第1-14話 『南都』の冒険者って、何だ!?
一方、ヒサゴとレッカが冒険者ギルドに帰って来ると、1組のパーティーがカウンターで手続きをしていた。
「ターゲットは死亡だ…」
リーダー格の男がそういって、チャリン…血まみれの冒険者タグをカウンターに投げる。
「確認しました…クエスト、コンプリートです。」
受付嬢が言う。ヒサゴがクエストボードを見ると…行方不明冒険者捜索クエストの掲示がはがされていた。
それを複雑な思いで見つめていたヒサゴに、レッカは、
「あれって『死んでた』のかな、それとも…」
「さあ…」
「そして、行方不明って、クエスト中の事故だったのかな、それとも…」
「さあ………」
報酬を受け取って男達が去った後、代わってカウンターにやって来たのはスカーのパーティー。明らかに彼等より経験の浅そうな冒険者を2人連れている。スカーは受付嬢に言う。
「パーティーの編成変更だ…」
※ ※ ※
同時刻、ロクスケのスクロールショップ…
「アゲハ蝶………!?」
ロクスケがそう言った次の瞬間、2人は同時に飛び退く。
ロクスケは中腰のまま、アワアワと意味不明な事を言って戸惑い、
アゲハは床にぺたんと座り込んで、左手で短いスカートの裾を押さえ、ロクスケを羞恥と怒りの混じった目で見上げ…だが、アゲハの怒りと羞恥は、驚きへと置き換わる。
(ロクスケが…魔法を使った!)
『奥都陥落』以降現在に至るまで、現役冒険者のほぼ全員が、キンダーガーデン出身の孤児。アゲハと、ロクスケもその1人だ。
キンダーガーデン出身の孤児達は、冒険者として一定期間活動する事で、自身のこれまでの養育費の支払いを免除されるが、それ以外にも、事故等で冒険者としての活動を継続出来なくなった場合にも、養育費の支払いを免除される。
レッカは、『北都落ち』のアゲハの事を、大怪我をして冒険者を続けられなくなったのだと勘違いしていた。これと同じ様に、アゲハも、冒険者を辞めたロクスケの事を、大怪我をして冒険者を続けられなくなったためだと思っていた。
だがスクロールショップで再会した時、ロクスケは店の奥からアゲハの喘ぎ声を聞きつけ、歩いて来て、床に落ちてたスクロールの芯を手に取り、白紙になった事を目視確認した。つまり今のロクスケは目も耳も不自由になった訳ではなく、手足も問題無く動かせる様だ。ならロクスケは何等かの事情で魔法が使えなくなったんだ、魔術師の制服でもあるローブを脱ぎ、杖とともに壁にかけていた事もそれを裏付けている。アゲハはそう思っていた。
だが…
「ロクスケ………あんた…魔法が使えるの!?」
「当たり前だろ!?俺は魔術師なんだから…」
抜いた短杖を腰に戻しながら、平然と答えるロクスケ。
「じゃああんた、冒険者を辞めたのって…」
「自主的に、辞めた。」
アゲハの顔から血の気が段々失せてきた。
「じゃあ………養育費は!?活動分を差し引いても、結構な額になるはずよね…!?」
「………結構きついぞ。」
「………」
一瞬、アゲハの意識が飛んだ。そしてアゲハの顔色が青から赤に転じ、
「何考えてんのよ〜〜〜っ!!」
叫ぶ。
「あ、あんた何考えてんのよ!!冒険者辞めて、借金背負って、こんな誰も来ないスクロールショップなんてやって、家賃にも事欠いて…」
「俺は冒険者を辞めてよかったと思ってる。」
またもや平然と言うロクスケ。
「あ、あたし達は、冒険者になるしか、生きてく道が無いの!!冒険者になって!モンスターを倒して!!強くなって!!!みんなから必要とされて!!!!」
「みんなの評価なんか知ったことか!!」
「何も持ってないあたし達は、世間から必要としなけりゃ生きて行けないでしょ!?」
「ああ、俺達は何もかも失った。残された命と身体と自由まで、世間に奪われてたまるか!!」
「誰かが北の大地から攻めて来る化け物を食い止めて、『奥都』を取り戻さなきゃならないでしょ!?」
「それって本当に俺達である必要があるのか!?」
