第3-11話 ファングドフラワーの日常って、何だ!? 前編
それから、ロクスケとアゲハの術式作りの日々が始まった。
これまで行ってきた、既存の術式の改良とは異なり、全く新しい術式をゼロから作らなければならない上、魔力の非常に低い戦士にも使える様に、魔力消費量を極力抑えなければならないのだ。術式作りは難航した…
※ ※ ※
ある日の冒険者ギルド…
「そう言えばキュリア…」
アゲハが問う。
「何ですか…!?」
キュリアが問う。
「…あんたなんで、神殿を追放されたの!?」
「ですから神殿とは良好な関係を………まあ、一時は追放されたのは事実ですわね。」一呼吸置いてキュリアは言った。「…私がロクスケ様につくっていただいた術式、『セインツティアー』は、病原体に弱いダメージを与える術式なのですわ…」
「『南都咳』は病原体…目に見えないくらい小さな生物が体内に入ってかかる病気なのよね…だから病原体には致命的な弱いダメージを与える術式で、『南都咳』を治す…」
「…でもそれは、神官にとって禁忌とされている、『呪い』をかける事に他ならないのです。私はそれを告げずに、神官達に呪いの術式を使わせていたのです…」
「何それ!?病原体も生き物だから殺してはいけませんって言って、『南都咳』の人間を見殺しにしてどうするの!?」
「…そういう厳しい…あるいはおかしな方もいらっしゃるのです。ですから私は、神殿を出たのですわ…」
「………もしそれであんたを咎める奴が出てきたら、あたしがぶん殴ってやるわ。あんたのおかげで、『南都咳』は終息したんでしょうに…」
アゲハが憤慨して言った。
「…程々になさいませ…とにかく、一部には『セインツティアー』の真実をほぼ全て理解されている方もいらっしゃいますから、現在、私は神殿を出ていますが、神殿とは良好な関係を保てています。」
「オーウェンっていってたかしら…こないだ来た老神官の事ね!?」
「私も聞いてよろしいのでしょうか…!?アゲハさんは何故、『北都落ち』になったのですか…!?」
アゲハは眉をしかめて、
「…『北都』最後のクエストで、『ファイヤーボール』の呪文を、最後の一節を噛んで失敗したの。強いて言えば、それが原因かしら。」
「そう言えばロクスケ様も仰っていましたわね。魔術師は詠唱失敗を叱責されて心を病むと…」
「…あいつ呪文屋開いたのは知的好奇心を優先してだと言ってたけど、やっぱりそういうネガティブな理由もあったのよね。あたしには見せなかった心の傷を、あんたに見せたのよね…ああムカつく…」
「…一応、宗教家ですからね。他人の告解ですので、くれぐれもご内密に…」
「分かってる。」
「それにしてもアゲハさん…その若さでランクBになったという事は、あなたはかなり優秀なのでしょう!?それなのにそのたった一度の失敗で、『北都』のパーティーはあなたを追放したのですか…!?」
「…パラディン…リーダーが、特に厳しい奴でね…」
「パラディン…『北都』の、パラディン…」
キュリアはその名前を反芻した。
「みんなそう呼んでるけど、とにかくそういう嫌な奴がいたのよ…あたし以外にも何人も何人も追放してるの。わずかの失敗で。ロクスケもその一人。代わりにあたしが入って、そのあたしも抜けさせられたって事。」
皮肉っぽく言うアゲハにキュリアは、
「………そのパラディンを、一発ぶん殴ってやりたいですわね…」
「…やめときなさい。お上品なあんたには似合わないわ。まあ、あたしも今更戻る気なんて無いけどね…」
※ ※ ※
そんな中、とうの戦士レッカは、ロクスケの呪文屋で泣いたあの日以降も、これまでとほぼ変わらない日々を送っていた。
毎日の鍛錬に加えて、仲間達とともにクエストに出かける、ほぼ変わらない日々を………
そしてついに、
ロクスケの新しい術式は完成した………
※ ※ ※
ロクスケのスクロールショップでレッカに渡されたのは、一巻のスクロール…
「細いね…」
レッカは言った。この店の他の商品と比べても、明らかに細い。
「お前でも使える様にな。可能な限り、内容を削った。だが…お前でも使えるぞ。」
「これが………私の新しい力…私にも使える、魔法………!?」
その細い巻物をレッカは愛おしそうに抱き、ロクスケ達を見つめて、
「ありがとう、店長さん!ありがとう、アゲハ!!」
「お…おう!」「ま、あたしもがんばった甲斐があったわ。」「おめでとうございます、レッカさん!!」「寮に帰ってから、早速読んでみるといい…」
「じゃあ早速ここで…」ピっ!レッカはスクロールの封紙を切る。
「え…!?」「ちょ…」「待っ………」「だめ~~~っ!!!」
4人が叫ぶがもう遅い。
クルクルクル…短いスクロールが開かれ、文字列がレッカの目に入って行く。
spell weaponart(artsname,buffer)
open artsname
for i=1 to imax
