猛暑の後で
話を終えたアーシャ達は、レーザー通信機を展開していた。
フィリアの力も借りて高濃度の粒子の影響を和らげ、オセロットへと連絡する。
「ま、そういう訳で、こっちはコマンダーの予想通りだ、そっちの方はどうだ?」
『どうも何も、サウナ通り越してオーブン状態だ』
「……そうか」
息を飲んだアーシャは、コロニーの中でも特に形の残っている場所を目にする。
「シェルター区画は、そんなに」
オブラートに包んでくれても、胸の奥がむかついた。
だが、当然の報いだと割り切った。
『後は報告書にまとめる、お前達は先に帰投しろ』
「押忍、通信終わり」
マニュアル通りのセリフと共に、アーシャは通信を終了。
機材も片づけ、帰投を開始する。
「さて、さっさと帰るか」
「おう」
「はい」
現状の熱さから逃れるように、アーシャ達は急ぎ足でコロニーの残骸から飛び出る。
おかげで不快な熱さから解放され、アーシャとサーバルはヘルメットを脱ぐ。
「プハ!あっつ!」
「やっと解放されたぜ」
「……」
ヘルメットを取った事で、滝のように汗をかくアーシャとサーバルの顔が現れた。
早速水分補給も開始し、ゆっくり母艦を目指す。
そして、襟部分に指を入れ、少しでも外の空気と入れ替えながらフィリアを見下ろす。
「はぁ、フィリアも、随分汗かいちまったな」
「つか、フィリアも汗かくんだな」
「……は、はい」
「ん?」
最近いつも横にくっ付いて来る筈のフィリアは、今回は何故か距離を取っている。
彼女の態度に、アーシャは逆に距離を詰めた。
「どうした?」
「そ、その、あんまり、近づかないでください、お、思ったより、発汗量が」
改めて見てみると、フィリアが着ている服は全体的に汗で湿っている。
だが、それは全員同じ事だ。
「気にするなよ、私だって同じような物だ」
「ちょ、本当に嫌なんですって!」
顔をニヤつかせたアーシャは、フィリアにちょっかいをかけ続けた。
フィリアに物理的にも拒絶された辺りで、アーシャの頭に鉄拳が下りる。
「コラ!」
「うげ!」
「やり過ぎだ、ケフュレスみたいだったぞ」
「え」
静止してきたサーバルの言葉に、アーシャは硬直した。
冷静に思い返してみると、ケフュレスのような変態発言に近い事に気付く。
おかげで、アーシャは土下座する。
「すまんフィリア!」
「こ、今後は気を付けてくださいよ」
「全く、ほら、さっさとシャワー室行こうぜ」
サーバルの先導で、アーシャ達は移動を再開した。
――――――
その頃。
外でサラマンダーの整備をするケフュレスは、目を見開きながら休憩していた。
「……」
「ケフュレス、おい!」
「おふ」
レイブンに肩を叩かれた事で、ケフュレスは我に返って目を閉ざす。
ゆっくりと彼の方を向き、思わず鼻で笑ってしまう。
「……プ」
「会って早々何だ」
「いや、眼鏡、似合わない」
「……」
笑いをこらえるケフュレスは、その理由を告げた。
そのせいで、レイブンの顔はかなり曇る。
「俺だって好きでかけているんじゃない」
「ま、フィリアちゃんにドン引きされちゃったみたいだしねー、しょーがないか」
「何で知ってるんだ!?」
いじった事で、レイブンの顔は真っ赤に染まった。
雷鳴のような怒鳴り声に耳を塞ぐも、頭の中で音が響く。
「……そんな事より、サラマンダーの調子はどうだ?」
「あはは、コンピューター関連は治ったから、後はほっとけば自然に治るよ」
「……改めて、化け物だな」
「そうでも無いよ、一応、生きてるんだから」
そう言いながら、ケフュレスはサラマンダーの装甲を撫でる。
熱さは既に収まり、しばらく触れて居られる程だ。
「もし自我があっても、しばらくは封印だ、毎度こんな事になっては敵わん」
「そうだけどねー、案外、すぐに使う事になるかもよ」
「……その時は、またコマンダーの判断に従うまでだ、この災害級の攻撃が必要な時にな」
「災害級、ねー」
ほほ笑むケフュレスは、少しだけ目を開ける。
レイブンの視点では災害級と言う話だが、ケフュレスは一旦深呼吸する。
認識を改め、クレーターをもう一度見る。
「(……魔王城での最後の戦い)」
ケフュレスの脳裏を過ぎるのは、魔王と勇者との戦い。
サラマンダーの兄弟である他の機体達が一丸となって戦った結果を、ケフュレスは思い出す。
「(目の前の奴なんて、当時とは比べ物にならない位小規模なんだよね……ん?)」
そう考えていると、ケフュレスはコロニー上部に違和感を覚えた。
目をこらして見つめると、溜息を零しながら立ち上がる。
「やれやれ、来てるなら言えばいいのに」
「誰が来たって?」
「……ちょっと、因縁浅からぬ人、かな?」
「全く、貴様は昔からよくわからん……俺は、戻るぞ」
「はいはーい、頑張ってねー」
レイブンの事を見送ったケフュレスは、再び目を見張る。
空の歪みは無くなったが、一先ず手を振った。
「やっぱ凄いねー、シルフィードのステルス能力は」




