第1-24話 冒険者の頂って、何だ!?
「メーマイウィッ、カン、トゥ………(ガっ!!)」
アゲハは詠唱を最後の最後で失敗し、パラディンはアースドラゴンの前脚に吹っ飛ばされた。
「リーダー!!」
アゲハは悲鳴に近い叫びを上げるが、ヨロヨロと起き上がったパラディンは、
「も…もう一度だ…」
「は………」
「詠唱しろ、アゲハ!!」
パラディンの声に我に返り、アゲハは再度、ファイヤーボールの呪文を詠唱する。
「あ、アーマイングレータンスプリービーン…」
「アゲハ!!このウスノロ!!」「しっかりしろ!!このマヌケ!!!」
メンバーの罵声に心をすり減らしながら、アゲハはようやく詠唱を終える。
「メーマイウィッ、カン、トゥルー!!」
ボ ン!! アゲハの掲げた杖の先に火球が生じ、アースドラゴンめがけて飛び…
ガ ン!! アースドラゴンの振った太い尻尾で、アゲハの火球は叩き消された。
※ ※ ※
「ハっ………」
夢はそこで途切れ、アゲハはベッドから跳ね起きた。
「何で今更、あの時の事を………」
豊かな胸元をシーツで隠しながら、アゲハは呟く。
結局、あのアースドラゴン討伐戦が、アゲハの北都での…パラディンのパーティーでの最後のクエストになり、アゲハはその後、『北都落ち』した…
アゲハは室内を見渡す。『南都』の路地裏の、アゲハの借家。アゲハが今、横たわっているベッドの他、テーブルと椅子と、コート掛けが並ぶ。明かり取りの窓からは光が差し込んでいる。『南都』の太陽はもう登っているのだ。
「………起きて支度しよ…」
アゲハはシーツを跳ね除けてベッドから起きると、下着と、ビスチェとスカートを履き、ブーツを履いて、テーブルの上の小さな鏡で身支度をする。
最後にアゲハは手袋を着けて、短い薄手のマントを羽織り、とんがり帽子をかぶる。今日もまた、『南都』での冒険者の一日が始まる………
※ ※ ※
『ファイヤーライト』の術式を作り出してからも、アゲハは新しい術式の開発を続けた。
ヒサゴとレッカとの3人で、冒険者パーティー『ファングドフラワー』としてモンスターを討伐してまわり、着実に実績を積み重ねていた一方で、空いた時間を利用して、ロクスケの術式への理解を深め、分からない事はロクスケ自身に聞き、時には『物体の燃焼の話』や『物体を斜めに投射した際、大地に引かれて落下する飛跡』、果ては『物体が飛来する際にエアーから受ける抵抗』の話まで尋ね、知識と、技術と、経験を積み重ねて行った。
(より強力な、『究極のファイヤーボール』を作るために。そして、ヒサゴ達ともっと戦績を積んで、『北都』へ…あたしが一番輝ける、冒険者の頂に!あたしの生きる道は、それしか無い!!)
※ ※ ※
同日、午後、『南都』大通り…
「私達、最近強くなってない!?」
レッカが串焼き肉にかぶりつきながら言った。
「まあ、確かに、シティーアドベンチャーばっかりしてたのが遠い昔みたいね…」
ヒサゴがリンゴにかぶりつきながら言った。
「あたし達は、もっと強くなれるわ。」
アゲハが露店で紅茶の茶葉を受け取りながら言った。
その日、『南都』の大通りにはバザーが立っており、両側に端から端まで露店が並び、普段より多くの人だかりでごった返していた。アゲハ達3人は冒険者の仕事をお休みし、バザーを散策していたのだ。
「そう言えば…」
3人並ぶ右端のアゲハが不意に言った。
「ん!?なあに、アゲハ…」
「『南都』って、3で割った余りが1の日に、バザーが立つのね…」
「「………」」
ヒサゴとレッカはしばし黙っていた。意味を測りかねている様だったが、ヒサゴが、
「あ、ああ…1日、4日、7日、10日、13日か…3日おきよね…」
「アハハ…やっぱり魔法使いは言い方が難しいや…」
レッカが笑いながら続ける。
「そ…そうよね…」
意思疎通に齟齬を感じながら、アゲハは取り繕う。
「『河口』や『渡河点』では、5日に1度みたいだし、人の多い『南都』は、確かに頻繁にバザーが立つかもね…」
ヒサゴの言葉にレッカが、
「『北都』は何日おきにバザーが立つの!?」
