第1-32話 勝利の理由って、何だ!?
『南都』は救われた。『南都』に迫りつつある危機は防がれた。
しかも、『南都』を蹂躙しようとしてたモンスターを倒したのが、女性ばかりの冒険者だという。手折らんとする邪な者の手を噛み千切る『牙持つ花』の名は、当分の間、『南都』じゅうの噂になるだろう。
ギルドの男共は、普段蔑んでいた彼女等に手柄を奪われた形になったが、アースドラゴンに追われて人間の領域まで降りて来たモンスターの討伐クエスト依頼が何件も来ているらしい。彼等も当分の間、おかずが1品増える事だろう。
※ ※ ※
「えー、それでは、ミッションクリアと、今日の『南都』のお天気を祝ってーーー」
「「「かんぱーーーい!!」」」
『南都』冒険者ギルドの『酒場』では、一斉にジョッキをぶつけ合う音が鳴り響いた。
ミッションクリア祝いと言っているが、何も無くても大酒を飲む野郎ども。だが今日はいつもより皆、表情が明るい。
いつもの隅の席で料理をつついていたアゲハの下に、既に酔っているスカーが千鳥足でやって来て、
「アゲハぁ、お前のせいで稼ぎそこねたんだぁ…今日という今日は俺の盃を受けてもらうぜぇ…」
そう言って、持っていたジョッキを突き出す。
アゲハはそれをひったくると、
「んくっ! んくっ……………ふぅ…」
飲み干し、『酒場』じゅうから歓声が上がる。ヒサゴは横からそのジョッキを取り、クンクンと匂いを嗅ぐ。「お酒!?」レッカの問いにヒサゴは返事代わりに肩をすくめると、スカーが今度はヒサゴにからんで来た。
「ぃよぅヒサゴ!!お前ぇに出し抜かれちまったなぁ…」
ヒサゴは自嘲気味に、
「上げ底なのは確かだけどね…」
スカーは妙に澄まし顔で、
「戦うばかりがスカウトの役割じゃねぇだろう…!?」
上気した顔のアゲハは、ヒサゴとレッカの、『南都』の冒険者のみんなの笑顔を眺め、
(戻って来れたんだ…ヒサゴもレッカも…この、昨日と変わらない今日へ………)
「アゲハのおかげだね!」
ヒサゴが不意に言った。
「本当にそうだよ。今日、勝てたのも、生きて帰って来れたのも、全部、アゲハのおかげだ!!」
レッカも続ける。
(あたしがやったんだ…ミッションを、やり遂げたんだ…)
これまでほぼ冒険者以外いない『北都』で暮らしてきたアゲハは、自分の仕事で感謝されたのは初めてだった。
“spell phlogistonball…”
脳内に刻まれた新たな術式、アゲハの新たな力。ロクスケと共に作った、燃えずに飛ぶ火の球の呪文、ファイヤーボールとは燃えて飛ぶ物だという、『象牙の塔』で教えられた常識を打ち破った、新たなこの世の理…
(5歳で孤児になってキンダーガーデンに入れられて、『象牙の塔』で魔法の修行をさせられて、『北都』の冒険者として戦って…あたしにはこれしか道は無い、そう、思ってた。だけど………)
他の道は、思ってたより容易く開けた。世界の理と、それを思うままに動かす術を身につければ、容易く…
なら、次にあたしがすべき事は…
「さて………温まって来た所で…そろそろ今回の勝利の立役者であるアゲハに、何か一言キメてもらおうかねぇ………」
ヒサゴにそう促されて、皆が一しきり囃し立てた後に、アゲハはゆっくりと立ち上がる。そして、
(今度はあたしが、あいつの道を開く番だ…)
皆を見回したアゲハは、よく通る声で言った。
「今日の勝利は、あたし1人の物ではありません。
ヒサゴとレッカと、そして、ロクスケの魔法の呪文のおかげです。
路地裏通りの奥の、水路の橋の側に建つ、ロクスケの呪文屋の、そこでしか手に入らない術式の………」
※ ※ ※
同時刻、ロクスケのスクロールショップ………
「………ん!?」
ロクスケは、目が覚めた。
カウンターの椅子に、放り投げる様に寝かされて、たまたまそこいらに放り出されていた毛布をかけられていた。
「…今、何時だ………!?」
外が静かという事は、アゲハは討伐に成功したな………
「あいつ………無茶しなかったろうな………」
ヨロヨロと起き上がったロクスケは、奥のドアを開けて中に入り、側のテーブルに置いてあった、”Swallowtail Magic Crest”と書かれた本を取り、ペラペラとページをめくり…再び睡魔に襲われて、そのまま落ちてしまった。それは、難しい言葉や意味の分からない術語がページ狭しと並んだ研究レポートで、開かれたページには、写し絵。後ろを向いた人物の背中一面に、羽を広げたアゲハ蝶の巨大な紋様が描かれた物だった。ロクスケはこれと似た物を、つい最近直に見た事があった。しかも女性のスカートの中という、いささか刺激的な場所で…そして写し絵の右下には、赤字で”Died”と書き足されていた………
次回、最終回。




