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ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜  作者: 白洲詠人
第四部 ファイヤーキューブって、何だ!?
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第4-4話 憧れのパーティーって、何だ!?

アゲハの魔法講座が終わると、魔術師の卵達は酒場でめいめい昼食を摂った後、それぞれ仮入隊しているパーティーの下へ散って行った。


「シンコ!!」


ついたばかりの彼女のあだ名に振り向くと、そこにいたのは2人の女性。そのうち1人は、つい昼前まで自分の目の前で、魔術師の立ち回りについて講義していた女魔法使い。


「アゲハ先生………」


自分と同じ人間である事が信じられない美女が、にっこりとほほ笑んだ。


「午前に続いて昼過ぎからもあたしが教えるから、よろしくね!」


「こ…こちらこそ、よろしくお願いします!!」

深々とお辞儀するシンコ。事情通の新人によると彼女は、ランクBなだけでなく、元は『北都』の冒険者パーティーに所属しており、『南都』に活動の場を移してからも、半年程前に『南都』に接近しつつあったアースドラゴンを、ほぼ単独で撃破したらしい実力者だそうだ。


「あら…あなたがアゲハさんの生徒さんかしら!?」

向こうからやって来たのは、修道服に身を包んだ、これまたとびきりの美女だった。


「はじめまして。修道女(シスター)のキュリアですわ。」

キュリアと名乗った美女は上品そうに微笑む。まるで聖女の様な神々しさだ…いや、昼食時の事情通の新人の噂話で聞いていた。彼女は実際に、『聖女』と呼ばれているらしい。つい数か月前、『南都』に流行り病…『南都咳』が流行した際、新しい呪文で病人を癒して回ったらしい。


「お待たせー!みんな集まってるー!?」

向こうからもう2人の女性がやって来た。後ろにいるのはショートソードを腰に履いた少女で、なぜだかぐったりとしている。前を歩いているのは、剣を腰に履き、背中に盾を背負った女戦士。しかも全身赤銀色の綺麗な鎧を身にまとっている。後で知った事だが、彼女の鎧も腰の剣もミスリル製らしい。


「あなたがシンコね。私は戦士のレッカ。よろしくね!」

女戦士…レッカは元気に挨拶する。噂によると、つい一月前、『南都』にワイバーンが降り立った時、彼女がほぼ単独で倒したらしい、『ワイバーンスレイヤーのレッカ』…


「あ、あと、この娘も君の同僚だよ。」

そう言ってレッカは、後ろでへたばっている少女…新人冒険者の戦士オンセを指差す。


「よ、よろしく、お願い、しま…す………」


よたよたと歩み出て挨拶するオンセ。


(ね、ねえ…どうして…)

シンコが小声で尋ねるとオンセは、

(午前中ずっと、素振りさせられて、街中を走り回らされた………)

(それは………)座学だった自分達とは大違いだ。


「それじゃあ早速始めようか!」「キャっ!?」


あらぬ方向から声が上がり、シンコは思わず悲鳴を上げた。声の主はこげ茶色のレザーアーマーをまとった童顔の女性。


「はじめまして。あたいがリーダーのヒサゴだよ。よろしくね!!」

にんまり笑うヒサゴに、さらに困惑するシンコ。

(この人がリーダー!?でも、アゲハ先生達と比べると…)


「目立たないと思った!?スカウトとしては誉め言葉だね。普段から気配を出さない様にしてるし…」


そう言えば、アゲハ先生と一緒に誰かいたはずなのだが…気が付かなかった。


(誰一人とっても、すごい人ばっかり…こんな人達に、私、これから教えてもらえるの!?)

