第3-12話 ファングドフラワーの日常って、何だ!? 後編
ロクスケの術式を手に入れた後も、レッカはこれまでとほぼ変わらない日々を過ごしていた。
※ ※ ※
ある日の冒険者ギルド…
ガランガラン!!「てめぇ俺を殺す気かぁ~~~っ!!」「てめぇこそ、ボーっと突っ立ってんじゃねぇ~~~っ!!!」
アゲハ達が『酒場』のいつものテーブルで雑談をしていると、スカーと彼のパーティーの魔術師が、互いに怒鳴り合いながら入って来た。そして、いつものテーブルに『ファングドフラワー』の4人組がいるのに気づくと、互いに相手を指差して叫んだ。
「おおシスターキュリア、どうかこいつの懺悔を聞いてくれぇ!!」「いいやシスター、こいつの懺悔を聞いてくれ!!」
「…ラフカディオ様は心からの懺悔しか聞き届けて下さいませんわ。」
激高する2人に、穏やかにキュリアが言うと、
「ほら見ろ!お前が反省しないから!!」「いいや、お前が反省しないのが悪い!!」
ヒサゴがニヤニヤしながら割って入り、
「なぁに!?下世話な話だったらあたいが聞いてあげるけど!?」
スカーと魔術師は互いを指差し、
「こいつが俺の後ろから魔法をブっ放しやがったんだ!!」「こいつが俺の魔法の射線を邪魔したんだ!!」
※ ※ ※
2人の話を聞き終えた4人の女性冒険者達は、
「つまり…ロクスケの術式を手に入れたあんた達は、喜び勇んでクエストに出撃したけど…」
「スカーはいつもの調子でモンスターの前に陣取り、」
「魔術師さんはいつもの調子で魔法を撃って、」
「もうちょっとでスカーに火の球が当たりそうになった、と…」
「そうだぁ!どう考えてもこいつが悪いだろぉ!?」「いいやこいつが悪いよな!?」
2人の醜いやり取りにヒサゴとアゲハは、はぁー、と、ため息をつき、
「あのねぇ…ロクスケの術式のおかげで、魔法は詠唱時間が無くなったの。」
「だから魔術師は前衛の戦士が張り付いてる時は魔法を撃っちゃいけないし、」
「前衛は長時間モンスターに張り付いてちゃいけないの。」
スカーと魔術師は互いを指差し、
「「俺がこいつに合わせろって言うのか!?」」
するとそれまで黙っていたレッカが、
「…私達はアゲハが入ってから、ちゃんと連携の練習をしてたよ。あとは、どっちかが声とかで合図を送るとかあらかじめ決めとけば…」
しばし黙り込んだスカーと魔術師だったが、
「れ…練習だ。」「おう…あと、合図決めるぞ…」
そう言いながら去って行った…
※ ※ ※
別の日、『南都』冒険者ギルド…
レッカが私用で外出しており、ヒサゴが一人でいつものテーブルでちびちびやってると、
「え~~~っ!?じゃああなた買っちゃったの~~~!?」
「いや、もうこの中で買ってないの、あんただけよ。」
「ロクスケの『ファイヤーボール』、よね!?」
3人の女魔術師が話していた。彼女等は同期入隊の友人同士らしい。ヒサゴは思わず耳をそば立てる。
「ま、そりゃ高かったけどさ、あれ使ったらもう、普通の呪文には戻れなくなるわよ。」
「でもお高いんでしょう!?」
「なら、お値段も魔力消費もお手頃な『ファイヤーライト』もあるわよ。」
「え~~~いいなあ~~~、あたしもそれ、買おうかなあ~~~」
「ああ、私それまだ買ってないけど欲しいなあ…」
思わずヒサゴの口角が上がった。彼女自身は関係無い事なのだが、自分が誰より早くあの店と術式の存在に気づいていたため、ロクスケの好評が自分の事の様に嬉しかった。
「それに…」一人の女魔術師が声を潜める。「あの店の魔法って、スクロールを開くと…」
「あ~、あたしも聞いたそれ。」
「その…変、な…気持ちになるんでしょう!?」
…話の雲行きが怪しくなってきた。