「あんたは世の中に少しは興味を持ちなさいよ!!こんな自分だけの穴ぐらに閉じこもってないで!!」
「俺達に世の中は何をしてくれた!?無いよりましな救済策…いや、苦界に閉じ込めて!!閉じ込められるよりは閉じこもった方がましだろう!?」
「それで食うに困ってちゃしょうがないでしょう!?あんたの言う通り、無いよりましなのよ!!あたし達は冒険者として、生きてくしか無いの!!」
「だからと言って、そんな事してまで…」
ロクスケの言葉にアゲハも心当たりがあった。先日のシティーアドベンチャーの趣旨は、本来、盗賊を借家から追い出す事だけだった。アゲハはそこにビキニアーマー女戦士の告発を付け加えた。あの女をヒサゴ達と共通の敵に見立て、成敗する事で、ヒサゴ達の歓心を買い、アゲハを仲間として受け入れさせた。
アゲハが『北都』へと帰る、その戦力として利用するために…
「あ、あの子達だってあたしに感謝してた!!」
「だからってお前…」
「悪い様にはならないはずよ!!もうあの子達は実績を積み始めてるの!!」
それからアゲハは立ち上がり、とんがり帽子を被り、杖を持って、ロクスケに背中を向ける。
「あんたみたいなのがいるから、あたしは『北都落ち』ってバカにされんのよ!!」
吐き捨てて出て行く。
後には、呆然となるロクスケが残された。そして…
ロクスケはアゲハがこの店に来てからずっと感じていた違和感、もとい、既視感の理由に気づいた。
アゲハは、『北都落ち』。ロクスケと同じ『北都落ち』。
かつてロクスケがパラディンのパーティーを追放され、入れ替わりに入って来た魔術師…
「あれが、あいつだったのか…」
※ ※ ※
一方のアゲハは…
カランカラン!ドアベルを鳴らして冒険者ギルドに入ると、そこには4人ずつ2組の男達が、向かい合って立っていた。
「じゃ、あばよ。」
一方の4人の右端に立ってた男…スカーは言った。
「ま、これからもここで顔合わすけどな…」
もう一方の4人の左端に立つ男…ベアーと呼ばれる髭面は言った。
「ねえ、どうしたの!?」
アゲハが男共を見つめていたヒサゴとレッカに聞くと、ヒサゴは、
「パーティー分けだってさ。」
と答えた。言われてみれば、スカーとベアーと、あの8人の内6人は、ついさっきまで同じパーティーとして活動していたはずだ。
「喧嘩でもしたの…!?」
アゲハはたずねたが、ヒサゴは肩をすくめて、
「ううん。あいつらのパーティー、最後の1人が昇格して全員ランクCになったから、パーティーを分けて、それぞれランクDを入れたの。」
新しい4人パーティー2組の新人2人は、どう見ても他の6人より見劣りする。
「何でそんな事するの!?それじゃあパーティーランクが下がっちゃうじゃない!?」
実際、ギルド所属パーティー名が記されている掲示板には、新しい2パーティーの名前が、アゲハ達『ファングドフラワー』と同じランクDの欄に記されていた。
「パーティーランクを下げるためによ。下手にランクを上げて、危険なミッションを受けさせられないために、ね。」
何言ってんの、信じられない。アゲハはその言葉を咄嗟に飲み込んだ。
「ま、モンスター討伐出来る様になったのはありがたいけど、あたい達も安全第一で無理せずやりましょ。」
「…ええ。」
ヒサゴの言葉にアゲハは同調した。
今の冒険者は、『奥都陥落』で発生した孤児達が、国に育ててもらった代償に仕方なくやる物、無いよりましな救済策。
誰も『冒険』を求めていない。
命がけの危険に晒され、逃げてもモンスターに殺されるか、仲間だった冒険者に追われるか…だったら命を落とさない様に大怪我しない様に、決められた年月が過ぎて晴れて自由の身になれるまで、安全なクエストをこなして過ごした方が利口。
『北都』のエリートとは違う。冒険なんて馬鹿らしい。それが『南都』の冒険者。
(みんなぬるま湯に浸りきってるわね…ここの連中は!!そして、そのぬるま湯からも逃げた腰抜けまでいる!!でも………
あたしは、違う!!)




