第1-13話 お風呂をためらった理由って、何だ!?
じゃ、あたし、行く所あるから…そう言って2人と別れたアゲハが1人行く先は、路地裏…
ギィ… 重苦しい音を立てて開く入口のドア、淀んだ空気の匂いに思わず鼻を覆うアゲハ。中には壁一面に並べられた背の高い陳列棚と、その上に無造作かつ種類もバラバラに置かれた無数のスクロール。
カウンターにロクスケは…いない。物書き作業用のデスク、ロウソクを立てた燭台、奥にかかっている、魔術師のローブと、身長ほどありそうな杖…最初にここを訪れた時もそうだった。どうやら奥にも1室あり、そっちでも作業をしてるらしい。
「ロクスケー、いるー!?」
アゲハは声をかけるが、返事は無い。
(中にいるに違いないわね。根負けしてあたしが出て行くのを待ってるんだわ…)
アゲハは確信した。
「あんたねー、客商売でしょー!!客が来たらちゃんと出迎えなさいよー!!あと、お店もちゃんと掃除して、空気入れ替えて、棚の商品も種類ごとに分けなさーい!!」
…返事が無い。
(まあいいわ…)
そう思ってアゲハは周囲を見渡した。雑然とした店内も、今の彼女にとっては宝物庫だ。宝箱だらけのダンジョンの方が雰囲気は近いか…
(アイス系の呪文書は無いかしら…)
ファイアー系と並ぶ攻撃魔法の主要系統、そのロクスケの術式版に、アゲハは手を出してみようと思っていた。
「ええと…」
辺りの陳列棚を見渡す。こっちはウィンド、こっちはウォーター、こっちはストーン…
「無いわね…あと、ちゃんと仕分けしなさいよ…」
さすがに不機嫌そうに言うアゲハ。
「上…かしら。」
アゲハは陳列棚の上の段を見上げる。
「ん………っ!」
背伸びして手を伸ばすアゲハ。スカートの裾が際どい所まで見えそうになり、誰も見てないのにアゲハは裾を押さえる。指先に触れて取ってみたスクロールは、またしてもアイス系では無かった。
「そのまた上の段…ハシゴは…あった!」
そばに立てかけてある移動式のハシゴを取り、棚にかけて一段、一段と登って行く。ついに一番上の棚に手が届き、スクロールを取ってみる。
「ここにも無い…」
その時、
「…なんだ、まだいたのか…」
奥の方からロクスケがのそのそと出て来た。
「客相手にその態度は無いんじゃないの…」
ハシゴの上のアゲハは言う。
「お前に言われる筋合いは無…い………」
ロクスケはハシゴの上のアゲハを見上げ、
「目当ての物が全然見つからないわよ。ちゃんと整理整頓しな…さ…い………」
ハシゴの上のアゲハも下を見下ろし、
アゲハの短いスカートの裾が、ロクスケの目線からは太腿の付け根ギリギリまで見えてしまう事に気づく。
「キャ………」
アゲハは反射的にスカートの裾を押さえ、グラっ!ハシゴの上でバランスを崩し、
「あ………」
足を滑らせて落ちてしまうアゲハ。
「危ない!!」
ロクスケは腰から下げていた魔術師の短杖を取り、アゲハに向けて構え、
「ラン、アップドラフト!!」
術式を走らせた次の瞬間、ぶわっ!!アゲハの下に小さな竜巻が起き、落ちかけていたアゲハは一旦巻き上げられる。だが、狭い室内で、しかも至近距離で魔法を発動させたのはまずかった。ロクスケも竜巻に巻き込まれてよろめき、
「わっ!!」「キャっ!!」
床に落ちたアゲハの上に倒れ込む。
「な…何よもう…」
床の上に仰向けに倒れたアゲハは側に落ちていたとんがり帽子を手に取る。さっきの竜巻のおかげで怪我をせずに済んだ。
「………!?」
一方ロクスケは視界が暗い事に違和感を覚えた。おまけに何故か生暖かく、むっとする匂いがする…視界が暗い…いや、正確には、黒くて、白くて、薄いオレンジ色だ…
「ろ………ロクスケ…」
アゲハがワナワナと震えながら言う。上昇気流の術式で彼女を救ったロクスケは、魔法の竜巻に巻き込まれ、彼女の上…スカートの中に頭を突っ込む形で倒れ込んでいたのだ!!
そしてロクスケもようやく自身の置かれている状況に気づき、視界の左側…アゲハの内股、右太腿の付け根に、奇妙な物がある事に気がつく。それは、
翅を広げた蝶の様な形をした、痣の様な物。スカートの中のロクスケは呟く。
「アゲハ蝶………!?」




