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ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜  作者: 白洲詠人
第一部 ファイヤーボールって、何だ!?
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第1-31話 アゲハのファイヤーボールって、何だ!?

『南都』東部の荒野…


そこに、そいつはいた。


鱗に覆われた四肢と長い尻尾を持つ、巨大なトカゲの様な怪物、アースドラゴン。奇しくもアゲハの『北都』での最後のクエストの討伐対象になった相手と同じ種だ。


馬車程の巨体を揺らしながら、荒野を西へと向かっている。その先に『南都』とその周辺の村々…巨大な餌場がある事を感づいてでもいるのだろうか。


その前方の丘の上から、降りて来た人影が4つ。アゲハ達、『ファングドフラワー』と、助っ人のヒーラーである。


アースドラゴンはゆっくりと頭をもたげ…小さな羽虫共の意図を計りかねていた。


「アゲハ、お願い…」

「ええ。」

ヒサゴに促されてアゲハは杖を掲げ、叫ぶ。


「ラン、ファイヤーボール!!」


ボン! その一言で杖の先端から火球がアースドラゴンへと射出される。


ブン! アースドラゴンまであと少しの所まで飛んだ火球は、丸太の様な尻尾の一振りで打ち消されてしまう。だが、


「うおおおぉぉぉぉぉりゃあああぁぁぁ!!!」


左から迂回して駆け下りたレッカが、アースドラゴンの横から斬りかかる。グワァァァ!!アースドラゴンはその巨大な顎でレッカに食いかかろうとするが、レッカは飛び退いて交わす。


(今だ!!)アゲハは再び、叫ぶ。


「ラン、フロギストンボール!!」


何も、起きなかった。アースドラゴンは、何も感づかなかった。だが、しばらくして、


ボン! アースドラゴンの横っ腹に、唐突に巨大な炎の華が咲いた!!


グワァァァ!! アースドラゴンが再び吠える。


「何なんですの、あれは!?」

ヒーラーが叫ぶ。詠唱無しの魔法に続いて、当然現れた火の球。何もかも常識外れだ。


(よし!)確かな手応えを感じ、アゲハは再び唱える。

「ラン、フロギストンボール!!」


『北都』最後のアースドラゴン退治の失敗の原因はもちろんアゲハの詠唱失敗だが、その後詠唱に成功して放たれたファイヤーボールを、アースドラゴンに打ち消されてしまった事にもある。どんなに知能の低いモンスターでも、火の球が飛んで来れば避けるなり防ぐなりする。そして、アゲハの作った術式、『フレイムボール』は、あまりにも激しく燃えすぎて、途中で消えてしまう物だった。つまり、


『ファイヤーボール』の魔法は、火の球を飛ばす事自体が無駄、飛んで行く途中の燃焼が無駄なのである。


この発想からアゲハが発案し、ロクスケが作った術式、『フロギストンボール』は、ただのフロギストンとオキシジェンの混合球である。熱を与えて発火させないまま力を加えて飛ばす。透明で無臭の混合球は接近しても標的は気付かず、対処出来ない。そして、外部の球殻には各部に座標センサーが仕込まれており、透明な球が何かにぶつかって球殻が歪み、短径と長径の比率が一定値以下になる事をトリガーに、発火する!!


ボン! グエェェェ!! 2度目の爆発にアースドラゴンは悲鳴を上げる。


「レッカの回復お願い!!」「え、ええ…」


矢を射るヒサゴの隣でヒーラーが回復魔法を唱える。


     ※     ※     ※


現場へ向かう馬車の中で、今回開発した呪文の話を聞いたヒサゴは、


「目に見えない上、何かにぶつかると燃える球の魔法…それが本当なら…あたい達、きっと勝てる…」


「そうね。それとレッカ…」

アゲハは御者席のレッカに呼びかける。


「何だい!?」


「この魔法は、味方にも見えないから、位置取りには気をつけてね。」


「分かった。アゲハとドラゴンとの射線上には立たないから、そっちも気をつけて。」


     ※     ※     ※


グエェェェ!! 炎に焼かれ、剣で斬られ、矢で射られ、アースドラゴンの動きが段々鈍くなって行く。だが…


アースドラゴンは体をかわし、レッカの横に回り込んだ。丘の斜面に陣取るアゲハ達との間にレッカが挟まれた状況になる。さっきから頻繁に起きる爆発が誰によるものか、本能的に気付いたのかもしれない。だがそれも、アゲハは予想済みだった。


「ラン、ウォーター!!」


それは、ただの水を生成する術式だった。ただし、アースドラゴンの頭上に、『フロギストンボール』の発火で生成した冷気を込めて。その結果、


水は氷の塊となって、アースドラゴンの頭に落下した!!


ゴン!!


冷気はマイナスの熱。なら炎系の魔法で奪った熱で氷系の魔法を使えば良い。かつてアゲハが思いつきで言った事を、ロクスケは実現させたのだ。しかも大技のフロギストンボールを連打した後だが、ただの水を生成するだけの魔法なら、大した魔力消費にならない。


グォォォォ ドドド… 満身創痍のアースドラゴンは突如、丘に向かって疾走し出した。ここにいる人間どもの中で一番鬱陶しいアゲハを潰そうとしているのだ。


ヒサゴとヒーラーは左右に避けたが、アゲハはそこから動こうとしない。


「アゲハ、危ない!!」「あなたも逃げて!!」

2人が叫ぶ。もうそこまでアースドラゴンが迫っている!だがアゲハは平然としたまま、杖を掲げ、唱える。


「ラン、フレイムボール!!」


アゲハが作った炎系の魔法、あまりにも激しく燃えすぎるせいで途中で燃え尽きる欠陥魔法。だが、この距離なら…


ボ ン ! 顔面を焼かれ、それが止めとなった。


グ ォ… ズーーーン…!!


ついにアースドラゴンの巨体は、地面に崩れ落ちた。


「か…勝ったの!?」

「私達、やったの…!?」


まだ信じられない風のヒサゴとレッカ。アゲハは後ろを振り向く。自身が立つ丘に阻まれて見えないが、向こうに『南都』…彼女等が守った街と、『北都』があるはずだ…


死体の後始末は別の者の役目だ。『ファングドフラワー』一行とスカーのパーティーは、現場を後にした。


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