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ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜  作者: 白洲詠人
第四部 ファイヤーキューブって、何だ!?
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第4-1話 落ちこぼれ魔術師25号って、何だ!?

山間の深い谷間に、唐突に塔が建っていた。


象牙の様に白い塔の先端は、ぼやけてよく見えない。


その最下層には両開きの巨大な扉があり、ギ ギ ィ… 重い音を立てて扉は左右に開かれ、そこからローブに杖の人影が、5つ、ぞろぞろと出て来る。皆、一様に若い…いや、幼い。最後尾を遅れそうになりながら歩く人影は、杖を持っていない。フードを目深にかぶったまま俯いて、のろのろ歩く、小柄な人影…ローブで体型の見分けがつきにくいが、女性…少女らしい。


ギ ギ ィ… 少女の背後で扉が閉じる音が聞こえ、振り返るが…そこには既に塔自体が存在していなかった。


『象牙の塔』からの、卒業である…


ローブの一団は谷合を下ると、しばらくした所に馬車が停まっていた。傍に立っていた男から、名前を名乗ってから乗る様に促され、魔術師の卵達は、「ウーノ」「シエテ」「ドーセ」「キンセ」と、名前らしからぬ名前を名乗り、荷台にぞろぞろと乗って行く。最後に俯いたフードの少女が、消え入りそうな声で、


「ベインティシンコ…」


『キンダーガーデン』出身の魔術師の卵達を乗せた馬車はゴトゴトと走り出し、やがて谷を抜け、海沿いの街道に出ると、西へと向かう。やがて、馬車の前に見えたのは、二重の城壁に囲まれた大都市、『南都』…長年の塔暮らしだった彼女等にとっては、何年ぶりかに見る海と、街だったが………


荷台の隅で膝を抱えて俯いたベインティシンコにとっては、市場へ売られに行く家畜の心境だった。


「これからどうなるんだろうな、俺達…」

誰かが言ったその言葉が、そこにいる5人全員の心境だった…


What does "Fire Ball" means!? ~The scroll shop Rokusuke and his clients will run their programs~

Chapter 4.


     ※     ※     ※


『南都』の大通りに面した、大きな建物、冒険者ギルド…


そこには既に、ベインティシンコ達と同年代の少年少女が、大勢集まっていた。


革鎧を身に付けた男女が、あちらと、こちらに…ショートソードを腰に差して、バックラーを背嚢の上から背負っているのは戦士だろうか。ダガーを差しているのは斥候(スカウト)だろうか。向こうでは僧衣の侍祭達が、引率と思しき初老の高司祭から、「君達にラフカディオ様のご加護があらん事を。くれぐれも、危険な事をするんじゃないよ…」と、声をかけられている。


みんな、彼女と同じなんだろう。


あちこちから出荷されてきた、家畜達…


「後は屠殺されるのを待つ運命…」


己の口から出た言葉で、彼女自身、背筋が寒くなった…


ちなみに、主席卒業の魔術師ウーノは、ここにはいない。

彼は港に直行させられ、船に乗せられたらしい。

向かった先は、『北都』。どこぞのエリート部隊に入れられるらしい。


だが、それすらも、ベインティシンコにとっては、


貴人の食卓に上がるか、貧者の食卓に上がるかの違いでしか無かった…


     ※     ※     ※


『奧都壊滅』によって両親を失った子供達はキンダーガーデンに入れられて、成長すると冒険者にさせられ、モンスターと闘う事で自身の養育費を免除される。


だがその孤児達の中には、わずかではあるが、産まれたばかりの赤ん坊も含まれていた。


両親や『奧都』の兵士達が、己が命と引き換えに守った小さな命…


彼等、彼女等も、身元を徹底的に調べられた上で、キンダーガーデンに入れられた。だが…


それでもなお、どこの誰の子か分からない…すなわち、名前が分からない者も少なからずいたのだ。


総勢、25人。彼等、彼女等には、異国語の数字が名前として与えられた。(ウーノ)(ドス)(トレス)…そして、その中でも一番最後が、25(ベインティシンコ)


