第3-4話 冒険者ギルドの聖女って、何だ!?
時は巻き戻り、朝…
朝の日課の稽古の最中に昨日突きつけられた絶望的な現実を思い出したレッカだったが、
「………まあ、私には剣しか無い事が分かっただけで、収穫ありと考えようか。」
無理やり前向きに考える事にして、ようやく明るくなった空を見上げる。
「ギルドに行ったらヒサゴに今日のクエストを確認して、戦闘での方針を決めて………」
※ ※ ※
同日、昼過ぎ…
「ラン、ファイヤーボール!!」
アゲハのその一言で、モンスターは火だるまになり、地に倒れた。
「………へ!?」
剣と盾を構えたまま、間抜けな声を上げて呆けるレッカ。朝から現場へ向かう途中、標的モンスターの種類と挙動から構築していたレッカの立ち振る舞いは、ほぼ披露する事無く終わった。
「はいクエスト終了~~~!撤収しようかぁ~~~!!」
後ろからヒサゴの呑気な声が聞こえてきても、レッカはしばらく硬直したままだった…
※ ※ ※
『南都』へ帰る馬車の中…
「はは…ははは…アゲハはやっぱり強いなぁ…あ~んな強そうなモンスターを一撃なんて…」
虚しくカラ笑いするレッカ。
「…ま、安全第一ってね。」
御者席のヒサゴが言う。
(これじゃあ私、何のためにこのパーティーにいるの…!?)
虚しい気持ちを抱えたまま、北に広がる海を見つめるレッカ。はるか向こうの岸の上空に、小さな黒い影が見える。
「あー…鳥が飛んでらぁ~~~…」
何のためにいるのか分からないパーティー、それでもレッカは、そこにしがみつくしか無かった。たとえ道化を演じたとしても…
「鳥じゃ無いわね、あれはワイバーンよ。」
同じ空を見つめたアゲハが言う。
「ワイバーン、かぁ…前脚が翼になった、空飛ぶ竜みたいなモンスターだよねぇ…」
もう、半ば何もかも嫌になりながら、自嘲気味にレッカは言う。
「あんなのに摑まれて空高く飛ばれて落とされたら、私なんかひとたまりも無いだろうなぁ………」
※ ※ ※
『南都』、冒険者ギルド…
クエストの報酬としてレッカが受け取ったのは、食費で消えるだろう端金。
(まあ、戦いで役に立てない私には分相応か…)
レッカは虚しく思った。受付嬢は『ご確認下さい』と言っていたが、何度確認しても端金は端金だ。ヒサゴのクエスト成功手続きを待つ間、『酒場』の男性冒険者達からは冷たい視線が彼女達に注がれていた。より具体的には、キュリアに、だが…
「………」
キュリア自身もそれを感じていたのだろう、不安げな表情をしている。そんな彼女の修道服の肩を、レッカはポンと叩き、
「…ま、その内あいつ等も慣れてくれるよ。それまでの辛抱さ。」
「え、ええ………」
ギルド内で良く思われていないキュリアと、男性冒険者達と、パーティーメンバーとの関係を取り持つ。その緩衝材としてしか、レッカはここで生き残る術が思いつかなかった。
一方、仲間達とテーブルを囲んでいたスカーは、キュリアを忌々しそうな目で見つめ、
「…ったく、教会のシスターさんが冒険者ごっこかよ…勘弁して欲しいぜ…」
それから皆が見つめているテーブルの上に目をやり、
「…こっちはそれどころじゃ無ぇのによぉ………」
テーブルの上には、数個の冒険者タグが並んでおり、スカー達男性冒険者はそれを、陰鬱そうな目で見つめていた。
「あれは…何をされていますの!?」
キュリアが問うと、アゲハが、
「ほら、あっちを見て…」と、酒場の隅の、大量の冒険者タグが掛けられた極彩色の祭壇を指差す。「冒険者活動の最中に命を落とした者のタグは、あの祭壇に祭られる事になってるの。」
