サラマンダー
『魔水銃・霧雨!』
『ロックバスター!』
どんどん近づいて来るサイクロプスへ向けて、オセロットとラケルタは魔法を放った。
巨大な水の塊と、岩石達による攻撃。
アーマードナイトの機能で強化されているが、数体にダメージを与える程度。
巨人たちの進軍は止まらない。
『クソ、ライトニング2、もう限界だ!』
『解っている、だが、もう少しで』
アーシャ達は撤退したが、二人はレッドの到着を待ってシンガリを最後まで引き受けた。
オセロットがレッドの姿を思い浮かべると、大気の温度が急に上がりだす。
『ッ、このメーターの上がり方、来たか!』
『遅いぞ!』
二人が後方を振り向くと、火球が物凄い勢いで接近してきた。
その正体に気付くなり、二人は下がる。
オセロット達の前が爆散し、凄まじい熱波で巻き上げられた砂がかき分けられる。
『……』
「あ、が、あがが」
しかし、オセロット達の目に飛び込んで来たのは、上半身が埋まったサラマンダー。
出ている足だけをピクピクと動かすと、すぐに起き上がる。
「あたた、これじゃ恰好つかないだろ」
『レッド!本当に大丈夫なんだろうな!?幸先悪すぎだろ!!』
「仕方ねぇだろ!とんでもないじゃじゃ馬なんだからよ!!」
『喧嘩してる場合じゃないぞ!もう来ている!!』
「ッ!」
ラケルタの言葉に反応したレッドは、接近してくるサイクロプスを睨む。
既に大型のメイスが振りかぶられ、攻撃の一歩手前だ。
「チ!」
舌打ちと共に手を突きだし、サイクロプスの腕を掴んだ。
衝撃で地面は陥没し、サラマンダーの左腕もきしむ。
「クソ、パワーが上がらない!どうなっている!?」
視界のメーターは振り切れたままだが、体感的にパワーが上がっていない。
文句を垂れながらも腕を掃い、レッドは打撃攻撃を開始。
拳を何度も繰り出すが、全て盾で防がれてしまう。
「どうした!?お前の力は、そんな物じゃないだろ!?」
サラマンダーへの文句を更に吐き出すと、他のサイクロプスが接近。
一気に三体を相手にする事になり、レッドはすぐに操縦桿を力いっぱい操る。
「チクショウ!反応も、何でだ!?」
レッドの操縦にサラマンダーは追従しきれておらず、反撃に移れない。
攻撃こそ防げているものの、劣勢に陥り、メイスの一撃を受ける。
「グ、ガハッ!!」
衝撃がレッドにまで伝わり、サラマンダーはノックアウトした。
砂に仰向けで倒れ込み、コックピット内は激しく揺れる。
「……どうなってんだ?寝ぼけてんなら、さっさと起きろ!クソトカゲが!!」
青筋を浮かべたレッドは、モニターを殴りつけた。
すると、レッドの身体が熱くなる。
「ッ!……え?」
眼前のモニターに『プロメテウス』と表記されると、モニターは全て暗転。
同時にシートが変形を開始し、操縦桿が格納され、更に身体が固定される。
「おい、何だよこれッ!?」
すると、暗転していたレッドの視界は明るくなった。
目の前にサイクロプスが現れ、その奥には空が広がる。
「ギ!」
それと同時に、レッドがとろうとした行動をサラマンダーがとる。
「……グ、が」
次々と情報が頭の中に入り込み、頭痛に伴って鼻血が流れだす。
そして、レッドは笑みを浮かべた。
「そういう、事か!」
メイスを勢いよく引き、サイクロプスへ蹴りを入れた。
その衝撃でサイクロプスの腕は千切れ、本体は後方へと吹き飛ぶ。
「……舐めるなよ、テメェら」
舌なめずりをしたレッドは、機体をゆっくりと起こす。
完全に直立するとロックが外れる音が響き、サラマンダーの頭部が変形。
二本の角が生え、口と呼べる物が出現する。
「ここからが、本番だ!!」
『グヲオオオオオ!!』
レッドの叫びに合わせるように、サラマンダーの咆哮が響き渡った。
両腕が燃え上がり、口内からも火の粉が漏れ出る。
そして、砂の大地を蹴り飛ばす。
「行くぜ!」
弾丸のように間合いを詰めて行き、燃える拳を固く握り締める。
サイクロプスの口内より放たれるビーム砲は、全て寸前で回避。
