第4-3話 魔術師の心得って、何だ!?
アゲハは教室の中の新人魔術師達を見回して、言った。
「さて、本格的な授業に入る前に…皆さん、『ファイヤーボール』って、何でしょうか!?」
「…」「………」
4人の生徒達は、あっけにとられた。一番前のシンコも、
(ファイヤーボールって、基礎的な攻撃呪文よね。まあ、私は使えないんだけど…)
アゲハは皆の予想通りの反応を見て、
「…例えば氷は凍る物ですから、アイス系の呪文を唱えたら相手が凍るのは分かります。風は吹く物ですから、ウィンド系の呪文を唱えたら風が吹いたり、かまいたちで物が切れたりするのも分かります。」
何をいまさら当たり前の事を、それが、魔術師の卵達の総意だった。
「では、火は!?玉になって飛んで行く物でしょうか!?」
(え………!?)
アゲハの問いに、シンコは、魔術師達は、答えに詰まった。その反応に目を細めつつ、アゲハはこう付け加えた。
「火を、玉にして飛ばすには、どうすれば良いでしょうか!?いえ、遠くの敵に火をかけるには、どうすれば良いでしょうか!?」
(え、えーっと…油を思いっきり強く飛ばして、火種を投げれば……)
それで上手く行くとは、シンコは思えなかった。
「ね!?『ファイヤーボール』という呪文は、使い勝手が良すぎるんです。火を玉にして、飛ばすという呪文は…では皆さん、ここで質問です。こんな便利な呪文が、何故、あるのでしょうか!?」
再びポカンとなる新人魔術師一同。シンコはアゲハを見つめると、それに気づいたアゲハが、
「はい、そこのあなた、答えてみて!」
指されたシンコが、皆の注目を浴びながら、よろよろと立ち上がる。
(ううう~~~…私なんか見ないでぇぇ~~~………)
何とか立ち上がったはいいが、真っ赤になって俯くシンコ。
「はい答えて!こんな便利な魔法が、何故、あるのでしょう!?」
さらに赤くなるシンコ。
(ううう~~~…何でアゲハ先生の方見たんだろ………)
本当に何故、シンコはアゲハを見つめたのか…あの時、シンコは何を考えたのか…アゲハの問いに閃いて、即座に否定した、何を、思った………!?
「………誰かが、作った…か…ら………」
クスクス…その頭の悪そうな、当たり前すぎる答えに、周囲の新人魔術師達から笑いが漏れ、シンコは更に真っ赤になったが、
「はい正解!!」
「へ………!?」
アゲハの返事に呆けるシンコ。
「こんな便利な物が、何もない所から湧いて出るはずがありません。昔々の誰かが作ったからです。そして、誰かが作れたものは、私達にも作れるはずです。」
新人魔術師達の目から、何千枚の鱗が落ちた事だろうか。
「そして…ここでもう一つ、考えてみて下さい。もし、あなたが、魔法の呪文を作るとすれば、より使いやすくするために、何を工夫しますか?」
三度ポカンとなる新人魔術師達。シンコもアゲハの言葉の意味を測りかねた。
(アゲハ先生…何を言ってんだろう…)
何を言ってるのか、何て言えばいいのか、何て答えればいいのか…いや、何を答えさせたいのか………!?何を………
(!!)
シンコの脳裏に再び閃く物があった。そして再びおずおずと手を上げる。
「はい、あなた!」
アゲハに指されて再び立ち上がるシンコ。アゲハは何を答えさせたいのか…そのヒントは、あの路地裏の呪文屋で手に入れた、『ファイヤーキューブ』の術式にある!
「呪文詠唱を………無くします。」
「はい正解!!」
アゲハに褒められて、シンコは心なしか顔をほころばせながら、着席する。
「今、『南都』の魔術師や治癒術師は、タイムラグがある上に唱え間違いを犯す危険性のある長ったらしい呪文詠唱の必要が無くなりました。みんな、『ラン』の一言で火の玉も治癒も出来る、文字通りの『魔法使い』になれました。そして…」
ここでアゲハは一呼吸置いて皆を見回すと、その豊満な胸に手を置いて、こう告げた。
「『ファイヤーキューブ』の術式は、私が作るりました。」
ざわっ!!教室がざわついた。魔法の呪文を新しく作るというだけで驚きだというのに、その作り手が自分達の目の前にいて、先生をしてるというのだ!!しかもこんなに若くて美人でグラマー!!思い出した!!昨日買った『ファイヤーキューブ』のスクロールの表紙に、確かに"Ageha"の名前が書かれていた!!
「『ファイヤーボール』に限らず、全ての攻撃系の呪文の基本は、生成と形成と射出です。フロギストン…燃料と、オキシジェン…助燃材を生成し、球形に形成し、着火して射出する。その際、火の玉の大きさや、射出の力の強さや、射出方向の指定に大量のパラメータを設定する必要があるため、『ファイヤーボール』の呪文は大きな魔力を持たなければ使えません。私はこれを、私の術式作りの師匠に当たる人と共同で改良し、火球の大きさや射出のベクトルの設定を排して一定にすることで、必要魔力量を大幅に削減させました。これは、魔力の比較的高い一般人でも使えるレベルです。」
(その一般人にも使える『ファイヤーライト』は、私には使えなかったのよね…)
アゲハの言葉にシンコの心は落ち込んだが、
「…ところで、フロギストンとオキシジェンを球形に形成する部分ですが、球の中に均等に点を配置するのは、ものすごくややこしいロジックが必要なんです。これについては皆さん、寮の部屋に戻ってから各自考えてみてください。それで、その球の形成部分は、私の師匠もロジックを解明出来ず、一般的な『ファイヤーボール』の呪文に使われているモジュールを、ブラックボックスのまま使っているんです。ですが………立方体なら、縦横高さに等間隔に配置すれば良いのですから簡単です。」
シンコの脳裏に昨日の光景が浮かんだ。自身が作り出した炎の立方体。
「ですから私は『ファイヤーライト』をさらに改良して、フロギストンとオキシジェンを立方体に形成する様にして、必要魔力量をさらに大幅に軽減しました。」
(やっぱり………)
シンコの頭の中で、全てが収まる位置にはまった様な気がした。
「皆さん…魔法の呪文は作れます。本来使えない魔法も、工夫一つで使えます。誰でも、『魔法使い』になれます。だから………常に考えて下さい。疑って下さい。『どうして!?』『どうすれば!?』『何だ!?』と、目の前の問題のその奥にある問題について考えて下さい。それが、あなたの、そして、あなた達の生き残りの手段になります。」
シンコの胸が熱くなった。使えないはずだった火の玉の魔法、その作り手に教われる機会。地獄の日々の始まりだったはずの冒険者生活に、女神と天使の両方に会えた様な心地になった。
「さて………この『ファイヤーキューブ』の術式ですが………」
シンコはワクワクしながら、アゲハの次の言葉を待った。そして………アゲハは言った。
「…皆さんには、その使用を禁じます。」
(は………)
シンコの脳内が一瞬空白になり、そして、心の中で叫んだ。
(はああ~~~っ!?)




