ショート3-1 恩師訪問って、何だ!?
ワイバーン討伐達成から、数日後、
『南都』、某所…
パーティーのみんなで休暇を取ったその日、レッカは、そこにいた。
『あの人』も、今日、非番らしい。
ここに来るのは、久しぶりだ。
レッカがたどり着いたのは、1軒の古びた小さな家。
『あの人』も、そこにいた。
ブン! ブン! その家に近づくにつれ、その音が聞こえて来た。
家の前で『あの人』は、木剣の素振りをしていた。
非番だというのに…
そう考えた途端、レッカは苦笑した。
あたしも、他人の事が言えない。
ふと、『あの人』は、素振りの手を止め、こちらに気づく。
「………レッカか!?」
相変わらず不愛想な人だ。レッカは一礼し、
「ご無沙汰してます、師匠!!」
※ ※ ※
『キンダーガーデン』を卒業した後、レッカが弟子入りした、剣の師匠。
当時既に冒険者の現役を引退して予備役にまわっていたが、レッカの独り立ちの後に予備役も退いて、『南都』の衛視の職に就いていた。
以前、盗賊追い出しのシティーアドベンチャーの際、盗賊を逮捕するためにレッカが連れて来た衛視の1人が、彼だった。
「…聞いたぞレッカ。ワイバーンを倒したんだってな!?」
言葉少なに師匠は言った。弟子として彼の許にいた時には既に中年の域に達していたが、今はあの頃よりさらにしわが増えた様だ。
「私一人の手柄ではありません。仲間達と、装備を作ってくれた職人達の協力があっての物です。」
レッカの答えに師匠は満足そうに頷く。
「それから、これを…」
そう言ってレッカは、一巻の巻物を取り出す。非常に細いその巻物の表紙には、"Weapon Arts"。
「この術式を作ってくれた人の、おかげです。」
「魔法の、呪文か…」
師匠が眉をしかめる。生粋の戦士である彼は、魔法に頼る事に抵抗があるのだろうか…レッカは続ける。
「それは、人間の動きを記録し、再生する術式です。私達剣士のための、私達剣士でも使える術式です。お土産に、持って来ました。」
「ふむ………」
歳をとっても師匠の眼光は鋭いままだ。
「私はこの術式…『ウェポンアーツ』を使って、私の『最高の一撃』を追い求め、記録しました。これによって、私は常に『最高の一撃』を繰り出せる様になったんです。私がワイバーンを倒せたのも、この術式のおかげです…」
長い沈黙の後、師匠は、
「…つまり、ワイバーンを倒したのは、お前の剣戟だと言う事だな。」
「師匠…」
「正直…お前が弟子として入って来た時、どうなるものかと思っていた。女なら大成せんだろう、とな。まあ、冒険者の予備役を退く、最後の奉公だからと、半ば仕方なく引き受けたが………」
それから師匠は、深いしわが刻まれた顔をさらにしわだらけにして、
「お前………よくやったな。女でもやれるって事を、見せたんだな。」
師匠が、笑っていた。あの師匠が…
「ありがとうございます!!」
レッカは深々と頭を下げる。
「それから、これを…」
彼女はもう一巻の巻物を取り出す。表紙には、"Rekka Blade"。
「この術式は、剣戟の動作を巻物に記録して、それを『ウェポンアーツ』の術式を構築している他の誰かが読めば、その人も動作を再生する事が出来るんです。」
「これは…お前の剣戟を記録した物という事か!?」
師匠の眼光が、再び鋭くなる。
「この、私の剣技も、『ウェポンアーツ』が売られている呪文屋で売られていて、ありがたい事に好評なんだそうです。」
師匠は低い声のまま、
「これを持って来たという事は、俺がこれを使えば、俺もレッカの太刀筋が見れるという事だな!?」
「…はい。」
「それで…!?」
師匠はレッカを睨んだ。
「今の私の剣を………見て下さい。」
レッカは再び一礼した。
『ウェポンアーツ』の術式と、『レッカブレード』のデータを両手に取って、師匠は言う。
「言っとくが、俺は厳しいぞ。」
「はい………よろしくお願いします。」
どんな駄目出しも受け入れよう、殊勲を成し遂げた今だからこそ、決して天狗にならない様に…レッカは思った。
※ ※ ※
数刻後…
「痛てててっ!!」
『ウェポンアーツ』を構築し、『レッカブレード』を読み込んだ師匠は、試しにその中に記録されている、一番基本的な振り下ろしを再現してみた途端、木剣を取り落としてその場にうずくまった。
「し、師匠!?」
異変に驚いたレッカが、師匠に駆け寄る。
「………」
師匠はうずくまったまま、何も言わない。
「師匠…」
私は何か失礼な事をしただろうか…レッカは思った。
「れ、レッカ………」
左手で右肩を押さえたまま、師匠はゆっくりと頭を上げた。
「はい…」
お叱りを受ける覚悟を決めたレッカは、師匠を見据えた。
師匠は涙目のまま、叫んだ。
「俺の肩、もうこんなに動かねぇって!!!」
四十肩、五十肩…レッカがその痛みと苦しみを知るのは、まだずっと先の事である。