先ほどまで殴り合っていた三機に接近し、拳を繰り出す。
「ウォラ!!」
放たれた拳はサイクロプスの盾を破壊し、胴体さえも貫いた。
腹部に風穴が開こうと、サイクロプスは一歩踏み出し、メイスを振りかぶる。
「ハアアア!」
振り下ろされる前にアッパーを繰り出し、サイクロプスの頭部を破壊する。
血に塗れ、燃えている拳をレッドは目にした。
「……は、はは」
一度手を開き、また握り締める。
レッドは歪んだ笑みを浮かべ、二体のサイクロプスへ燃える拳を繰り出す。
「そうだ、これだ!」
腕を掴んでメイスの攻撃を受け止めると、次は容易に押し返す。
更に打撃を繰り出してサイクロプスを焼き殺し、背後から迫る個体にも反応。
紙一重で攻撃を回避し、奪ったメイスによって叩き潰した。
「俺が求めていたのは、この熱さだ!!」
更に熱気を増したサラマンダーを駆り、レッドはサイクロプスの群れへと駆けだす。
機体の周囲に陽炎が発生し、一歩進むごとに各所の関節から炎が噴き出る。
より燃え上がるサラマンダーは、サイクロプスの群れの中央を殴りつけた。
「ウヲオオオ!!」
その瞬間、サラマンダーの周囲に炎の嵐が吹き荒れた。
爆心地に居た個体は蒸発し、その周囲のサイクロプスは身体を燃やされる。
機体内部の温度も、息をするだけで肺が焼けそうな程に上がった。
だが、レッドはその事に気付かない。
「これで!」
まき散らされていたパーティクル粒子は、サラマンダーの口内へと収束。
膨大な炎を口内に蓄えたまま下がり、限界まで口を開く。
「吹き飛べぇぇ!!」
収束していた炎が放出され、まるでレーザーのように全てを貫く。
生き残りのサイクロプスは、全て焼き尽くされた。
機体温度は更に高まり、ヘルメットのコンピューターがショートする。
「ハハハ!スゲェ!これだけやっても疲れねぇ!もっと、もっと熱くたぎる!!」
関節部は常に燃え上がりだし、センサーアイも禍々しく赤く染まる。
コックピット内の温度も異常なまでに上昇し、温度計までもが降り切れた。
だが、その室温に気付く事無く、レッドは八脚の街区の気配を感じ取る。
「……そこだ、次の獲物はお前か……ハハ、そうだ、全部焼き尽くす!!」
レッドの目は敵だけを捉え、守るべき味方さえ見えていない。
移動する方法は、すぐに頭に浮かんだ。
そして、無意識に口にする。
「サラマンダー・ウィング!」
背中に生んだ炎の翼を羽ばたかせ、レッドは街区へと向かった。
味方さえ焼き殺しかねない熱波を放ちながら。
――――――
その頃。
撤退したフィリアはアーシャを介護しつつ、ケフュレスと戦いを眺めていた。
「……あ、あれが、メサイアシリーズ、けど、あれは」
冷や汗をかくフィリアは、指で作った輪を見つめるケフュレスへ目を向けた。
いつもの糸目ではなく、マジメな時に見せる銀色の瞳を輝かせている。
「普通じゃない、でしょ?」
「は、はい(このままじゃ、レッドさんが焼け死ぬぞ)」
「うーん、レッド君なら大丈夫だと思ったんだけど……飲まれちゃったか」
「飲ま、れる?」
ケフュレスの発言に、フィリアは首を傾げた。
少し黙ったケフュレスは、指を戻す。
「そ、とりあえず、アーシャちゃんのヘルメットは脱がさないで、今のアイツの獲物は、タイタン族だから」
「は、はいっ!」
銀色の瞳を向けて来るケフュレスの指示に、フィリアはすぐに従った。
まだショックで固まるアーシャにヘルメットを被せ、息を荒くしながらサラマンダーを見る。
「(下手をしたら、マスターの命まで狙われる)」
「早く艦内に逃げて、少しでもアーシャちゃんを遠ざけて」
「分かりました!」
吹き荒れる熱風を身に受けながら、フィリアは急いでアーシャを抱え上げた。
そして、ケフュレスを視界に収める。
「……コマンダーに避難指示の提案しないと、皆焼け死ぬな、これ」
「(い、一体、何が起こるんだよ)」
ケフュレスの言葉を耳に挟みながら、フィリアはアーシャを連れて艦内へ退避した。