そこに報告を終えたヒサゴがやって来て、
「…で、あのテーブルの上に乗っている冒険者タグは…」
そこで声を潜め、
「………『南都咳』…昨今の流行り病で命を落とした冒険者のタグだ。病原体への感染がどうので、最近になってようやく戻って来たんだって。」
「まあ…それは……」
思わず顔を曇らせるキュリア。
「…で、あいつ等としては、祭壇に一緒に祭ってやりたいけど、あそこは『冒険者活動で命を落とした者』が原則だ。だからあそこには祭れない。だけどあいつ等にとっては、長きにわたって苦楽を共にしてきた仲間だ。だから………悩ましいところなんだよ………」
しばしその祭壇を見つめていたキュリアだったが、
「あの祭壇は…かなりその…個性的ですが、ラフカディオ信仰ですわよね…!?」
それから、意を決した様にコクリと頷くと、ツカツカと男共のテーブルへ歩いて行き、その上の冒険者タグをまとめて引っ掴み、
「ああっ!?」「何をしやがる!?」
抗議する男共に構わず再びツカツカと、今度は酒場の隅の祭壇へ歩くと、手の中の冒険者タグを、全部祭壇の開いている場所に掛け、祭壇に向かって跪き、
「光の海の彼方におわす、創造神ラフカディオ様…」
祝詞を口上する。気品を感じさせる、澄んだ、よく通る声で…
「御身が子、キュリアが、ここに申し奉りまする…」
スカーも、ベアーも、他の男共も、アゲハ達も、キュリアが何をしようとしているのかを図りかねていた。
「今、現世での全ての務めを終えた魂が、御身の許へ参りました…」
アゲハとヒサゴは頷き合い、キュリアの後ろに並んで跪くと、慌ててレッカも遅れて2人の後に跪く。他の男達もめいめい祭壇に向かって跪き、頭を垂れ、両手を胸の前で組み、祈る。
「彼等は皆、世のため、人のため、戦い、傷つき、歩み、そして生きました…」
静かな酒場の中、キュリアの祝詞だけが響き渡る。
「大勢の同胞と共に、笑い、泣き、慈しみ合い、愛し合い、ともに生きました…」
「ううう…っ!!」「グスっ………」
強面のスカーとベアーが、男泣きに泣いていた。酒場のあちこちから、すすり泣きが聞こえて来る。
「創造神ラフカディオ様、願わくば、人々と共に戦い、散ったこの者達の魂に、安らかなる眠りを与えん事を…」
そしてキュリアは一呼吸置いて、
「御身に帰依し奉らん…」
一同は、今一度、深々と祭壇へと一礼する。やがて、頭を上げたキュリアは立ち上がり、後ろの者達に向き直ると、
「たった今、彼等の魂は、私キュリアがこの祭壇に合祀しました。不服のある方は、私より高位の神官をお呼びになって分祀すると良いでしょう!」
誰もそんな神官の知り合いなんている筈が無い。そして、誰もそんな事する筈が無い。その凛とした姿を見上げ、
「………聖女だ…」
誰かが、ボソっと、そう呟いた。
「聖女…」「聖女様…」「聖女キュリア様………」
さざ波はやがて、押し寄せる津波へと変貌した。
「「「聖女キュリア様、万歳!!!」」」
冒険者ギルドに、聖女が誕生した瞬間だった。
※ ※ ※
その様子を、すぐ近くで跪きながら見ていたレッカは、
(ギルドの緩衝材………あの娘と男達との取りなし………必要無くなったじゃん………!!)
「よーしそれじゃあ今日は派手に飲むぞぉ!!湿っぽいのをあいつ等も嫌だろう!!」
「今日は、じゃなくて、今日も、だろう!?」
「違ぇ無ぇ、ギャハハハハっ!!」
スカー達の笑い声に同調してレッカも笑ったが、その日の酒も料理も味がしなかった…