     ※     ※     ※


『南都』冒険者ギルド、寮…


部屋いっぱいに4つ並べられた二段ベッドの1つの、下の段…その、『人一人がようやく横になれる空間』が、彼女に与えられた居場所だ。他の同期の魔術師達…シエテ、ドーセ、キンセには、ランクDの2人用の相部屋が与えられたらしい。ローブのフードから見える、25番(ベインティシンコ)が下げている冒険者タグは、ランクE…魔術師なら原則ランクDから始める事が出来る。一定の能力があれば、だが…


「………こんなもんよね………」


彼女は独り言ちた。『相部屋』へ行った者達の手に渡されたのは魔術師の象徴とも言うべき長い杖。だが、彼女に与えられたのは、細く短いステッキ。


もう、希望を持つのにも疲れた…


屠殺されるのを待つ家畜。本物の家畜との違いは、食べられる相手が人間か、化け物かだけ。いや、モンスターの人身御供になったとしても、『南都』に住む人々に殺されたという点では、家畜と変わらないか…


新人冒険者へのオリエンテーションは、明日かららしい。それまで、ここで一人…周りは見知らぬ者ばかり…


「………私は何日生き残れるんだろう…」


どこか行こう。こんな所にいても憂鬱になるばかりだ。25番(ベインティシンコ)はヨロヨロと立ち上がり、フラフラと部屋を出て行った。


     ※     ※     ※


大部屋を出たとて来たばかりの『南都』では行く宛もない。寮に隣接したギルドの通用口へ入った途端、


ぼよん! 何か大きくて柔らかい塊にぶつかって、 「ひゃっ!?」 悲鳴を上げて25番(ベインティシンコ)はぺたんと倒れ込む。


「痛たたた…」


顔もお尻も痛い。でも、何に…いや、誰にぶつかった!?


「…大丈夫!?」


声が、聞こえた。若い女の人の、良く通る綺麗な声が…


「は、はひっ!ごめんなさ………」


25番(ベインティシンコ)の謝罪の言葉は途中で途切れる。目の前で自分にしゃがみ込む、先程の声の主の姿が目に入ったからだ。


腰まで伸びたくせのあるハニーブロンドの髪、短く尖った耳に、とんがり帽子。短いマントの下は、胸元の開いたヘソ出しビスチェにミニスカートというセクシーな格好、だが、不思議と嫌らしさも男に媚を売る印象も感じられない。


眩い光の塊、そんな感じがした。


「あら!?あなたは新人さん!?しかも魔術師ね。でも…」

それから謎の美人魔術師は、25番(ベインティシンコ)の腰を見つめる。そこにあったのは、長杖でも短杖でも無く、ステッキ…


「は!?はい…私、『ファイヤーボール』も使えなくて………」

25番(ベインティシンコ)は恥ずかしそうに言う。実際、恥ずかしい話だ。『象牙の塔』では落ちこぼれ、そのせいで、魔法の杖を授かれなかった。


「うーん………」

先輩魔術師は形の良い顎に指を置いてしばし考える。彼女は25番(ベインティシンコ)と同じくらいの年齢…いや、少し年上だろうか。という事は、25番(ベインティシンコ)と同じ、キンダーガーデン出身の冒険者なのだろう。でも、


(私と違って、なんて美人なんだろう…)


「あのね、新人さん…」

先輩魔術師は25番(ベインティシンコ)の被りっぱなしのフードを除ける。


「ひゃっ!?」

25番(ベインティシンコ)は悲鳴を上げるが、幼いながらも意外と整った顔があらわになる。美人の先輩魔術師は構わず続ける。


「新人さん…えーっと、お名前は!?」


「べ…ベインティ…シンコ…」

消え入りそうな声で、名前とはとても呼べない名前を告げると、


「『シンコ』ちゃんね。あたしはアゲハ。」


「へ………!?」

美人魔術師もといアゲハの言葉に、ベインティシンコ改め『シンコ』は呆けた。


「路地裏通りの奥の、水路の側の、ロクスケの呪文屋に行ってごらんなさい。」


「呪文屋さ…ん!?路地裏通りの…ロクスケ!?」

突然の話に呆けるシンコに、アゲハは、


「そこの店主は変わり者で偏屈だけど………あなたをきっと、『魔法使い』にしてくれるわよ。」


     ※     ※     ※


通行人に道を訊ねながら、ようやくたどり着いたロクスケのスクロールショップ。広げたスクロールを象った看板の下には、双葉をあしらったマークが着けられている。


戸惑いながら入って来たシンコを出迎えた店主…ロクスケに事情を話すと、彼はシンコに、魔力計測器のテスターを握らされる。針は左の白い領域を出なかったが、もう少しで真ん中の黄色い領域に達しそうだった。それを見たロクスケは、