シンコの胸は高鳴った。人間社会から放り棄てられた生け贄だったはずの彼女の身には、昨日冒険者ギルドに来てからずっと、夢の様な出来事が立て続けに起きている。だが、これは夢ではない。れっきとした現実だ。


「あ、そうそうシンコ。」

にっこり微笑んだまま、アゲハは言った。

「授業でも言ったけど、『ファイヤーキューブ』の術式は、使用禁止だからね。」


…やはりこれは、夢ではなく現実らしい。


     ※     ※     ※


レッカはオンセと用があるからと言って別行動し、ヒサゴも彼女達について行った。シンコはアゲハとキュリアに連れられて、やって来たのは、路地裏通りにある、ロクスケのスクロールショップ。


「いらっしゃい…」

店主のロクスケが不愛想に挨拶する。昨日、シンコが店内で騒ぎを起こしたのを怒ってるのかと思ったが、


「愛想よくしなさいって言ってるでしょ!?」

アゲハが言うとロクスケは、

「へいへい…」

どうやらこれが、彼の通常運転らしい。そして、店主…ロクスケとアゲハ先生は、妙に仲が良さそうだと、シンコは思った。


「それじゃあシンコちゃん、言った通りに…」「あ、はい…」

シンコは陳列棚の中から『スリープキューブ』のスクロールを取ってカウンターに置き、

「これ下さい…」


「あいよ。じゃあ、昨日も書いた書類を…」

そう言ってロクスケは、カウンターの下から1枚の書類を取り出す。昨日シンコが『ファイヤーキューブ』の術式を買った後にも一度見たことがある書類だ。

「昨日も説明した通り、キューブ系の価格は金貨2枚。それを毎月銀貨1枚ずつの、24回に分割して支払ってもらう。もちろん、多めに支払ってくれても良い。1年後までに本来の定価、つまり銀貨20枚を支払えたら、残りは免除される。いいな!?」

「はい…」

シンコの目の前の書類にも、同様の内容が書かれている。そして、書類の右端には、スクロールショップの看板に貼られているのと同じ、双葉マーク。金に余裕の無い新人冒険者が装備を揃えやすくするための、冒険者ギルドの支援制度。ロクスケのスクロールショップも、その加盟店に選ばれたのだ。店側にとっては1年で定価を支払ってくれても良し、出来なければ2割増で売れるから良し、どちらに転んでも損はしない。万一支払いを渋ったらギルドが責任を持って取り立てる事になっている。シンコは書類の右下にサインをすると、銀貨1枚をカウンターに置く。


「毎度あり…」

ロクスケはそれを受け取り、シンコはそれを開こうとし…

「…ここで開くつもりか!?」

言われてシンコは昨日の痴態を思い出し、カーっと赤くなる。


「シンコ…橋をわたったところに、あたしの家があるから…そこで読んで来て。その…最悪、ベッドを使ってもいいから…」

アゲハが言うとシンコは赤い顔のまま、

「な、何とか、我慢します…」

そう言ってスクロールを持って店を後にした。それを見送ったアゲハはロクスケに、


「…で、どうなの、そっちは!?」


カウンターのロクスケは、

「まだ昨日の今日だぞ…来るとしたら、これからだろう。」

それから、シンコが出て行った入口のドアを見つめ、

「あの娘、お前のパーティーに配属されたのか…!?」


「あら珍しい…あなたが他人に興味を持つなんてね。」

「ロクスケ様は女の方には興味を持たれるのでは…!?」

アゲハとキュリアは何故か辛辣だ。


「そ、そんなんじゃねぇ!!でも…お前等の所に入れられたって事は、あの娘…」


「…多分、その逆でしょうね。」


「アゲハ…くれぐれも、ちゃんと教えてやれよ…」


「…分かってるわ。」


「言っとくけどアゲハ、お前の魔力は………」


「…だから分かってるって。」


その時、バタン!入口のドアが開き、シンコが帰って来た。手には白紙になったスクロールを持ち、何故か顔を上気させて…


「お待たせ…しました…」

新しい世界の扉を開いたシンコが言うと、アゲハは、


「じゃあ、レッカ達と合流して、午後の授業を始めましょうか。」

「失礼します、ロクスケ様。」

そう言い残して、アゲハとキュリアはシンコを連れて、店を後にした。

アゲハ:「そう言えば、治癒術師の新人研修はどうだったの!?」

キュリア:「授業の内容はともかく、会場が『ラフカディオ神殿』だったせいで、オーウェン師父様が気まずそうにされていましたわ。涙ながらに送り出した子達が、翌日にはもう戻って来たのですから…」

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