何度もしつけぇぞ!!俺は出て行かねぇからな!!」
そう、この家はあの大家の所有する物件の1つで、彼こそが追い出しのターゲットの盗賊なのだ。見た目童顔のヒサゴがいくら凄んでも盗賊はカエルの面に水で、変わらずこの家に居座り続けているらしい。
「斥候のねーちゃん、そっちも仕事かもしれねぇが、手前ぇこそ俺を追い出していいのかぁ!?盗賊ギルドの怖〜い兄貴達が黙っちゃいねぇぜぇ。たった今からお前は人混みも裏通りも歩けねぇ、昼も夜も、暗殺者に怯えて暮らす羽目になる…」
「あー、多分それ、大丈夫よね!?あんた………盗賊ギルドじゃ無いでしょ!?」
「な…何言って…」何故か焦る盗賊。
「お兄さん、あんたなんで路地裏に住んでるの!?お兄さんギルドの盗賊なんでしょ!?だったら何で『日陰』にいないの!?」
「ど、どこに住もうと俺の勝手………」
「ちゃんと答えてね。お兄さんなんで『日陰』に居られなくなったの!?麻薬以外の悪い事ならなんでもやる『日陰』の盗賊ギルドに居られなくなった、一体何をやったの!?」
そう言ってヒサゴは盗賊が背負っている汚い包みにダガーをブスっと突き刺し、スっと引く。ガサガサっ!!包みからは特徴的な形状の乾燥された植物の葉っぱが大量に落ちて来た。盗賊の顔がサーッと青くなる。
「衛視を呼んで来たよー!!」
ヒサゴが揃いの武装をした男達を連れて来る。盗賊の男は現行犯逮捕で、もうこの家を出なければならないし、盗賊ギルドからも見捨てられるから、報復の危険性も無いだろう。
「これでクエストクリアだね。」
衛視達に連れて行かれる盗賊を見送りながら、ヒサゴが言った。
後に残された春を鬻ぐ女が、
「あ、あらあらあらぁ…あ、あいつ『もっと素敵な気分になる』って言ってたけどぉ、もうちょっとで薬漬けにされるとこだったのねぇ…怖ぁい!そ、それじゃあねぇ………」
そう言って去って行こうとしたその時、
「待ちなさい!!あたしはあんたに用があるの。」
そう言いながら出て来たのは、魔術師アゲハだ。




