第3-13話 ワイバーンアラートって、何だ!?
時はやや巻き戻る。『南都』北西の郊外…
そこには、弩が並んでいた。人の身長ほどの長さのある巨大な弩が、いくつも、いくつも…
弩は、弦を引き絞った状態のまま、丸太の様な矢をつがえられていた。当然これは人力で引く事は出来ず、歯車を組み合わせた巻き上げ機を備えていた。弩が置かれている台座は旋回可能で、射角も上下に調節可能だ。
攻城用のバリスタ…だがこれは、城を攻め落とすための物では無い。その内の1機に、一人の女が立っていた。
「ふわぁ………」
女は…ビキニアーマー女戦士は、気の抜けたあくびをし、北を…海の向こう岸の岩肌を眺め、呟く。
「…アタシゃ何してんだろ…」
冒険者の品位を著しく貶める行為を行った懲罰の奉仕活動として、来る日も来る日も、このバリスタの番をさせられていたのだ。
危険を伴う訳でも、体力的にきつい訳でも無い。だが、潮風で肌がベトベトになるわ、日に焼かれるわ…この恰好なのに目の前の海に飛び込めないのが恨めしい…何より退屈なのだ…
「来る訳ゃ無いのに、ワイバーンなんて…」
このバリスタ…ワイバーンバリスタと同じ様な物が、『北都』にも設置されている。
『北都』と『南都』は、西に狭く口を開けた東西に広い湾の、すぼんだ入口の、それぞれ北岸と南岸に位置し、両者を隔てる海は、最も狭い箇所で数km程度しか無い。
北の大地から南下するモンスターの群れは、『北都』近辺で東に湾を迂回してから『奧都』、さらに『南都』へと至る事になるが、ワイバーン等の空を飛べるモンスターは、ぎりぎりこの『北都』と『南都』の海峡を飛び越えて来れるのだ。
だから、『北都』と、『南都』には、このワイバーンバリスタが、何機も何機も、設置されている。
人類の住処を侵さんとする空の化け物から、守るために…
だが…
………ンカンカン!!
海の向こうから甲高い鐘の音が微かに聞こえ、ビキニアーマー女戦士は海の向こうに目を凝らす。
「おほ!やってるやってるぅ~~~!!」
彼女は他人事の様に歓声を上げた。『北都』上空に無数の黒い粒々が見えたが、地上から細い線がいくつもいくつも上がると、その黒い粒々…ワイバーンの群れは、次から次へと地上に落とされ、数を減らして行った。
ワイバーンなんか来る訳無い。彼女がここに張り付いている事に意味は無い。『北都』が、全部落としてくれるから。そもそも懲罰任務になっている時点でお察しだ。
残る黒い点はあと1つ。だが、その1つが、なかなか落ちない。それどころか、段々大きくなっていく。
「え………!?」
黒い点は徐々に、鳥の様な形になって行った。打ちもらした!?
「何やってんのよ!『北都』のエリート共が、よ!!」
ビキニアーマー女戦士は手元のハンドルをぐるぐる回し、ワイバーンバリスタを旋回させる。もうすでに周りのバリスタは反応し始め、巨大な矢を射出し始めている。よく、狙え!まだ、遠い………今!!
「発射ぁぁぁぁぁ~~~っ!!」
ビキニアーマー女戦士はレバーを倒すと、つがえられた丸太の様な矢が空へと放たれ…ワイバーンを掠める。
グェェェェ… 怪音が轟き、ワイバーンはバランスを崩し始める。
「やったぁ!!これでアタシも、ドラゴンスレイヤーってかぁ!?」
ビキニアーマー女戦士は歓声を上げる。だが、ワイバーンは空中でもんどり打って高度を落としながらも、襲い掛かる矢の群れを、器用にかわし続ける。
「何やってんだあいつら!くそっ!!」
ビキニアーマー女戦士は巻き上げ機を動かして弦を引こうとする。だが、彼女一人の力では巻き上げる事は出来ない!
「あ………」
彼女は何も出来ずに、頭上を仰いだ。巨大な鳥の様な、大きな翼を広げたトカゲの様な怪物が、通り過ぎ、
ズ ン ! 自分の背後…『南都』の方に、不時着してしまった………
カーンカンカン! カーンカンカン!!
ややあって、『北都』から聞こえてきたと同じ鐘の音が響く。
『南都』の飛竜警報が、初めて鳴らされた瞬間だった。
※ ※ ※
それを『北都』で何度も聞き覚えがあったアゲハは何が起きているのかを察知し、ロクスケに「行って来る」と言い残して、キュリアを伴って冒険者ギルドへと走ると、案の定、『ファングドフラワー』に、ワイバーン討伐の緊急ミッションが言い渡された。
ヒサゴと合流し、現場へ駆けつけてみると、そこは港の近くの倉庫街。あわてふためき逃げ惑う荷運びの男達の向こうに、そいつは立っていた。
「「…」」
キュリアとヒサゴは、思わず息をのんだ。英雄譚に出て来るドラゴン、そう言ってもおかしくない存在が、そこにいたのだ。
翼をもつ巨大なトカゲの様なモンスター。頭までの高さだけでも、周囲の倉庫に匹敵する大きさの…だが、前脚が無く、翼と、後脚だけ。その姿をドラゴンからかけ離れた物にしているのは、姿勢だ。翼を半ばから折って、地につけているのだ。まるで四つ足の獣の様に…
「ワイバーン………」
アゲハが呟いた。『北都』で戦っていた彼女が言うからには、こいつはワイバーンに間違い無いのだろう。
グ ェ ェ ェ ェ!!
空から落とされたそいつは不機嫌そうに咆哮を上げ、目の前の4人を威嚇した。腹いせに周りにあるモノをブっ壊さなければ気が済まないらしい。
「どうしますの!?アゲハさん、いつもの様に、ファイヤーボールで…」
「だめ!」
キュリアの言葉をアゲハは否定する。
「あたしの魔法は、強力すぎる!ここじゃあ周りに被害が出てしまう!!」
周囲は、倉庫街。『南都』の人々の生活を支える、多くの物資が蓄えられている。万が一にも火事を起こす訳にはいかない。おまけに周囲には、まだ逃げ遅れた人もいる。
「………私に任せて。」
いつの間にか合流していたレッカが、一歩前へ出てそう言った。いつもと変わらぬ様子で…だが、その出で立ちは今までとは違っていた。
鞘から抜いたは銀色に輝く両刃剣、身にまとうは赤銀色に輝く金属鎧。
ミスリルソードと、ミスリルプレートだった………




