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第2-7話 流行り病って、何だ!?

数日後、ロクスケのスクロールショップ…


「病気で担ぎ込まれる奴が増えてる…!?」

ロクスケはキュリアの言葉を反芻した。


「ええ…激しく咳やくしゃみをされて、高い熱が出る方が増えているんです。放っておくと、数日でお亡くなりになるので、神殿に連れて来られる方が大勢いらっしゃるんです。」


「そう言えば、店子の中にも咳をしてるのがいたねぇ。普段あれだけ賑わってる大通りも、今じゃ咳の声しか聞こえないよ…」

たまたま店に来ていた大家が言った。


(わたくし)達も懸命に患者さんを癒しているのですが、その…大勢の方が同じ病気になっていらっしゃって、神殿のお部屋も礼拝堂以外は全て患者さんを寝かせるために使っている上、祝詞が効かずに………お亡くなりになる方が、もう何人も………」

憂い顔を伏せるキュリア。


「はぁ…化け物騒動の次は、変な病気かい…『南都』はどうなるんだろうねぇ…」

大家が溜息をつくと、


「そりゃ多分、流行り病だな…」

カウンターのロクスケが言った。


「流行り…病…!?」


「前に言ったろ!?病気には病原体…目に見えない小さな生き物が体内に入ってかかる物があるって…流行り病は、人から人へ感染するんだ。病原体が、既にかかってる奴から健康な奴の身体に入って…」


「まあ…」驚いて両手で口をふさぐキュリア。


「でな、『ヒール』ってのは、範囲を指定して生命力を与える術式だろ。流行り病の奴にヒールをかけると…」


「患者さんと一緒に、病原体も元気にしてしまう、と…」


「ああ…それで人間の体力が病原体に抵抗しきれれば治るが…」


「………お年寄りやお子様が…多く亡くなっていますわ…」

キュリアが伏し目がちに言った。


「その、さ…シスターさんにこんな事、言うのは何だけど…神殿って、お金さえ払えば、どんな怪我でも病気でも治してくれるんじゃ無いのかい!?」

大家が遠慮がちなのか無遠慮なのか分からない事を言うと、キュリアは、


「………『奧都』の総本山は、そうだったと聞きます…」


「あの一件で、どれだけの高位治癒魔法が失われたか分からないんだ。全く実に惜しい…」

ロクスケがそう言うと、気まずい雰囲気が、店内を流れる。

「さらに悪い事に、さっきも言った様に、流行り病は人から人へ感染する。だから、人が大勢住んでいる場所程、感染が拡大しやすいんだ。」


「『南都』が、それに当たりますわね…」


「『奥都』が化け物共の巣になっちまって、人が増えたからね。なんてこったい!あたしゃ家賃で丸儲けだって思ってたのに…」


「…ま、お前(キュリア)は毎日『アンチアブノーマリティ』をかけ続けて、鼻と口元を布で覆え。病原体は患者の咳やくしゃみから感染するらしい。患者と触れ合う機会が多いなら、お前が病にかかる訳にもいかんし、お前が誰かに感染させる訳にもいかん。」


「はい………そう、致します…」

そう言い残して、一礼してキュリアは去って行った。残された大家はロクスケに、


「あたしゃこれから、東と南の新街区も回らにゃならないんだけど、そういうのも危ないかねぇ!?」


「店子と接する機会が多いだろうからな。さっき言った様に、口元を布で覆え。あと、今後は可能な限り、他人との接触を最低限に控えろ。」


「分かったよ、あんたも気をつけな…」


大家にそう言われて、ロクスケは怪訝な顔をして、


「はぁ…!?こんな流行らない店じゃあ、誰とも接触する機会も無いだろう!?俺は大丈夫だ。」


「あんたねぇ…」

何か含むものがありそうな大家に、


「ん!?どうかしたか…!?」


「………いや、何でも無いよ。じゃあね…」

大家も出て行った。一人残されたロクスケは、


「…あ、そうだ。あいつに、手紙の返事書くか…」


そう言って、ペンと紙束を取り出し、書き始める。


『アゲハ、元気か』…


その手紙には、『南都』の近況…流行り病が流行している事と、それが人から人へと感染する類の物と推測され、最終的に感染者を殺す危険性がある事を説明し、最後にこう締めくくった。


『もし、お前のいる場所に流行り病の手が及んでいないなら、そして、お前等の状況が許すなら、遠征を延長しろ。


「南都」に、帰って来るな。少なくとも、この流行り病が終息するまでは。


でないと、お前達まで流行り病にかかってしまう』………


     ※     ※     ※


(人の心は常ならぬ物ですわね…)


最早人影もまばらとなった大通りを歩きながら、キュリアは思った。


(至ったと思っていた悟りに、もう迷いが生じてしまいました…ラフカディオ様はいつでも(わたくし)達を見守って下さっている…その言葉は、人の手ではどうしようも無い現実の前では、虚ろに聞こえてしまいますわ…)


