第3-14話 レッカの宝石って、何だ!?
ミスリルソードを持ち、ミスリルプレートをまとい、ワイバーンと対峙するレッカを、逃げ遅れた者の避難支援に来ていたスカーパーティーの一同は、目を丸くして見つめていた。
「嘘だろ………」「あれがレッカ………」
その後ろ姿を見つめながら、ヒサゴはニヤリと笑った。
「なぁんだ、あんたも持ってたんじゃないの。宝石を…」
※ ※ ※
レッカはミスリル装備を自腹で購入した。
アゲハの参入で難易度の高いクエストをこなせる様になり、いい加減大量の銀貨を持ち歩くのが邪魔になってきた時、レッカはギルドの受付嬢から口座を持つ事を提案されて言われるままに開設し、クエストの報酬から日々の食費に使うわずかな銀貨のみを現金で受け取り、残金を口座に振り込む様にして、そのまま存在自体を忘れていたのだ。
アースドラゴン討伐ミッションの成功、遠征ミッション、キュリアの加入による更なる戦績の安定化があってもなお、レッカは生活の質を変えず、これまで通りの暮らしを続けていた。
長きにわたる貧乏暮らしで節約が身についていた事に加え、戦士として身体造りのため節制を心がけており、贅沢をする習慣も無い。アースドラゴン討伐後の休業期間も鍛錬と称して倉庫街で荷運びの日雇いで収入を得ていたのだ。加えてギルドの寮費は一般的な貸し家の家賃よりはるかに安め、だたでさえ『ファングドフラワー』は少人数構成のため、クエストの報酬を山分けしてもフルメンバーパーティーよりも分け前は多め。
結果、ヒサゴに言われて確認した時、レッカの口座には大量の金がうなっていた。
その金を一部おろしてロクスケの支払いに充て、ミスリル装備の頭金にしたのだった。
皆の宝石が羨ましいと言っていたレッカだったが、彼女もまた、大粒の宝石を持っていたのだ。
ロクスケの呪文屋で泣いたあの日から、レッカはこれまでと『ほぼ』変わらない日々を送っていた。
職人街の武具屋でミスリル装備を発注し、採寸し、試着と微調整のために通い、仕上がりを待つ以外は、これまでと『ほぼ』変わらない日々を…
そして、レッカはついさっきまで、私用…完成したてのミスリル装備を、武具屋で受け取るという用事で、冒険者ギルドを留守にしていた。丁度その時、ワイバーンアラートを聞いた彼女は、自分達に話が回って来る事を予想して、そのまま現場へ直行し、ヒサゴ達と合流したのだった。
彼女のためだけに作られたミスリルの鎧を煌かせ、レッカは叫ぶ。
「行くぞ!ワイバーン!!!」
※ ※ ※
一方、それを側から見ていたスカーとその仲間達は、
「ま、まあ、ミスリル装備にゃ驚いたけどよぉ…」
「所詮レッカだろう!?」
「アゲハの魔法は使えねぇ。あいつに倒せるのかぁ!?」
「…だがあいつはそのアゲハのパーティーメンバーだろう!?何か仕込んでるんじゃねぇのか!?ロクスケの店の呪文をよぉ…」
そのレッカは、キュリアの『プロテクト』の術式を受け、ワイバーンと対峙しながら、術式を走らせる。
「ラン、ウェポンアーツ!!」
「ほら見ろ!!」「来たっ………!!」「一体どんな呪文が………!?」
スカーパーティーが色めく中、レッカは、
「た あ あ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁっ!!!」 ザ ク っ!!
裂帛とともに振り上げた剣を振り下ろす。
「「「え………!?」」」
スカーパーティーは呆然とした。魔法を纏っているでもない、ただの剣戟でしか無かった。一応、ワイバーンの翼膜を斬ってはいるが、期待していた程ではない。今度は横に一振り!ワイバーンの後脚に斬りつけた。だが、それもただの剣戟でしかない。
「おいおい…」「あいつ、本当にワイバーン倒せるのかぁ!?」「やっぱ周囲への被害覚悟でアゲハにやらせた方が…」
「でも………いい剣筋だ。」
スカーがボソっと言った。
ワイバーンの翼の鉤爪を盾で防ぎながら、レッカは剣を振るい続ける。ただそれだけの非常に地味な戦いが続いた。地味な…だが、武を嗜む者が見れば分かる、上手すぎる剣戟が続いた。
横への薙ぎ払いに縦の振り下ろし、突き、時には剣の腹やシールドによる打撃まで繰り出し、果てはそれらを組み合わせた物まで、何から何まで、一挙手一投足が、研ぎ澄まされたように冴え渡っていた。
「おい、まさか…」「あれが…」「レッカの、新しい魔法か!?」
※ ※ ※
レッカは一般的な魔法は使えない。魔力消費量が少ないとされる、自分自身への魔法…治癒魔法も強化魔法も使えない。
それでもレッカにも使える様に、自分自身への魔法から治癒も強化もそぎ落とすと、残ったのは、完成された物を頭の中に構築し、必要な時に呼び出す機能だけ。
だが、ロクスケ達は、それを利用し、
造ったのだ。自分自身の挙動…手足や頭、腰の動きを正確に記録し、必要に応じて再現する魔法、『ウェポンアーツ』を…
これを用いる事でレッカは、常に最善の一振りを繰り出す戦士へと変貌を遂げたのだ。
と言っても、格段に強くなれるという訳でも、楽を出来るという訳でもない。
『究極の一振り』を求めて何度も何度も素振りと試行錯誤を繰り返さなければならない。それは自分自身と向かい合う過酷な道。レッカはロクスケからこの術式の構想をあらかじめ聞かされていており、全て理解した上で、それを受け入れた。
『ウェポンアーツ』の術式を手に入れた後も、レッカはこれまでと『ほぼ』変わらない日々を送っていた。先行して受領していたミスリルソードの慣熟も兼ねて、その使い勝手を身体に覚え込ませ、『究極の剣戟』を求め続け、記録して再生して取捨選択して編集して…また常に繰り出す究極の挙動の高負荷に耐えられる様に、これまで以上に身体造りにも取り組んだ以外は、これまでと『ほぼ』変わらない日々を…
愚直な反復作業という、人によっては何よりも嫌う事を、レッカはこの術式を手に入れた時から、来る日も来る日も繰り返し、様々な剣の挙動を何パターンも用意しておいた。その成果を披露する時が、ついにやって来たのだ。
これは魔法によるものではない。最高の一撃とはいえ、レッカ自身が持っていた物。
もう一度言う。レッカは既に、宝石を持っていた。あまりにも当たり前に持っていたため、その価値に自分自身が気づいていなかった宝石を………
スカーが、他の冒険者パーティーが、逃げ遅れた者達すら、レッカの激闘を固唾を飲んで見つめていた。
「でもよぉ…あいつ、怖くないのかぁ!?ワイバーンに空から落とされちまったら…」
その声が聞こえたのか、アゲハが言った。
「そんな事にはならないのよ…」




