第1-30話 アースドラゴンって、何だ!?
「初めてかもしれないわね…こっち側に来たの。」
新しい呪文のスクロールを共同作成するに当たって、アゲハはカウンターの内側へ入れられた。
「あら!?こっちは何かしら!?」
カウンターの内側の奥にはドアがあり、その向こうの部屋にはテーブルが置かれており、その上には1冊の本が置かれていた。
「そうだ、お前の話を聞いて思いついたことがあるんだ…」
言いながらロクスケはバタンとそのドアを閉じた。
「な…何!?」
ロクスケの思いつきを聞いたアゲハは、それも今回の術式に盛り込む事にした。何か他に聞きたい事があったのだか忘れてしまった。
「さあ始めるぞ。今ので作業量も増えてしまったしな。さっきも言った様に、お前は簡単なモジュールを作って、俺は難しい物と全体の統括を。」
「ええ!」
※ ※ ※
それから2人は、新しい術式の構築に取りかかった。アゲハは底が知れないロクスケの知識と術式のノウハウに驚嘆し、ロクスケはこの短時間でここまでの技術を身に付けたアゲハに舌を巻きつつ、共同作業は続いた。
もう遅いし、後は俺がやるからお前は帰って寝ろ。ロクスケにそう言われて家に帰ったアゲハだったが、1時間程してギギィ…と表のドアを開ける音がした。
「悪いが今日は臨時休業…アゲハ!?」
カウンター奥のドアからロクスケが出て来ると、帰ったはずのアゲハが、何故か戻って来ていた。
「何だ!?お前は休めと言ったはず…」
「…奥の部屋にいたの!?」
「そうだが何かあったのか!?」
「あ、ああ、これ………」
アゲハは小さなバスケットを差し出した。その中に入っていたのは…
「これは………懐かしいな。」
バスケットの中に入っていたのは、切った野菜や干し肉を、薄く切ったパンに挟んだ料理。
「『北都』を思い出させて気分が悪ければごめんなさい…でも、これなら作業しながらでも食べれるでしょう!?」
モンスターとの戦闘に明け暮れる日々で、落ち着いて食事を摂る機会の少ない『北都』では、手づかみて食べられる数々の料理が考案されていた。これもその1つだ。
「…お前が、作ったのか!?」
ロクスケが問うと、アゲハは苦笑して、
「…もっとまともな料理も出来る様になったんですからね。…嫌い、だった!?これ…」
「いや、ありがたい、いただくよ!」
パンの1切れに手を伸ばし、かぶりつくロクスケ。
「…そう言えばさっき、奥の部屋にいたみたいだけど、向こうには何があるの…!?」
そう問うアゲハにロクスケは、
「あーそうだ、アゲハ、今回相手するアースドラゴンって、あれだよな!?」
「え!?」
「ほら、翼の無いドラゴンみたいなの!前脚と後ろ脚と、尻尾だけで、翼の無い、トカゲみたいな奴!!」
「あ、ああ、そうね…」
「それで、ワイバーンって、翼と脚と、尻尾のあるドラゴンだよな!?前脚が翼になったみたいな…」
「そうよね…」
「でもドラゴンって、前脚と、後ろ脚と、翼と尻尾があるよな!?」
「もう…それがどうかしたの!?」
「いや、何でも無い。ほら、明日に備えてお前は帰って寝ろ。」
「………おやすみ。」
「ああ。差し入れ、ありがとうな…」
ギギィ…アゲハは帰って行った。
※ ※ ※
そして夜が明け、徐々に日が南に差し掛かる頃、
東新街区北岸の、ロクスケとアゲハだけの秘密の場所で…
「で………」「出来た………」
試運転は成功し、2人の術式は、ついに完成した。
※ ※ ※
「ほら…しっかり歩きなさいよ…」
「すまんな…」
徹夜明けでフラフラのロクスケの手を引きながら、橋の下の隠し通路から出て、呪文屋に戻ってみると、何故かそこには、大家の老婆がいた。
「…話は大体聞いてるよ。ロクスケはアタシが面倒見とくから、あんたは行っといで。」
大家は腕組みしたままそう言った。
「あなたは、逃げないの!?」
『南都』の大通りを南の大門へと向かう人や馬車の長い行列を見かけた。アースドラゴン接近の噂が既に流れていて、『南都』を離れようとする者が現れているのだ。
「逃げた奴等が戻って来た時、住む家が必要だろう!?」
大家はニヤリと笑い、
「いいかい!?新しい店子を探したくも無いし、アタシの物件を踏み潰されたくも無いよ。だから化け物を倒して、生きて帰っておいで!!」
「はい………行って来ます。」
ギギィ…アゲハはロクスケを大家に託し、呪文屋を後にした…
※ ※ ※
カランカラン! ドアベルの音が響き、アゲハが中へ入ると、『酒場』のいつもの隅のテーブルに、ヒサゴとレッカ…仲間達が待っていた。
「来たね…アゲハ!」「準備は終わった!?」
「ええ…準備万端よ!!」
出来立ての術式は、途中自分の家に寄って読んで来た。
ヒサゴを先頭に、後ろ左にアゲハ、右にレッカ。3人は『祭壇』に祈りを捧げる。
「私の伝手で、ヒーラーの助っ人をお呼びしました。」
そう言う受付嬢の隣には、修道服に身を包んだ、アゲハ達と同年代くらいの女性。
「よろしくお願いしますわ。」
最後にヒサゴが、皆の顔を見渡しながら言う。
「みんな…誰一人として欠ける事無く、ここへ帰ろう!!『ファングドフラワー』が『花と散る』なんてごめんだからね!!」
アゲハとレッカ、そしてヒーラーは頷きあい、 カラン… 4人はギルドのドアをくぐる。
※ ※ ※
『南都』東部、荒野…
1台の馬車が、東へと向かっていた。乗っているのはアゲハ達、『ファングドフラワー』だ。
「…本当にそんな魔法があるのかい!?」
今回作った術式の事を話すと、ヒサゴが聞いた。
「ええ…今度はちゃんとテストしたから大丈夫よ。」
「それが本当なら…あたい達…」
「そうね。それとレッカ…」
アゲハは御者席のレッカに呼びかける。
「何だい!?」
※ ※ ※
やがて彼女等を乗せた馬車が、街道から外れた丘の上にやって来ると、そこには斥候役のスカー達6人パーティーがいた。
「よう…あいつはもう、そこまで来てるぜ…」
スカーが告げた通り、丘の向こうには、馬車程の巨体の、トカゲの様なモンスターが、西へ向かって闊歩していた。
「アースドラゴン…あれが……」
レッカが呟いた。
「行くわよ、みんな…」「ええ………」
アゲハが言うと、レッカとヒーラーと、ヒサゴが後に続こうとするが、
「おい、ヒサゴ!!」
スカーがヒサゴを呼び止める。
「………なぁに!?上げ底を笑いに来たの!?」
「ヒサゴ!!俺は、お前の事が大っ嫌いだ!!」
「……奇遇だね、あたいもよ…」
唐突に変な事を言われて声が1オクターブ低くなるヒサゴ。
「お前が『祭壇』に入ったとしても、祈ってなんてやらねぇ!!だから………死ぬんじゃねぇぞ!!」
しばしの沈黙の後、ヒサゴは、
「………気色悪い。」
そう言い残して、ヒサゴはアゲハ達の後を追った。




