第4-2話 新人研修って、何だ!?
同日、夜、『南都』冒険者ギルドの、寮の大部屋…
その一角の二段ベッドの下の段で、シンコは毛布にくるまっていた。
横からも上からも、誰かの寝息が聞こえて来る。いびきをかく者がいないのが救いだ。
(眠れない…)
『南都』への移動で疲れているはずなのに、シンコの頭は興奮で冴えていた。
ベッドの中でシンコは思い出していた。呪文屋での事件の後、冒険者ギルドに帰ったその後…
※ ※ ※
中庭の練習場の隅の、飛び道具の練習用の的。向かい立つのは、シンコ。許可は、もう取ってある。
(店主さん…ロクスケさんは仰ってたけど………本当かな…!?)
シンコはおずおずとステッキを的へ向けて突き出し、すぅ…大きく息を吸い、頭に浮かんだ言霊を叫ぶ。
「ラン、ファイヤーキューブ!!」
ボ ン! 「わっ!!」 唱えたシンコ本人も驚いて尻もちをつく。ステッキの先から炎の立方体が現れ、前方へと飛んで行ったのだ!!炎の立方体は飛んで行く途中で球形になり、ボ ッ!! 的に当たる!
(わ…私が火の玉の魔法を………)
中庭の地面に座り込んだまま、シンコは呆然としていた。
「い、今の、何!?」「ベインティシンコ…」「あ、あんたがやったの!?」
爆音を聞きつけて、3人の魔術師が血相変えて駆けつけて来た。シエテとドーセとキンセ…『象牙の塔』から今日、冒険者としてデビューした同期達だ。
「あ、あわ、あわわ…」
すごい剣幕の3人にあわあわオタオタするシンコ。
(わ、私、やらかしちゃった…)
「こうしちゃいられないわ!!誰か人を!!」
「係員…受付の人を!!」
「俺、呼んで来る!!」
「お願い黙ってて!!こんな事もうしないから!!」
問題にされてギルドを追い出されると思っていたシンコに、シエテは、
「何言ってんのあんた!?ランクを上げてもらえるかもしれないでしょ!?」
「………へ!?」
※ ※ ※
再び夜、大部屋のベッドの中…
「ふぅ………」
シンコは小さなため息をついた。あの後、キンセが連れて来た受付嬢の前でもう一度ファイヤーキューブを撃ってみせたところ、受付嬢は息をのんだが、すぐに言った。
『ああ、ロクスケのスクロールショップですか。』
どうやら詠唱を必要としないファイヤーボールの軽量版は、『南都』では常識になっているらしい。こんな事、『象牙の塔』では教えてもらえなかったのに…
そして、シンコのランクは上げてもらえなかった。『攻撃魔法が使える様になったのは認めますが、あなたの魔力が一定量を越えていない事実は変わりませんから』だそうだ。
「こんなもんよね…」
周りを起こさない様に小声でシンコは呟くと、静かに目を閉じた。
最後に思い出したのは、昼間、ギルドで出会った、素敵な女性。
使えないはずだった炎の魔法の扉を開いてくれた女性、
25番を『シンコ』にしてくれた女性…
(アゲハさん…って、言ってたわね…出来る事なら、もう一度、会いたいな…)
そう思いながら、シンコは眠りに落ちていった…
※ ※ ※
翌朝、『南都』冒険者ギルド…
ここには普段あまり使われてない部屋がある。
重要なクエストのブリーフィング等に使用される、いくつかの会議室。8人くらいが座れる大きなテーブルに、大きな黒板が設置されている。
その入口のドアに、スカーやベアー達がへばりついている。
「なあ…俺達の時には、何つーか、こう…」
「ああ…こんな丁寧にはしてもらえなかったなぁ…」
そう言ってベアーは反対側の、酒場の掲示板を見つめた。一番目立つ掲示物には、『南都』冒険者ギルド所属のパーティー名がずらりと書き出され、その右に数人の人名が並んで書き足されていた。
今、会議室のテーブルには、ローブを纏った初々しい男女が緊張した面持ちで座っており、掲示物に書かれている人名の内のいくつかは、彼等の名前だった。その一席には小さな体をさらに縮こまらせて座るシンコの姿があった。
(な…何が始まるの!?)
いきなりパーティーを組まされて魔物の巣に突っ込まされる事を危惧していたが…魔術師だけでこの会議室に集めさせられた。
「邪魔よあんた達、どきなさい。」
会議室のドアにへばりついていたスカー達の後ろで声がすると、スカー達はドアの前を離れる。
ギィ…会議室のドアが開くと、コツ、コツ…ブーツの音を響かせて、奥から黒板の前へ、一人の女性が歩いて来た。胸元の開いたヘソ出しビスチェにミニスカート、とんがり帽子をかぶった、金髪の美女…
トクン!シンコの胸が高鳴った。
(アゲハさん!!)
アゲハは一番前のテーブルに座るシンコの視線を感じると、こっちを見てウィンクしてみせた。
(アゲハさん!私の事、覚えていてくれた!!)
アゲハは黒板の前で立ち止まると、会議室に集まる新人魔術師達を見渡し、言った。
「はじめまして。パーティー『ファングドフラワー』所属のランクB冒険者、魔術師アゲハです。」
「ランクB!?」「それって…どうやったらなれるんだ!?」
ざわざわざわざわ…新人魔術師達がどよめいた。綺麗で優しい魔術師さんは、実力も確かな雲上人であった。彼等もどよめきを遮って、アゲハは続ける。
「皆さんは、キンダーガーデン出身の冒険者の、最後の世代です。」
見習い魔術師達は、水を打った様に静かになった。
「皆さんには一日でも長く冒険者として生き延び、生きて除隊してもらわなければなりません。」
アゲハは見習い魔術師達を見回しながら続ける。
「そこで皆さんには、これからしばらくの間、午前中は私の講義を受けてもらい、午後からは数人ずつ現役パーティーに見習いとして仮入隊していただき、実戦を通して冒険者としての立ち回りを習得してもらいます。」
「やっぱり、今年のギルドの対応は違うよな…」
「ああ…もうギルドも国も、『次』を考えてんのかもな…」
会議室…教室の外のスカー達も噂し合った。
「ヒサゴやレッカ達も、新入りへの講義やその手伝いをしてるらしいぜ…畜生!聖女様はともかく、なんであいつらにそんな…」
「じゃあお前に教師の真似事なんて出来んのか!?」
「嫌だよぉ…面倒臭い。」
「ほら見ろ…適材適所って奴だ。」
教室の中で、最後にアゲハはこう付け加えた。
「私も、あなた達と同じく、キンダーガーデン出身の冒険者です。生き残りたければ、私の言う事を聞いて下さい。」
『あなた達と同じ』 その言葉が、シンコの心に沁みた。これから始まる絶望と暗闇の日々に、一筋の、しかし強烈な光が差した様な気がした。酒場の掲示物の一番最後には、"Fanged Flowers"のパーティー名と、その右隣に、"Venticinco"の名前…
(これから私はしばらく、アゲハさんとずっと一緒なんだ………)