「あ…レッカ!!」
「向こうにはどんな店が出るの!?何か美味い物あるの!?アゲハ!!」
カラカラと笑いながら無邪気に問いかけるレッカに、アゲハは、
「………」
黙ったまま俯き…ようやく、口を開ける。
「………あそこは…冒険者と、軍や騎士団関係者しかいないから………」
「「あ………」」
周囲の雑踏の中、気まずい沈黙が3人に漂う。
「ほ、ほら!クエスト中は周囲の警戒を怠るんじゃ無いよ!!周りじゅうどこもかしこも宝の山だよ!!」
努めて明るい口調で問うヒサゴに、レッカは、
「ま、これだけの人混みなら、歩きづらさや道迷いじゃここもダンジョンに違い無い…」
それから3人は、再び取り留めのない話に戻った…
※ ※ ※
2人と別れたアゲハは、路地裏に向かっていた。
(あの2人とあちこち引っ張り回されて疲れた…)
看板すら付いていないロクスケのスクロールショップの、軋むドアを開く。
「ロクスケー!?」
返事が無い。最近は愛想良くなった様な気もしてて、アゲハは自分の教育の賜物だと思っていたが…
「いないのー!?」
奥のカウンターにもいない。
「しょうがないわねー…」
カウンター前の椅子に腰掛ける。こんな物、いつからあったっけ!?
「ふう………」
カウンターに、両腕を乗せる…
※ ※ ※
カーンカンカンカン!! カーンカンカンカン!!!
「………ん…」
警鐘の音に、アゲハは目覚めた。頭の奥が眠ったまんまだ…一体何十分眠れたんだろう…
「ワイバーンだ!!起きろみんな!!」
遠くからパラディンの怒鳴り声が聞こえる。アゲハは疲れの取れない身体に鞭打ってベッドから上体をもたげる。服を着たままベッドに入っていた。この様に、いつ起こされるか分からないから…
「ワイバーンバリスタだ!!」「奴を絶対に『南都』へ行かせるな!!」「何やってんだよ!!早く!!!」
部屋から出ると他の冒険者がもう廊下を走っていた。石造りの無機質な通路。ギルドも『酒場』も、宿舎も地下通路で結ばれており、わずかな地上施設も飾り気が一切無い。地下の詰め所や宿舎の窓から漏れた灯りが、『南都』の北岸から見えているのだ。
ここは『北都』、北の大地から南下して来るモンスターを防ぐため、砦を拡張して造られた、冒険者の頂である。
※ ※ ※
「………はっ!?」
アゲハは目覚めた。ロクスケのスクロールショップのカウンターで。背中に違和感…温みを感じる。
「毛布………!?」
アゲハの背中には毛布が掛けられていた。毛布が床に落ちない様に掴んで丁寧にカウンターに置く。
「誰が毛布を…!?」
未だ状況が読めないアゲハだったが、
「お、起きたか!?」
奥からロクスケが出て来た。手に持っていた本を奥のテーブルに置いて。それよりロクスケ何て言った!?起きた…!?
「寝てた………あたしが!?」
ようやく状況に気づいたアゲハが声を上げる。
「おう…ぐっすりとな。全く…誰か客が来たらどうするつもりだったんだ!?」
「あたしが…昼寝………!?『北都』じゃあこんな事、一度も無かったのに………」
確かに今日はバザー巡りで疲れていた。だとしても…
(あたし、最近、気が緩んでる…!?)
ロクスケはそんな彼女の内心に気づいてか気づかずか、
「ま、お前も『南都』の水に慣れたって事じゃ無いのか!?」
「………っ!!」
狼狽したアゲハだったが、
「きょ、今日はもう帰るわ。毛布、ありがと、それじゃ…」
そう言い残してアゲハは背中を向ける。
「あ、おい、アゲハ!!」
ロクスケは呼び止めるが、アゲハはスクロールショップを出て行ってしまった。
1人残されたロクスケだったが、アゲハの温もりが残っている毛布と、彼女のために置いた椅子を見つめ、奥のテーブルに置いてある綴じ本を手に取った。店に来てみればあいつが寝てたから、掛けてやった毛布だ。あの椅子も、あいつがよく来るから用意した。そして、この本は…ロクスケはぶんぶんと頭を振る。
「どうかしてるぞ…俺が、他の奴を気遣うなんて…」
綴じ本の表紙には、こう書かれていた。
“Swallowtail Magic Crest”