call movejoint(artsname,head,buffer)
call movejoint(artsname,leftshouder,buffer)
call movejoint(artsname,rightshouder,buffer)
call movejoint(artsname,leftelbow,buffer)
call movejoint(artsname,rightelbow,buffer)
call movejoint(artsname,leftwrist,buffer)
call movejoint(artsname,rightwrist,buffer)
call movejoint(artsname,waist,buffer)
call movejoint(artsname,leftthigh,buffer)
call movejoint(artsnsme,rightthigh,buffer)
call movejoint(artsname,leftknee,buffer)
call movejoint(artsname,rightknee,buffer)
call movejoint(artsname,leftheel,buffer)
call movejoint(artsname,rightheel,buffer)
next i
close artsname
end spell
:
「え!?あ…!?な、何これ…うそ………」
意味不明な言葉をレッカは口走る。目から脳に勝手に術式が入って来る。心臓が、バクバク音を立てて鳴り立てる。身体が、熱い………!!!
:
spell recordweaponart(artsname)
open artsname
for i=1 to imax
call recordjointmove(artsname,head)
call recordjointmove(artsname,leftshouder)
call recordjointmove(artsname,rightshouder)
call recordjointmove(artsname,leftelbow)
call recordjointmove(artsname,rightelbow)
call recordjointmove(artsname,leftwrist)
call recordjointmove(artsname,rightwrist)
call recordjointmove(artsname,waist)
call recordjointmove(artsname,leftthigh)
call recordjointmove(artsnsme,rightthigh)
call recordjointmove(artsname,leftknee)
call recordjointmove(artsname,rightknee)
call recordjointmove(artsname,leftheel)
call recordjointmove(artsname,rightheel)
next i
save artsname
end spell
:
「ああ…」「レッカさん、あんなに…」「あ、あはは…何か複雑…」
親友の痴態を目の前で見せつけられたアゲハ達は、それぞれの反応をみせる。
:
subroutine movejoint(artsname,position,buffer)
read artsname,phi,theta
move(position,phi,theta,buffer)
end spell
subroutine recordjointmove(artsname,position)
measure(position,phi,theta)
write artsname,phi,theta
end spell
「嫌、もう、だめ、行っちゃう~~~~~っっっ!!!」
魔力が低いレッカは、いとも簡単に絶叫とともに果て、ぺたんとその場に座り込む。後には白紙になったスクロールが残された。
バタン!「うるさいよ!一体何なのよここは!いつもいつも!!!静かにおし!!!」
レッカの喘ぎ声を聞きつけて大家の老婆が怒鳴りこんでくる。
「悪い!すまなかった!!」
平謝りするロクスケを尻目に、アゲハ達はレッカを気遣う。
「レッカ…気分はどう!?」「どこか変な所は無い!?」
ヒサゴの手を取って立ち上がりながらレッカは、
「…私、何か変わったのかな………!?」
戸惑うレッカに、何とか大家を宥めて帰したロクスケは、
「言っとくが、これでものすごく強くなれる訳じゃないぞ。これまで通り、いや、これまで以上に努力が必要になるぞ…」
レッカは協力してくれた仲間達をみつめ、
「………望む所だよ。」




