第1-12話 お風呂をためらう理由って、何だ!?
今から十数年前、『奥都陥落』。
突如として、北の大地からモンスターの大群が襲来、『奥都』は『廃都』となり、先王を含む大勢の住民達が命を落とした。
命からがら逃げ延びた者達は、王侯貴族や豪商の避寒地だった『南都』に遷都…新たな都に選んだ。
運良く生き延びれた者達にとって、問題は山積みだった。モンスターどもの住処となってしまった『奥都』の奪還、『南都』周辺と『廃都』から延びる街道沿いの村々の安全確保、北の大地から断続的に押し寄せて来るモンスター達の防衛、そして………『奥都』で両親と死に別れた、大勢の孤児達への対策………
それらの問題は、役目を終えて消えゆくはずだったとある制度と組み合わされて解決される事となる。これが賢策なのか愚策なのかは分からない。
孤児達は各地に建てられたキンダーガーデンと呼ばれる養育施設で育てられ、10歳になるとそれぞれの素養に合わせた施設、機関に預けられた。魔法の素養のある者は『象牙の塔』や各地の『教会』へ、手先の器用な者は『斥候ギルド』へ、力のある者、あるいは何も無い者は、戦士の許へ…
15歳になると、彼等は冒険者としてデビューし、一定期間、冒険者として活動する事で、自身がこれまで育つのに要した『養育費』の支払いが免除される。
『奥都』を奪い、『南都』をも犯さんとするモンスターへの対策と、大勢の孤児達を養育し、かつ彼等に手に職を付けさせてたつきの道を与える一挙両得の賢策なのか、
はたまた不幸な子供達を更なる苦界へと叩き落とす愚策なのか、
本当に分からない………
※ ※ ※
ぶ も ぉ ………
黒焦げになった巨大イノシシ型モンスター…『フェイタル・ファング』は、地に倒れた。
「悪く思わないで…ね!」ザクっ!! その心臓にレッカが剣を刺して、とどめをさす。少し離れた場所に立つのは、弓を構えたヒサゴと、とんがり帽子に杖を持って、左手を前に突き出した、アゲハだ。
「ターゲット討伐完了。あたい達の『牙』の方が強かったみたいだね。お疲れ様、アゲハ!」
「ええ…」
「それじゃ…切り取りやって、ギルドに帰ろっか。」
「そうね…」
冒険者パーティー、『ファングドフラワー』は、モンスター討伐の実績を着実に積んでいた。
主にアゲハの、彼女が使う『術式』のおかげで。
※ ※ ※
ギルドで討伐クエストの成功報告をして、『酒場』にいた男共から例によって驚愕をもって迎えられ、ギルドを後にした3人。
「あー、流石に汗かいたわね…みんな、お風呂に行かない!?」
不意にヒサゴが言った。
「あー、いいねぇ。野っ原でイノシシとの追っかけっこだったし…」
レッカも追随する。
「え………あ、あの…」
2人のやり取りを聞いて、口ごもるアゲハ。
「あ、アゲハ、『南都』には公衆浴場があってね…一緒に入らない!?」
「そ、その…」
「大丈夫よ。『北都』じゃどうだったか知らないけど、混浴じゃないし…」
「………」
アゲハは短いスカートの裾を押さえてモジモジする。
「あ………」
その様子に、何かを納得した様なレッカ。
「ご…ごめん、アゲハ。私達、無神経だったね…」
「い、いや、大丈夫。い、一緒に入ろう、お風呂!!」
咄嗟に笑顔を取り繕うアゲハ。
(2人を失う訳にはいかないし…だ、大丈夫よね…!?)
「じゃ…じゃあ、行こうか…」
ヒサゴに促されて3人がたどり着いたのは、煙を上げる煙突のある大きな建物。『南都』の公衆浴場だ。2つ並んだ入口の内、女湯の入口に、レッカ、アゲハが入って行く。ヒサゴも後に続いて入ろうとしたその時、ヒサゴはこっちをじっと見つめ、口をへの字に曲げて眉をしかめ、右手をぬっとこっちに伸ばし、手の平が大写りになり、
画面が暗転し、指の隙間から見えている背景がぐいと下がった。
※ ※ ※
1時間後…
「あー…いいお湯だった…」「本当、本当…」「………」
3人は公衆浴場から出て来た。一番後ろから無言でついて来るアゲハ。
「アゲハ!!」「は、はいっ!!」
不意にレッカに呼びかけられ、ドキっとなるアゲハ。
「あんた、『北都』を出て来たって聞いてたけど、身体に目立つ傷なんて全然無いじゃん。」
「………はい!?」
アゲハはレッカの言葉の意味が一瞬分からなかった。
「よく考えたら、大怪我して『北都』を出なきゃならなかったら、『南都』で冒険者を続ける理由なんて無いわよね…」
「………あ!」
どうやらレッカは、アゲハが公衆浴場に入るのを躊躇った理由が、身体に目立つ傷があるからだと勘違いしたらしい。
「な…何、言ってんの!?あたしが『北都落ち』した理由は、あくまで一身上の都合って奴よ!!」
笑顔を取り繕うアゲハ。
「ま、身体に目立つ物って、他にあったしね…」
「全く…服の上からも目立ってたけど、あそこまですごいなんて…」
レッカはアゲハの胸元を指差す。
「ちょ…ちょっと、こんな人前で…」
慌てて両手で自身の胸を隠すアゲハ。
「さすがランクB冒険者、あんな所まで高ランクなんて…」
「ちょっとぉ〜〜〜!!」
湯上がりの火照った身体でじゃれ合いながら、アゲハは思った。
(よかった…いくら女同士だからって、さすがにあんな所、ジロジロ見る人はいないわよね…)




