第3-15話 飛竜の虚飾って、何だ!?
もう一月も前になる。アゲハの魔法一発でモンスターを倒した帰り道、パーティーに居場所を無くした様な気分になったレッカが、対岸の『北都』上空を飛ぶワイバーンを見てボソっと、
「あんなのに摑まれて空高く飛ばされて落とされたら、私なんかひとたまりも無いだろうなぁ…」
と呟いた時、アゲハが平然と言った。
「何、言ってんの!?そんな事出来ないわよ、あいつに。」
「「「え………!?」」」
レッカ、ヒサゴ、キュリアの3人が、きょとんとした顔をする中、アゲハは言う。
「えーっと、これはロクスケの受け売りなんだけど、2乗3乗の法則って言って、揚力は翼の面積つまり身体の大きさの2乗に比例するけど、体重は体積つまり身体の大きさの3乗に比例するの…難しいわよね!?」
ヒサゴとレッカがコクコクと頷く。アゲハは少し考えた末に、
「つまり…小さな虫は自分の体重の何倍もの物を持って飛ぶ事が出来るけど、大きなモンスターは、自分自身が飛ぶので精一杯なの。」
「だから、ワイバーンに空へと摑まれる危険性は無いという事ですの!?」
キュリアの言葉にアゲハは頷き、
「正確には、自分自身が飛ぶのも無茶してるって言った方が正しいかしら。上昇気流…空へ上がる風の流れに乗るか、長い距離を助走ないと、空へと上がれないの。だから…」
※ ※ ※
時は再び現在に巻き戻る。
(だから、もしワイバーンと、しかも人里近くで戦わなければならない場合は、その場で倒しきらなきゃならない。あいつが空へ逃げようとしたら、長い助走で周囲の人工物を壊し、被害を広げられてしまう。万一それを許したら、どこか別の集落を襲われる危険性もある。そして、ワイバーンは私を掴んで飛べない。だから…恐れず接近して、暴れ回られない様に走り回られない様に、翼や脚を攻撃して、身動きを封じてから倒す!!)
「うぉぉぉぉっ!!!」
レッカの裂帛!上から斬り下ろしの後斬り上げの二連撃!!ワイバーンの鉤爪を盾で弾いて剣で突き!!左、右、左の横薙ぎ三連撃!!!
ワイバーンの攻撃はミスリルプレートが防いでくれる!負った傷はキュリアが治してくれる!!レッカの剣戟によって、ワイバーンは翼も脚も幾筋もの斬り傷が走っていく!!!
グェエ…!!
さすがに腹に据えかねたのか、ワイバーンは左脚を上げてレッカを踏みつけようとする。が、
グラっ… ワイバーンは体勢を崩してそのまま倒れこんだ。
ズーーーン!!!
「エンチャント…ウェポンかあ…」
ワイバーンの足元には、いつの間にかヒサゴが立っていた。ワイバーンの右脚には、彼女のダガーが深く刺さっており、噴水の様に血が噴き出ている。
「なあるほど、こりゃ、よく斬れるわぁ…」
術式『エンチャントウェポン』の説明をした時、ロクスケは言っていた。この術式は、刃の長い武器程、また他人の武器にかける程、魔力消費が大きい、と…なら、
自分自身の、刀身の短い武器にかけるなら、魔力消費量は少ない事になる。そして、ヒサゴは『ファイヤーライト』の術式をギリギリ使える。従って、『エンチャントウェポン』も、自分自身のダガーになら自分でかけられる事になるのだ。
ヒサゴはロクスケのスクロールショップで、『エンチャントウェポン』の術式を購入した。そして、『ウェポンアーツ』の術式も…
ヒサゴは『ウェポンアーツ』の術式が、身体の動きを記録し、再現する物である事を理解した上でこれを購入した。そして、剣戟等の記録および再現ではなく、音を立てない、気配を立てない歩き方の記録および再現に使用したのだ。レッカに気が行っていたとはいえ、ワイバーンがヒサゴの接近を許してしまったのは、足音も気配もほとんど感じられなかったせいだ…
前からレッカのミスリルソードの一閃を、背後からヒサゴのエンチャントされたダガーを受けて、ワイバーンは段々満身創痍になって行く。海の向こうへ飛んでみた事を、そろそろ後悔しかけたその時、
レッカはワイバーンの攻撃を盾で受けながら思っていた。
(こいつの攻撃は、軽いな)、と…
前に戦ったアースドラゴンと、大きさは似た様な物なのに、攻撃ははるかに軽いのだ。
アゲハは言っていた。ワイバーンは重すぎて自分自身だけで飛ぶのが精一杯なのだ、と…
だがもしかしたら、空を飛ぶために、見た目よりもかなり身体が軽く出来ているのかもしれない。だから攻撃が軽い。
(悠然と飛んでいる様にみえて、結構無理してたのかもしれないな…)
目の前で血だるまになっていくモンスターを見つめながら、レッカは思った。
「行っけぇぇぇぇレッカぁぁぁ!!ラン、エンチャントウェポン!!」
後ろからアゲハの術式が飛び、レッカのミスリルソードが、ヴィィィィィ…と音を立てて光り輝く。刃を構成する分子が激しく振動し、光を乱反射させているのだ。ミスリルの剣は今、いかなる物をも斬り裂く刃となった!
(空を飛ぶお前が羨ましいと思った時もあった。だが…空なんか飛べなくてもいい。私は地に足をつけて歩いて行く、戦っていく!!)
「うおおおぉぉぉぉぉっ!! ラン、ウェポンアーツ!!!」
裂帛とともにレッカはワイバーンの首を一閃する!!
(私はもう、お前を羨ましいとは思わない!!)
ザ ク っ!! ズ ー ー ー ン!!!
ワイバーンの巨大な首が、地面に落ちる音が、倉庫街に轟いた。
※ ※ ※
「なあ…」
一部始終を見ていたスカーは、パーティーの魔術師に言った。
「何だ…!?」
魔術師は答えた。
「俺…あの呪文買いたい。パーティーの共有資金、使っていいか…!?」
「あ"ぁ"!? 装備品は自分持ちだろうがぁ!?」
※ ※ ※
「………」
剣を鞘に納め、ワイバーンの死体に向かって、黙って敬礼を捧げるレッカ。それから彼女はゆっくりと振り返ると、
「お疲れ様、レッカ!」「レッカさん…」
アゲハとキュリアが彼女に駆け寄り、最後にヒサゴが、
「やったね、レッカ!!」
レッカは両腕を左右に広げると、がばっ!!3人をまとめて抱きしめた。
「え!?レッカ!?」「ちょ…レッカさん!?」「な、何してんの、恥ずかしいよ、みんな見てる…」
戸惑う3人に、レッカは静かに囁いた。
「いいだろ………しばらくこうさせろ……………」
このパーティーの一員になれたと、ここにいていいんだと、心底思えた瞬間だった………




