第1-25話 アゲハの失敗って、何だ!?
「『ファイヤーライト』のスクロールを売りたい!?」
ある日、ロクスケのスクロールショップを訪れたアゲハは、その様な話を聞かされた。
「ああ。あの呪文は面白い。様々なパラメータを削って自由度が低い代わりに魔力が低くても使えるなら、これまで『ファイヤーボール』が使えなかった者でも炎の魔法が使える様になる、文字通り『ファイヤーボール』の軽量化版だ。」
「あたしはそんなつもりで作った覚えはないんだけどなぁ…」
興奮気味なロクスケと対照的に、アゲハは冷めていた。だが不意に嬉しそうに、
「それより聞いてよロクスケ!ついに完成したのよ!!強化版の『ファイヤーボール』が!!」
「ほう…」
今度はロクスケの態度が冷静になった。
「あんたに教えてもらった事と、積み上げてきた術式構築のノウハウを基にね!これであたし達はもっと強くなれるわ!!」
「その…お前等、大丈夫なのか!?」
心配そうに問うロクスケに、アゲハは、
「ふふ…明日の討伐戦でお披露目するから、戦勝報告を楽しみにしてなさい!!」
※ ※ ※
翌日、『南都』東部の某所…
「アゲハ、行くよ!!」「魔法お願い!!」
ヒサゴとレッカが叫ぶ中、アゲハは勿体ぶって、杖を掲げる。
(さあ、行くわよ…あたしの術式、究極の炎系魔法!!)
そして、叫ぶ。
「ラン、フレイムボール!!」
ボ っ !! 杖の先から燃え盛る巨大な火球が出現する。
「おお…」「おおお…!!」
ヒサゴとレッカも期待の表情を浮かべた。そして、
ゴゴゴ… 巨大火球は杖の先端を離れ、モンスターめがけて射出される。
(わざと混合比をフロギストン多めにして、前方からエアー内のオキシジェンを取り込んで、中で激しく撹拌混合させて燃焼、発生した気体を後ろから噴出させる事で推進力も稼ぐ。更に周囲のエアーを整流させ、エアーの抵抗も軽減させる。これこそあたしが考えた、究極の炎の魔法だ!!)
ゴゴゴゴゴ… 燃え盛る炎は飛び続ける。
(さあ、行きなさい!!あたしのフレイムボール!!!)
ボシュっ!! 火球は唐突に炎の勢いを弱め、消えた。
「あ…」
「…」「……」
「………」
アゲハも、ヒサゴもレッカも、そしてモンスターも心無しか困惑している様だ。
(あまりにも激しく燃えすぎたから、フロギストンを消費し尽くして、途中で消えた………)
「何やってんのよぉぉぉぉぉ〜〜〜!!!」
ヒサゴの叫び声がフィールドに木霊した。
※ ※ ※
同日、夕方、ロクスケのスクロールショップ…
「あーーーっはっはっは!!そいつはとんだお披露目だったなぁ!!!」
ケラケラ笑うロクスケに、アゲハは叫ぶ。
「笑い事じゃあ無いわよ!!もう!!」
むくれつつもこいつも笑うのかとアゲハは妙なことを気にした。
「はは…でも、こうやって帰って来たって事は…」
「………その後、普通の『ファイヤーボール』に切り替えて倒したわよ。」
笑い顔から急に真面目な顔に代わり、ロクスケは、
「それで…何でしくじった!?『例の場所』でちゃんとテストはしたんだろう!?」
「…今までは発動するかしないかのどっちかだったから、燃えたから成功だろうって…海に向かって飛ばしてたから、目標地点まで飛ばないなんて想定してなかった。万に一つも、海を行く船に当たる危険性もあるから、テストの時は遠くまで飛ばさない様にしてたのも…あと………慣れてきてテストをおなざりにしてた…あたしのミスだ…」
「…ま、改良を加えれば、使い物になるだろうさ。」
だが、ロクスケの言葉に、アゲハは、はぁ…と、ため息をつく。
「ん!?どうした!?」
「問題はその後なのよ。あたしが失敗して、敵を倒した後、ヒサゴが何て言ったと思う!?」
※ ※ ※
倒れたモンスターの側で、杖にもたれて立つアゲハは、
「あの…ご、ごめんなさい…」
しかし、怒鳴られる事を覚悟していたアゲハに、ヒサゴは、
「あ、あはは、あ、あんたでも失敗する事、あるんだねぇ、安心した。」
※ ※ ※
「ま、許してもらえたんだったら、良かったんじゃ無いか!?」
「何言ってんのよ!!意識低いったら無いわ!!」
「そうは言うけどお前なぁ…」
その時、アゲハはふと陳列棚に目を止め、
「あ、丁度いいわ。」
そこに置かれていたスクロールを手に取り、
「これちょうだい。」
カウンターに置いたそれは、『ヒール』の呪文書だった。
「お前…ヒーラーにクラスチェンジする気か!?」
ロクスケの言葉にアゲハは、
「少人数パーティーだから、いる人が色々やらなきゃならないのよ。」
「ちょっと待て…じゃあお前等、あの時の3人のままか!?」
「ヒーラーはキンダーガーデン出身でもそのまま教会に残る事例が多いから。ヒサゴも探してくれてるけど、他のパーティーも手放さないのよ。おまけにうちのパーティー、男は入れづらいし…」
「つまりヒーラー無しって事か…なんて無茶な………」
アゲハはバツが悪そうに、
「…あたしの魔法で弱らせてから、レッカにとどめ刺してもらってるのよ。敵も3人で倒せるのを選んでるし…」
言いながらアゲハは金貨を取り出し、カウンターに置く。
「あ、あたしだって分かってるわ。今のあたし達に強いモンスターを倒す戦力は無いって…だから、当分は分相応の弱い敵を相手して、無理せずにやって行くわ。」
「そうか………くれぐれも気をつけろよ。」
「あたしの術式がお店に並んだ所を、あの娘等にも見せてあげたいから、誰も死なせはしないわ!それじゃあね。」
ギギィ… 軋んだドアを開けて、アゲハは店を後にした。




