ショート2-2 神の手って、何だ!?
『南都ラフカディオ神殿』…
「お、おお、キュリア…」
彼女の姿を見たオーウェン高司祭は、嬉しそうに駆け寄って来た。
「ご無沙汰しています、師父様。データベースの更新に参りましたわ。」
それからキュリアは、オーウェンと連れ立って、神殿の廊下を歩いた。変わらない厳かな…だが、以前とは違い、張り詰めた雰囲気の消えた、穏やかな空気が流れていた。
「元気でやってたかい、キュリア!?」
問うオーウェンにキュリアはにっこりと微笑んで、
「ええ。向こうでも同年代のお友達が出来ましたわ…」それから少し顔をしかめて、「…まあ、一人、気に入らない方もいらっしゃいますが…」
オーウェンは苦笑しつつ、
「神殿も相変わらずだが、ロクスケ君のお陰で、治せる病気が増えたよ。病で訪れる方はお気の毒だが、頼りにされるのはありがたい事だね…」
そこに向こうから白衣の神官が2人やって来て、
「師父様、準備整ってます。」
ここでようやくキュリアは、オーウェンが僧衣ではなく白衣を着ている事に気づく。
「あの…師父様…お忙しかったですか!?」
オーウェンは白い布を取り出すと、
「ああ、用事が入ってたんだ。でも………すぐに済ませるよ。」
口元を覆う。
※ ※ ※
白衣に口元を布で覆い、両手の平を自分の側へ向けて顔の高さまで掲げたオーウェンを先頭に、同じ格好同じポーズの若い神官2人が後に続く。やがて3人は観音開きのドアの前へたどり着く。
「ああっ!!オーウェン高司祭様!!」
「父を!どうか助けて下さい!!お願いします!!」
老いた母親と、その息子と思しき2人がオーウェンに懇願する。
ガチャ…前で控えていた神官がドアを開くと、3人は中に入り、ガチャ…再びドアが閉じられる。部屋の中には苦しそうにウンウン唸る男が、寝台に寝かされている。部屋の前にいた老女の夫、男の父親だろうか。3人は寝台を取り囲むと、
「では…お願いします。」
両手を上げたままの格好でお辞儀をする。
「ラン、スキャンボディ!!ラン、サニティ!!」
若い神官が術式を唱えると、寝台の患者の顔から苦悶が和らいだ。
「ラン、ペインブロック!!」
もう一人の神官が唱えると、患者を観察していた神官が、
「ペインブロック、効いてます。メンタル、許容範囲内です。」
それからオーウェンが、術式を走らせる。
「ラン、スカルペル!!」
患者の腹にスッと、一筋の切り傷が浮かび、開かれる。だが血は出ない。切開とともに止血を行う術式なのだ。
その後もオーウェンは何度かスカルペル(メス)の術式を走らせた末に、ついに患者の腹の奥深くの臓器にたどり着く。赤黒い色をしており、明らかに健康とも正常に機能しているとも思えない。
「ラン、スカルペル!!」
オーウェンが再び唱えると、スっ…!!その臓器は周囲から切り離される。
「ラン、リフトアップ!!」
臓器は手も触れていないのに持ち上げられ、そのまま横移動すると、側に置かれていた小さなテーブルの上の金属の皿の上に落とされる。
「バイタル、正常です。」
スキャンボディで観察していた治癒術師が告げる。
それからオーウェンは失われた臓器をヒールの術式で回復させると、ヒールを重ねがけして、スカルペルの開かれた腹部を内側から順に閉じていく。最後に腹の外皮の傷が閉じられると、患者は穏やかに寝息を立てており、腹には一切の傷跡が残っていなかった…
※ ※ ※
バタン!ドアが再び開かれると、オーウェンは部屋から出てきて、表の老女と男に、
「手術は無事成功しました。安静の奇跡が切れたらお話も出来ますよ。」
その言葉に2人はオーウェンにすがりつき、
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「あなたは神の手の治癒術師だ!!」
オーウェンは微笑んで、
「全ては、ラフカディオ様の思し召しです。」
『南都ラフカディオ神殿』はロクスケの術式を貪欲に学び取り、多くの治癒術師の技術が向上した。特にオーウェン高司祭は、『スカルペル』の術式による切開の技術に精通し、その切り口の綺麗さからヒールで縫合しても傷跡が一切残らず、『神の手を持つ治癒術師』と評判だそうだ。
「こちら…少ないですがお納め下さい。」
「ご喜捨、感謝致します…」
オーウェンは患者母子が出した銀貨袋を受け取り、キュリアはそんなやり取りを複雑な面持ちで見つめていた。
『セインツティアー』を買った時は『年寄りの蓄えがどうの』とほざいていたが、今ではロクスケの術式が何十巻買えるか分からない程稼いでいるらしい…