「ふむ…ギリギリ『あれ』が使えそうだな。」


そう言うと、ロクスケはカウンターから、左の陳列棚の一角を指差す。壁には、


『お客様へ 若い女性の術者様は、お買い上げになった呪文書の店内での開封はご遠慮下さい。呪文書はご帰宅後、外部へ声の漏れない、一人になれる部屋でのご使用を強く推奨致します。 店主』


と書かれた張り紙があるが、どういう意味だろうか!?それより陳列棚だ。そこには何巻かのスクロールが積まれていた。一番上のスクロールを手に取ってみると、表紙に書かれていたのは、"Firecube Programmed by Ageha"。


「『ファイヤー』…私、魔力が弱いから、攻撃魔法は使えない…」

シンコがスクロールを手に取ったままおずおずと言うが、ロクスケは、


「騙されたと思って試してみろ。万一使えないなら、封印が破れないから…」


「はあ…」

言われてシンコはスクロールをひっくり返して見る。確かに封印に薄紙が貼られている様だ。


「言っとくが、買うなら書類にサインして、寮に帰ってから…」


ピっ! シンコはうっかり封印を破ってしまう。


「え…!?」「あ、おいっ!!」


シンコとロクスケは同時に声を上げるがもう遅い。パラパラパラパラ…スクロールがひとりでにめくれ上がり、書かれている文字列が残らずシンコの目から脳内に入って来る!!


spell firecube(position)

:

lmax=0.3

rmax=3.0^(1.0/2.0)/2.0*lmax

deltad=0.1

d=rmax*deltad

:

form spherenitrogen(b,position,rmax,d,i2max)

form cubephlogiston2oxygen1(b,position,lmax,rho,nmax)

heat(a,joule)

c=a+b

forceupperforward(c,ft)

:

end spell


「ひゃん!あ…ッ!く………ッ!!!」

恥ずかしい声が漏れるシンコ。太腿が、胸が、熱い。心臓が、バクバクする!!


subroutine cubephlogiston2oxygen1(a,position,lmax,rho,nmax)


imax=int(rho*lmax**3.0)


for i=1 to imax

call randomcube(a,position,lmax,imax,x,y,z)

if mod(i,3)<2 then

call createclustercart(a,phlogiston,mole*nmax,position,x,y,z)

else

call createclustercart(a,oxygen,mole*nmax,position,x,y,z)

next i


end sbroutine


「うぅぅ…あ、あああ……」

声を出すのを必死に堪えるシンコ。だが、彼女の心の砦は、あっけなく落城する。


subroutine randomcube(a,position,lmax,imax,x,y,z)

:

i3max=int(imax**(1.0/3.0))

i=rnd(1,i3max)

j=rnd(1,i3max)

k=rnd(1,i3max)

x=lmax*((i-1)/(i3max-1)-0.5)

y=lmax*((j-1)/(i3max-1)-0.5)

z=lmax*((k-1)/(i3max-1)-0.5)

:

end subroutine


subroutine spherenitrogen(a,position,r,d,i)

:

subroutine heat(a,joule)

:

subroutne forceupperforward(a,ft)


「だめ、こ、こんなの、もう…許してぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜っ!!!」


:

end subroutine


「はぁ………はぁ……………」

床に座り込んで荒い息をするシンコに、ロクスケは怒鳴る。


「お、おい!勘弁してくれよ!!この店は定期的に若い女の喘ぎ声がするって、大家から目をつけられてんだぞ!!折角家賃のツケも減り始めたってのに…」


だが当のシンコは、そんな店主の声なぞ聞く余裕も無く、

「わ………私…どうしちゃったの………!?」

力なく呟くと、ロクスケは、はぁー、と、ため息をつき、


「………まあ、いいか。これでお前は、『走れ(ラン)』の一言で炎すら出せる、『魔法使い』になったぞ。」



ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜


第四部 ファイヤーキューブって、何だ!?

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