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ファイヤーボールって、何だ!? 〜呪文屋ロクスケは術式を走らせる〜  作者: 白洲詠人
第一部 ファイヤーボールって、何だ!?
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第1-26話 失敗の続きって、何だ!?

ロクスケのスクロールショップを出た後、自身の家へと続く水路の橋を渡りながら、アゲハは思い出していた。


あのアゲハの失敗には続きがあった。


     ※     ※     ※


何とか敵モンスターを倒した後、『南都』へと帰る気まずい馬車の中、ヒサゴと目を合わせるのを憚るアゲハに、


「あ、あのさ、アゲハ…」

ヒサゴは言った。

「あ、あたい達、弱くって、今までずっと、モンスター退治なんて出来なくて、戦績も詰めなくて、冒険者としては、行き詰まってたのよ…」


アゲハは黙ったまま、ヒサゴの台詞を聞いていた。


「だから、あんたが来てくれて、モンスター退治に手を出せる様になって、あたい、本当に感謝してんのよ…」


「お金もいっぱいもらえる様になったしね。毎日のごはんの品数も増えたんだよ。」

御者席で手綱を握るレッカが、前を向いたまま言った。


「だから…あたい達のためだと思うなら、新しい事もどんどん試してくれていいし、大歓迎。ま、今回はあんたにだって失敗はあるって事で…」


馬車の右前方…海の向こうに『北都』のある岸壁が見えてきた。


「あ、あのさ、アゲハ…そう言えば、『北都』って、どんな街!?」


「冒険者のための場所よ…」

一呼吸置いて、アゲハは言った。

「北の大地から南下して来るモンスターを食い止めるために、ただの砦を拡張した場所。選りすぐりの冒険者と、軍人と、騎士だけがいて、みんな『南都』や、生き残った人達を守るという使命を背負っていて、日夜、モンスターどもと戦って、冒険者どうしでもしのぎを削り合っている場所…」


「じゃあ…そんな所から出られて、良かったんじゃあない!?」


ヒサゴの言葉に、アゲハは何も答えず、海の向こうの『北都』を見つめた。


「実は、あんたが来るまで、あたい等、ごはんの品数どころか、食うにも困ってたんだ…」

ヒサゴがバツ悪そうに言った。


「ギルドの寮の相部屋で、寝床はあてがわれてたけど、メシは各自の裁量だからね…」

御者席のレッカが言った。


「あんたのお陰で稼ぎが増えて、ご飯の心配もせずに済む様になった。出来ればもう一品増やしたいけど、これで満足。」


それからヒサゴは馬車の前に見えて来た『南都』の街並みを見つめ、


「このまま『養育費』の年季が開けるまで、今日と変わらない日々が続いて欲しいね…」


その後、3人は黙ったまま、やがて馬車は『南都』の東の大門をくぐった…


     ※     ※     ※


分かっていた。とうに気づいていた。


ヒサゴとレッカと共に戦績を積んで認められ、アゲハは『北都』に帰る。その計画が、とうに瓦解していた事に…


あの2人に、ワイバーンやアースドラゴンの様な強力なモンスターを倒す事は出来ないし、本人達にもその様な危険なクエストに挑む意思も無い。


彼女達は年季が明けるまで生きて冒険者を除隊したい、それまでの日々を危険の少ない任務をこなして過ごしたいだけ。


そして…


ガチャ…ドアを開け、アゲハは自分の家に入った。


ベッド、コート掛け、料理道具、テーブル、椅子、鏡…長くいないつもりだったはずなのに、家具が増えて行った。おまけに食費を浮かせるためという言い訳で、料理の練習まで始めてしまった。


アゲハは自身が羽織っていた薄手のマントを外し、コート掛けに掛ける。そこにはもう一着、厚手のマントも掛かっていた。『北都』を出る時に羽織っていた物だ。アゲハは厚手のマントを薄手の物に変えた。『南都』は暑いから…


()()()、アゲハ自身も、『北都』へ帰りたいという意思が弱くなっていた。


自分達は『エリート冒険者』と『人類を守る』という美名の下、貧乏くじを引かされていた。誰かがそれをする必要が確かにあるのだろう。だがそれはアゲハである必要は無い。彼女はもう、その任を解かれ、虫籠から出された。


アゲハは窓から外を見る。海の向こうの『北都』の灯り。だがそれに最早何の感慨も浮かばない。もう彼女は、どこへだって飛んで行けるから...


いつの間にか日は沈んでいた。今日という日は終わった。明日はまだ来ないが、日が昇ればまた明日が来るのだろう。今は今日なのか、明日なのか。そもそも昼間が昨日になったと考えるべきなのだろうか…


アゲハは手袋を外し、ビスチェと、スカートを脱ぎ、ブーツを脱ぎ、最後に下着を脱いで、ベッドに入った。


あと数時間で明日がやって来る。昨日の次の明日、昨日の続きの明日、昨日と変わらない明日が…


きっとこれからも、昨日と変わらない明日が、この『南都』に、そして自分自身にもやって来るのだろう。そう思いながら、アゲハは眠りに落ちていった…


     ※     ※     ※


翌朝、


冒険者ギルドの掲示板には、2枚の新しい掲示物が貼られていた。


1枚は、冒険者ヒサゴのランクをDからCに昇格させるという内容、


そしてもう1枚は、『廃都』を抜けて『南都』に接近しつつあるアースドラゴンの討伐ミッション、受注可能パーティーランクはC以上という内容。


この2枚の掲示物は、本来、何の関係も無い、各々独立した物である。だが…


ヒサゴの昇格に伴って、『ファングドフラワー』は『南都』で唯一かつ最高のランクCパーティーとなり、アースドラゴン討伐を受注する権利…いや、()()のある唯一のパーティーになってしまったのだ…


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