竜人の仕事
見渡す限り、そこは地獄だった。
先ほどまで人が住んでいた町は、見る影もなく破壊されていた。
焼け焦げた町の中には、人の死体が燃えカスのように転がる。
僅かな生存者は、次々と捕縛されて泣き叫ぶ。
そんな惨状を鼻で笑いながら、甲板から眺める男がいた。
「ほー、これが強化人間か、小娘三人に負けたと聞いた時は、どうなる事かと思ったが」
チョビ髭をいじる男は、帰還してくる強化人間部隊を見下す。
抱いていた疑念は晴れ、以前から気にくわなかった町も破壊できた。
おかげで、男の表情は僅かにほころぶ。
「アズカニダ、貸した金も返さぬ愚か者共めが、これで今までの利息分も含め、ようやく返済できたな」
次々運び込まれる工芸品や町民、それらの価値の目算を始めた。
彼の背後より、傭兵が一人前へと出る。
「おいおい、やりすぎじゃないか?」
チョビ髭の男に話しかけたのは、以前アーシャと戦ったドレイク。
しかし、ドレイクの意見にチョビ髭の男は表情を険しくする。
「何だ?雇われ風情が、我々に意見するか?」
「……いや、アンタ等の方針に口出しする訳じゃないがな」
「ならば黙って私の命を守っていればいい!いちいち口を出すな!」
「はいはい、仰せのままに」
今回の依頼主の背中に頭を下げたドレイクは、心の中で中指を立てた。
身なりだけは一人前の小太りな初老の男性。
頭を上げたついでに、彼の背中の刺繍を目にする。
「(以前あの嬢ちゃんたちを見逃したばかりに、こんな嫌な仕事を受ける何てな)」
依頼主の背には、リバティフリューゲルを象徴とするエンブレムが描かれている。
ため息を零していると、依頼主が振り返って来る。
「よし、町の制圧は終わった、貴様は格納庫へ向かい、小僧どもを見張れ、暴れるようなら殺して構わん」
「了解」
やる気なく返事をしたドレイクは、格納庫へと向かう。
「……クソ、崩壊戦からマシになったと思ったら」
整備士達に聞こえない程度の声で呟きながら、ドレイクは帰還してくる強化人間達を眺める。
専用のアーマーが展開し、現れたのは子供達。
年齢は、どう見ても一桁程度だ。
表情の死んでいる彼らは、機械化された四肢を鳴らしながら整列する。
『さっさと部屋に戻れ!たらたらするな!!』
高圧的なアナウンスに反応した子供達は、それぞれの部屋へ順次移動を開始。
格納庫の中で、無機質な音が響き渡る。
「借金の為とは言え、気にくわないな」
以前の戦いで艦船三隻分の借金の返済を求められた事を思い出し、ドレイクは深くため息をついた。
目を細めながら眺めるドレイクの前を歩いていた子が、足からスパークを散らしながら倒れる。
「ッ、おいおい、大丈夫か?」
「……」
「(ん?この子の匂い、どこかで)」
心配して駆け寄るも、その子はドレイクの言葉を無視。
足を引きずり、無理矢理進んでいる。
「チ、おい!誰か来てくれ!この子の足の調子が悪いみたいだ!」
誰かに助けを求めると、反応したのは整備士では無かった。
別の少女が傷付いた子の手を取り、担いで運び始める。
「い、良いのかよ、誰かに診せなくて」
「……はい、お手数を、おかけしました」
「お前は喋れるのか」
「はい、この子は、施術の際に、発声機能が」
「貴様!」
ドレイクと話していた子供は、突然やって来た兵士に殴られた。
少女の表情は変わっていなかったが、足を負傷した子と共に倒れてしまう。
「道具風情が!人の言葉を喋るなんぞ!言語道断!!」
兵士は銃床を使い、少女へ暴力を加える。
誰もその兵士を止めようとせず、少女は一方的に殴られ続ける。
その姿に、ドレイクは目を鋭くした。
「止めろ!俺が話しかけたのが原因だ、その子は悪くない」
「ならば貴様も同罪だ、雇われ風情が余計な事を!!」
一旦暴力は止んだが、兵士の狙いはドレイクへ変更。
銃床で殴りかかって来るも、紙一重で回避する。
「ッ、何故避ける!?」
「俺に喜んで殴られる趣味は無い」
「次避けたら上に報告する!」
「チ」
舌打ちをしたドレイクは、次の一撃は甘んじて受ける。
痛みこそ無いが、腹は立つ。
満足したのか、兵士は持ち場へと戻って行く。
「(チクショウが)悪いな」
「……」
頭を下げた彼女は、足を負傷した仲間を担いで移動を再開。
ドレイクは二人の首に注目し、魔法陣を視認する。
「(……そこまで強い術式ではないな、だが)」
目を凝らし、魔法陣をより観察する。
「(指定の人間以外の干渉で精神崩壊か……そう言えば、あの嬢ちゃんにも)」
脳裏を過ぎった少女の首にも、より強力な物が付けられていた。
おかげで、足の壊れた子供の匂いを思い出す。
「思い出した、あのタイタンと同じ香りだ……けど、一体……」
考え込んでいると、背後から声がした。
「やれやれ、兵隊と言うのは乱暴な物で」
「ッ」
考えていると、背後から男性が話しかけて来た。
振り向くと、スーツを突き破りそうなガタイの男が視界に入る。
「首輪の力を使えばいいというのに、折角の商品を」
「アンタが売ったのか?」
「ええ、今は劣等種ばかりではありますが、他にも上物がございますよ」
そう言いながら、男は名刺を差し出してきた。
社交辞令として受け取ったドレイクは、一先ずその内容を目にする。
「ビーキーパーズ、代表のイムカー、か、あこぎな事をしているな」
「はい、貴方もよろしければお一ついかがです?お望みでしたら四肢の加工も致します」
「……ああ、気が向いたらな」
太めの声で営業を終えたイムカーは、その場を立ち去った。
ドレイクも子供達を追うように、その足を進める。
「(今の男……警戒はしておくか)」
先ほどの男に鳥肌を立てたドレイクは、彼を睨みながら携帯を取りだす。
そして、待ち受け画面を緩んだ表情で見つめる。
「……やっぱり、ちょっと遅くなりそうだ、孤児院の子達と、仲良くな」
待ち受け画面に映されているのは、自分の娘の写真。
画面を優しく撫で、軽く目を閉じる。
「ッ!」
感傷に浸っていると、急に着信が鳴り響いた。
送られて来たメールを読み進め、ドレイクはため息を零す。
「……次はジャンク屋か、しかも、またタイタン族かよ、名前はマキナ、か」
攻める場所と目標の写真とプロフィールが映された携帯を、ドレイクは雑に閉じた。
そして、改めてチョビ髭の男の元へと戻って行く。
「(恨みは何も無いが、娘が同じ目に逢わないように……)」
しくじれば、娘が先ほどの子と同じになる。
「(お前には消えてもらう)」
迷いを振り払い、ドレイクは駆けだした。
次の獲物を殺す為に。