具合が悪そうに歩く人々。この『南都』で、一体どれだけの人が、同じ苦しみを味わっているか分からないのだ…


(あるいはラフカディオ様…彼等の病も、死も、全て御身の思し召しなのでしょうか………)


ラフカディオ様は、答えてくれない。


(神様は何もして下さらない。なら、悪魔にすがるしか………)


ぶんぶんぶん!!キュリアはその考えを頭を振って否定した。


     ※     ※     ※


『南都ラフカディオ神殿』…


「ラフカディオ様、どうかこの者の病をお癒し下さい!!」「ラフカディオ様、どうか…」「御身に帰依し奉らん!!御身に帰依し………」


部屋となく廊下となく、並べられた毛布の上に横たえられた、激しく咳をする患者達と、その傍らで必死に祝詞を上げる神官達の中を、無表情のまま、棒を掲げて歩くキャロライン司祭長。彼女の眼には、苦しむ人々の姿も、それを癒そうとする者達の姿も、果たして見えているのか…


「司祭長様、何とかして下さい!!人手が全然足りません!!」「神官の中にも、流行り病にかかる者が続出してます!!」


キャロラインは彼等を一瞥すると、

「それはあなた方の使命でしょう!?ラフカディオ様から、癒しの奇跡を賜った、あなた方の…」


「私達の祈りが…奇跡が効かないんです!!」「お年寄りが…小さな子供が、もう何人も………」


「それはラフカディオ様の思し召しでしょう!?」

吐き捨てる様に言い残して、すがろうとする神官達を振り払い、行った先は礼拝堂。ここだけは、重病患者が最後に神にすがる祈りの場として、残されていたのだ。


「ラフカディオ様、どうか母を…」「うちの子をお助け下さい!!」


その中の1人が、入って来た者の僧衣から司祭長だと気づき、


「ああっ司祭長様!!お願いです!!どうか私の母を助けて下さい!!」「どうかあなた様の癒しの奇跡で………!!」


「全ては、ラフカディオ様の思し召しです。」


キャロラインは自身にすがる者達に、そう言い放った。途端に礼拝堂がシンと静まり返る。


「不信心者にはラフカディオ様の罰が当たったのです。信心深い者はラフカディオ様のお傍に召されたのです。分かったならあなた達もこれからは、欲も邪心を捨てて、ラフカディオ様への信仰に生きなさい!!」

無表情の中に邪悪な笑みを浮かべ、キャロラインは思った。

(そうです………この病はきっと、ラフカディオ様からの罰なのですわ。不信心に塗れた『南都』への、(わたくし)を『南都』へ追いやったこの世の中への…

そして(わたくし)は、生き残った心清き者達と共に、ラフカディオ様への信仰にあふれた、清らかな世の中を創り直す…ええきっとそうですわ、それが、(わたくし)に与えられた使命。そのために(わたくし)は、『奧都』総本山の壊滅から生き残り、『南都』に遣わされたのですわ………)


キャロラインのその物言いに、がっくりと項垂れて、一人、また一人と、礼拝堂を去って行く病人の家族達。最後に残ったのは、礼拝堂の一番前に跪き、誰よりも一際熱心に祈り、すがる男。


「ラフカディオ様、お願い致します!!どうか私めに、PVと評価とコメントとブックマーク登録を…」


キャロライン司祭長はその男を汚い物を見るかの様な目で見下し、


「…あなたも帰りなさい。」


     ※     ※     ※


『南都ラフカディオ神殿』の、とある一室…


「………ご臨終です。」

オーウェン高司祭は、さっきまで必死に唱えていた癒しの奇跡の祝詞を弱々しく中断すると、目の前に横たわる患者に一礼して、そう告げた。途端に周囲の家族からは嗚咽の声が聞こえる。

激しく咳き込んでいた患者だったが、ようやくその苦しみから…生きる苦しみから逃れられる事が出来たのだ。病の苦しみから解放してあげられなかった事が、本当に申し訳無いが…


「光の海の彼方におわす創造神ラフカディオ様、願わくばこの者の魂に安らぎを与えん事を…」


最後にその祝詞を上げ、悲しむ家族に一礼し、去って行こうとするオーウェン。それにしても、熱心に祝詞を上げていたせいか、ひどく疲れて、身体も熱っぽい…


「ゴホっ!!」

突然、激しく咳き込む。


「し…司祭様…!?」「どうなさいました!?」


「ゴホっ!ゴホゴホっ!!!」

オーウェンの咳は止まらない。そのまま、その場に崩れ落ちるオーウェン。


「司祭様!?」「誰か!誰か~~~っ!!」


神殿の司祭達も、その患者達も、薄々感づいていた。流行り病は長時間病人の側にいた者程、かかりやすい事に。だから気づいた。


長い間、流行り病の患者を癒そうと必死に看病してきたオーウェン高司祭が、それ故に病魔に侵されてしまった事に………

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