第1-11話 燃焼の三角形って、何だ!?
路地裏、ロクスケの呪文屋…
「…いらっしゃい…何だ、またお前か。」
入って来たアゲハを見て嫌そうな顔をしたロクスケに構わず、アゲハは、
「聞きたい事があるの。あんたの術式について…」
「はぁ〜〜〜!?そんなの自分で使いながら覚えろよ!!」
更に嫌そうな顔をして声を上げるロクスケ。
「あたしは行きがかり上とはいえ、あんたの術式を買ったの。あたしがろくに使いこなせなければ、あんたも困るんじゃないの!?」
「…別に困らん。お前が買って金を払った時点で全て終わりだ。」
「それじゃああたしにとってあんたの術式は高いだけの無用の長物になってしまうわ。周りの人にもそう言いふらそうかしらぁ…あんたの店、ますますお客が来なくなるわね。」
思わせぶりなアゲハに、ロクスケは怒鳴る。
「汚いぞ!!」
「大体あんた、矛盾してんのよ。魔法の研究して術式を作って、それだけしたいんなら、なんであんた、店をやってんの!?」
「ぐぬぬ…」最早古典的な悔しがり方をし、はぁー…ため息をつくロクスケ。面倒くさい。質問に答えてさっさと帰ってもらおう。
「………で、質問って、何だ!?」
アゲハは形の良い顎に指を当てて、
「あんたの『ファイヤーボール』の術式って、火系の他に、風系と氷系の痕跡があるんだけど、どうして!?」
ロクスケの目がピクッと開かれる。そのままアゲハを見つめ、
「お前…物が燃えるのに必要な物って、何だか分かるか!?3つあるんだが…」
「え………!?」質問に質問を返されて戸惑ったアゲハだったが、
「えーっと…燃える物と…後は………」
アゲハは素早く考えた。薪等、燃える物が必要なのは分かる。後2つは…普通に火を起こす時に何が起きてる!?火打石…石と金属を打ち合ったら火花が出る…
「火花…いや、違うわね…」
火花は小さな火だ。火を点けるのに火が要るじゃあ答えにならない。他は…火起こし器…木に棒を差して回す…何回も何度も…擦り付けて…
「………摩擦…」
「…まあいい、あと2つは、熱と、オキシジェンだ。」
「摩擦は熱として…オキシジェン!?」
聞き慣れない言葉…いや、見覚えならあった。ロクスケの術式に…
“form ball2(a,position,rmax,d,imax,rho,phlogiston,2,oxygen,1)”
「フロギストン…オキシジェン」
そう言えば、つい数日前まで、自身が日課の様に行っていた魔法の呪文詠唱の反復練習、一般的なファイヤーボールの呪文の中にもあった。
「『フロジストンフロギストンフローギストン…オキシゲンオキシジェン』…あっ!!」
つながった…!?ロクスケの術式が、『象牙の塔』の、魔法の呪文と…!!
ニヤリ…ロクスケが笑みを浮かべる。
「たどり着いたか…お前も…!!」
「あ、あれは…そういう意味だったの…!?」
呆然、いや、愕然となるアゲハに、ロクスケは続ける。
「お前がさっき言った、『燃える物』がフロギストンで、『オキシジェン』は、俺達の周りにある、目に見えない、触れられない物だ。」
「エーテルとか、マナとかみたいな…!?」
「あれとは別物だ。正確には俺達の周りにある物は『エアー』とか『アーエール』とか言うもので、その1/5がオキシジェンだ。」
「『エアーアーエールアエル』…また!?」
あの呪文は、オキシジェンとエアーを繰り返してたの!?
「とにかく、物が燃えるのにも、俺達が息をするのにも、オキシジェンは必要だ。」
「『何も無い』所にも、『何かある』って事なの!?」
その時、アゲハの脳裏に閃く物があった。
「『点火発火燃焼』…つまりそういう事!?」
そう言えば、ロクスケの術式にも、あった。
“heat(a,joule)”
「燃える物であるフロギストンと、オキシジェンと、熱を作って、火を起こしてる!?普通のファイヤーボールの呪文も、ロクスケの術式も…そして恐らくは、現実の火が燃える現象も...!?」
「ご名答!」
ロクスケはニヤリと笑った。
「フロギストンとオキシジェンの混合物で球(ball)を造って(form)、力(force)を与えて飛ばしている…!?」
「そういう事だ。」
「じゃあ、球殻(sphere)は!?」
「自分で考えれるんじゃないのか!?そこまで俺の術式を読めたのなら…」
「なによ、ケチねぇ…」
すねながらアゲハは考える。
「えーっと…ball2とsphereの()の中に、同じ単語があるわね…”position”と”rmax”って…」
「じゃあ大サービスだ。サブルーチンball2の2項目と3項目は、それぞれ球の中心と半径だ。」
「と、言う事は、sphere…というサブルーチン、でいいのかしら!?で、使われてるpositionとrmaxも球殻の中心と半径で…同じ中心と半径を持つ球と球殻…という事は、球殻はフロギストンとオキシジェンの球をすっぽりと覆っている…!?」
何のために…分からない。じゃあ、もしこれが無かったら…!?火の玉をそのまま飛ばしたら…!?いや、風の中に火の玉が浮かんでいたら…
「まわりの風で、火が消えてしまう。それを防ぐために、球殻で覆った!?」
「ハッハッハ!!上出来だ!!」
ロクスケが愉快そうに笑うのが、アゲハには意外だった。
「あ、あんたの『ファイヤーボール』に風系が混じってるのはオキシジェンとかのためだっていうのは納得出来たけど、じゃあ氷系は!?」
「冷気とはマイナスの熱だ。」
「え…あ、ああ…」
言われてみれば納得出来る様な気がする。炎で氷は溶けるし、水で火は消える。
「だから、炎系の魔法による点火の他に、微弱な氷系の魔法で奪った熱も、点火の熱に使ってるんだ。合理化効率化と言っても、冗長化による堅牢性はあった方がいいからな。」
「ふぅん………だったら、ファイヤーボールで奪った熱でアイシクルランスを使えないかしら!?」
アゲハの思いつきをロクスケは一笑に付す。
「あっはっは…そりゃいくら何で…も………」
だがその笑い顔は段々真面目な表情になり、ロクスケは黙り込む。
「ロクスケ…!?」
無愛想なこの男の変化に戸惑うアゲハ。ロクスケはブツブツ何やら呟いた末に、
「悪い、アゲハ。今日はここまでだ。ちょっとやってみたい事が出来た。じゃあな。」
そう言って、店の奥へと引っ込んで行った。
「あ…ちょ、ちょっと!ロクスケー!!」
「うるさい!少し静かにしててくれ!!」奥から声がする。アゲハはため息をつき、
「はぁーーー…何なのよ、もう…」
あいつがコミュニケーションに難のある男なのは薄々感づいていたが、ここまでとは思わなかった。アゲハ自身の中で色々と答え合わせは出来たので、その日はこれで帰る事にした…