「なんて言うか、その、身体がポ~~~っ、と、熱くなって…」
「フワァァァ~~~っ、て、雲の上にいるみたいな気持ちになって………」
「ごくっ………」まだロクスケの術式に手を出していないという女魔術師が、思わず唾を飲む。
「それに…あの、『ファイヤーライト』…あれが特にすごいらしいの…なんて言うか、その………妙に、私達の弱い…敏感な部分を、的確に、しかも、ねちっこく突ついて来る………そんな感じ。」
「その…私、噂で聞いた事あるんだけど………」女魔術師がさらに声を潜めて言う。「…その『ファイヤーライト』を作った人って………女の人みたいなの。」
「あ~、それで………」
3人の顔が真っ赤になった。
「…しかも、その女魔術師、つい最近、遠征から帰って来て、またロクスケと一緒に、新しい呪文作りを始めたそうなの。」
「「………ごくっ!」」
3人の女魔術師達は、トイレを我慢するかの様にもじもじしだした。
「…あたし、ロクスケの魔法、買ってみる。」
「私も『ファイヤーライト』買おう。こ、これはパーティーの戦力アップのためよ、ねえ!?」
「…何か新製品が出てるかもしれないわね。私も行こう。」
彼女等はそそくさと冒険者ギルドを出て行った。一人、テーブルに残されたヒサゴは、
「…今の、魔法の呪文の話のはずだよね!?」
※ ※ ※
同時刻、ロクスケのスクロールショップ…
「えーっと、観測、結果、と…」
カウンターのロクスケの隣にぴったり座り、何やら物書きをしているアゲハ。
「お、お前なぁ…こんな所で邪魔だろう…」
そう言うロクスケだが、その口調に拒絶の意志が見られない。自分の腿に伝わる、アゲハのむっちりした太腿とお尻の温みのせいだろうか。
「…あなた、すぐそこに自分の家があるんでしょう!?そこでやればいいじゃありませんの!?」
キュリアが呆れて言ったが、アゲハはキュリアを指差し、
「ロクスケと2人きりにしたら、あんたが何しでかすか分からないから、で、しょ!!」
やや眉を吊り上げたキュリアは、
「2人きりにしたら何しでかすか分からないのは、あなたの方、で、しょ!!」
アゲハを押しのけ、キュリアがロクスケの隣に入り込み、座る。今度は修道服越しのキュリアのお尻の感触が伝わって来る。
「あんたこそロクスケの邪魔してんじゃ無いわよ!!」
キュリアを押しのけ、アゲハがロクスケの隣に座る。
「大体アゲハさん、一体何を書いていらっしゃるの!?」
アゲハを押しのけ、キュリアがロクスケの隣に座る。
「これは報告書よ!遠征ミッションのね!」
「まあ、あなた達が『南都』に帰って来たのは、一月も前の話ですわね!?そんなに放置していらしたの!?」
「しょうがないじゃない!!資料が膨大な上、ヒサゴとレッカの口述を、あたしが清書してんだから!!」
言い合いながらアゲハとキュリアは互いを押しのけてロクスケの隣に座る。その度にロクスケの左半身は2人のあそこやらそこやらが当たる。
「…仕方がないですわね。私が手伝って差し上げますわ。誤字脱字のチェックくらいは出来ますわ。」
キュリアが口調を和らげて言うと、
「…正直助かるわ。でも、冒険者にはクエスト中に知り得た情報には守秘義務があるから、ミッションは特に厳しいから、気を付けてね。」
アゲハに言われてキュリアはすまし顔で、
「聖職者は信者様の告解には秘密厳守ですわ。」
仲が良いんだか悪いんだか分からない2人のやり取りにロクスケが呆れたいたその時、
………ーーーンカンカン、 カーーーーーンカンカン…
鐘の音が聞こえた。
「お昼………にしては、早すぎますわね。それに、鳴らし方も変ですし…」
キュリアが怪訝な口調で言ったが、ロクスケとアゲハの顔が青ざめる。
「あれは………!!」




