第1-18話 上げ底って、何だ!?
ロクスケのスクロールショップ…
「そういえば、『ファイヤーボール』の術式は、何でフロギストンだけじゃなく、わざわざオキシジェンも一緒に作ってるの!?オキシジェンがエアーの中に普通に含まれてるなら、必要無いでしょうに…」
壁の商品棚を見ながらアゲハは言った。
「フィールドでならともかく、ダンジョン…それも、洞窟の奥深くだったらどうする!?ファイヤーボールをガンガン撃ったら、オキシジェンを消費しすぎて息が出来なくなっちまうだろう…」
「言われてみれば、聞いたことがあるわね…洞窟深くでは気をつけろって…」
以前、シティーアドベンチャーの際に購入したエアー系魔法の術式にも、エアーを生成して洞窟奥深くでも呼吸の出来る物があった。
「あと、球体を作るサブルーチンの名前の”ball2”の”2”って、『2つの物体を混ぜた球を作る』って意味よね!?”1”や”3”を作る予定でもあるの!?」
「単一物体による球を作る機会があるかも知れないし、フロギストンとオキシジェンだけじゃなく、ナイトロジェンで上げ底するかもしれないだろう!?」
「だったらせめて、混ぜる2つの物体もフロギストンとオキシジェンに固定すれば、割合も2:1に限定出来るんじゃない!?」
「今はフロギストンとオキシジェンだから2:1だけど、他の物体の組み合わせが将来出てくる可能性もあるだろう!?」
「…相変わらずあんた達、難しい話してるわね…」
たまたま居合わせた大家の老婆がこぼした。
「あ、あった。」
そう言ってアゲハが棚から取ったのは、1本のスクロール。表紙には”Icycle Lance”の文字。
「これ、いただくわ。」
以前、買おうとしていたアイス系のスクロールをカウンターに差し出す。
「毎度あり…金貨5枚だ。」
アゲハは懐から金貨を取り出し、カウンターに出す。
「…ったく、せめて種類ごとに棚に並べなさいよね。あと、この店も看板ぐらい出しなさいよ。冒険者からも市井の魔術師からも認知されてないみたいじゃない…」
「気が向いたらやるよ…」
ロクスケが金貨をしまうと、アゲハはスクロールを両手で取る。
「ここで読んでくのか!?」
ロクスケにそう言われてアゲハは手を止め、初めてこのスクロールショップに来た日…『ファイヤーボール』の呪文書を広げた時の痴態を思い出し…
「………家に帰ってからにするわ。」
ギィ…軋むドアを開けてアゲハは店を出て行った。
「…あの娘達、大活躍だそうじゃない。」
大家の老婆が言った。
「あちこちのモンスターを倒して回ってるそうだよ。もう問題住人の追い出しクエストなんて引き受けてもらえないわねぇ…」
大家の言葉に続いてロクスケが、
「あいつ…やっぱりすごいのか…」
「あの娘は今やアタシの店子でもあるし、あの娘が稼いで、あんたの呪文を買って、2人から家賃が入ればそれでいいけど…」
大家がロクスケからさっき手に入れた金貨を受け取りながら言った。
「あと…あの娘の言ってた事は正しいねぇ。家賃払えって言っといて何だけど、この店にお客が来やすい様にしなさいねぇ…」
うるさいのが2人に増えた…ロクスケはため息をついた。
※ ※ ※
アゲハは水路にかかった橋を渡り、自分の家に入る。
バタン!ドアを閉め、右手に持っていたスクロールを広げようとして…思い留まる。
アゲハは部屋の隅のコート掛けに、とんがり帽子とマントをかけ、改めてスクロールを広げようとして…再び思い留まる。
アゲハはベッドの脇に座り、スクロールを…やっぱり違う。
アゲハは足をもじもじさせた後、ごろん…ベッドに寝転ぼうとして、慌ててブーツと、手袋を外し、再びベッドに寝転ぶ。
今度こそとスクロールを広げようとして…アゲハはビスチェの胸元のボタンを1つ2つと緩め、既に汗ばんでる太腿をわずかに広げる。
紅潮した顔のまま、アゲハは右手に持ったスクロールを左手で勢い良く広げ、すかさず左手の細長い指を太腿の間に伸ばし………
※ ※ ※
同時刻、路地裏の水路にかかった橋をたまたま通りかかった者は、どこかから聞こえる甲高い喘ぎ声の様な物を聞いた。通行人は一旦足を止めた後、どうせ猫か何かが盛ってるんだろうと思い、そのまま歩き去って行った。
※ ※ ※
冒険者ギルド…
「いよぅ、ヒサゴぉ…」
声をかけられたヒサゴは面倒そうに答える。
「何よ、スカー…」
声をかけたのは、頬に目立つ傷のある冒険者だった。
「ヒサゴぉ、お前ぇ、まだあの『北都落ち』とツルんでんのかぁ!?」
「アゲハの事!?誰と組もうがあんたには関係無いでしょ!?」
スカーはおどけたまま、
「つれねぇ事言うなよぉ、俺とお前ぇの仲じゃねぇかぁ…」
「あたいとあんたの仲って…デビューしたての頃にちょっと組んでただけの仲だと思ったけど…それもあたいは女だってだけで早々に戦力外通知されて…おまけにその際、あんたにひどい事もされたっけ…」
「あの頃は俺もガキだったんだって…」
「ジジイの思い出話につき合ってる暇は無い、じゃあね。」
行こうとするヒサゴにスカーは、
「俺はオヤジ臭くなっちまったけど、お前ぇはガキのまま変わんねぇのな。そうやって自分を上げ底すんの…乳隠しの詰め物とか………『北都落ち』のランクBとか。」
「あんた………ッ!!」
ヒサゴが足を止め、激昂するが、スカーはおどけたまま、
「上げ底はバレた後が悲惨だぜぇ。素っ裸にひん剥かれて、詰め物が取れて…しかも今度は恥かくだけじゃ済まねぇ…」
「………今の戦績が、あたい1人の物じゃ無い事くらい分かってるわ。でも、戦う事がスカウトの役割じゃないでしょ!?」
冷静にそう言い残してそのまま歩き去ろうとしたヒサゴだったが、立ち止まり、振り返り、叫ぶ。
「ブラにパッド入れる女の気持ちなんか、あんたにゃ分かんないよ!!」
再び踵を返し、大股で去って行くヒサゴの小さな背中を、スカーは頬の傷をポリポリ掻きながら見つめた。




