第1-29話 アゲハの進むべき道って、何だ!?
路地裏の細い曲がりくねった道を歩き、水路の橋の側の家にたどり着く。ギギィ…軋んだ音を立ててドアが開くと、中に待っていたのは、棚一面に並べられたスクロールと、それを作ったこの店の店主…
「ロクスケぇ…」
ロクスケは振り返り、
「おう、アゲハ!よく来たな…どうした!?」
この店の唯一の常連のただならぬ雰囲気に声を潜める。
「ロクスケぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!!」
ガバっ!!「お、おい!?」アゲハはロクスケの胸に抱きつき、ロクスケは困惑するが、至近距離で見たアゲハの顔に、ロクスケは更に声を上げる。
「お前………」
泣いていた。あの、勝ち気なアゲハが…恐らくここに来るまでずっと泣き明かしていたのだろう。目尻がボロボロにふやけている。
「お前…何があった!?」
「ロクスケぇ〜〜〜どうしよう!?あたしの、あたしのせいで、ヒサゴとレッカが、みんながぁぁぁ〜〜〜!!」
※ ※ ※
ここ数日、アゲハと毎日の様に世間話をしていたロクスケは、『南都』冒険者ギルドの内情と、アゲハの周囲で起きていた出来事を、アゲハの主観でではあるが聞かされて知っており、アゲハの泣きじゃくりながら途切れ途切れの独白をなだめながら聞いて、アゲハ達が置かれている状況を正しく理解する事が出来た。
「…という訳で、あたしのせいで、ヒサゴとレッカが、危険なミッションを受けなきゃならなくなったのぉ…ギルドのみんなもぉ………グスっ…あたしのせいでぇ………」
アゲハをカウンター前の椅子に座らせ、自分はカウンター内に腰掛け、これまでの話を聞いていたロクスケは、ふむ、と、相槌を打った上で、
「それ、お前のお仲間が面と向かって言ったのか!?『お前のせいで』って…」
「…」アゲハは頭を振った。
「ギルドの連中はどうだ!?」
「………普通にサブクエスト受けてる。『俺達、これが仕事だ』って…」
「お前がクズと蔑んでた奴等は、お前が思ってたよりましな連中だったって事じゃないか!?」
「でもヒサゴとレッカが!!あたしが余計な事をしたせいで!!」
「その子等も『南都の冒険者』なら、命かける覚悟は出来てるだろうさ。それに、聞く限りその子等もお前を利用してた節があるから文句は言えないだろう…」
「アースドラゴンが!!あたしが『北都』で失敗したせいで…!!」
「今回のアースドラゴンはその時のと同じ個体なのか!?そもそもあいつらに人間の顔を識別する知能があるなんて聞かないぞ。お前を追いかけて来たはず無いだろう!?」
「あたしが…あたしが………」
「…俺が逃げた冒険者の世界に、お前は必死に食らいついて、仲間を作って、任務をこなして、その成果が現れ、正しく認められた、それだけの事じゃ無いか。誰に憚る謂れがある!?」
「グズっ…グス………」
グチャグチャにかき乱されていたアゲハの心中がようやく凪いで来た。それと入れ替わる様に、ふつふつと込み上げる熱と、冷えた刃の様な思考が、アゲハの脳裏で繰り広げられた。
「さあアゲハ、お前はここでこんな事してる暇は無いはずだろう!?」
ロクスケは気づいていた。アゲハは『皆を危険に追い込んだ事を後悔』しているが、アゲハ自身は、ミッションから逃げたいとは一言も言ってない事に…
ふぅ…アゲハは深呼吸して、目の前のロクスケを見つめ、
「ロクスケ………あんたに作って欲しい魔法の呪文があるのよ………」
「あん………!?何だ唐突に…」
「あたしはアースドラゴンを倒さなければならない。」
「思い上がるな。魔術師が1人で倒せるもんでも無いだろう…」
「アースドラゴンを倒して、ヒサゴとレッカ、あの2人を生きて冒険者ギルドへ帰す。あたしにはそれしか道は無い!!」
ロクスケはアゲハを睨み返し、そして、
「………まあ、お前等は人数が少ないから、確かに何か切り札を用意しなきゃ勝てないかもな。話だけでも聞いてやる…」
※ ※ ※
アゲハの話を全て聞き終えたロクスケは苦笑し、
「これはまた…無茶な事を考えたもんだな…」
アゲハは真剣な面持ちのまま、
「やるの!?やらないの!?それとも…出来ないの!?」
「言ってくれる………」
ロクスケはアゲハを睨み返した。
「決行はいつだ!?」
「明日………」
「時間が足りない。大部分は既存の『ファイヤーボール』の術式の改良で済むが、特に球殻のギミックが…」
「あたしも手伝う!」
アゲハが自身の胸に手を当てて言った。
「あたしだって、あんたの術式の理解を深めて来たつもりよ。2人で夜通しやれば、何とか昼には間に合うでしょ!?」
ロクスケはしばし額を指で抑え、
「よし分かった。モジュールを手分けして作ろう。簡単な物はお前が、込み入った物と、全体の組み立ては俺がやる。あと、お前は今夜ちゃんと寝ろ!!万全の体調で明日に挑め!!」
2人の共同作業が始まった。




